こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。技術流出シリーズの2回目です。
前回は流出経路を7つに分解して地図を作りました。今回はそのうち「人」だけを取り出します。前回、私は最初に着手すべきは人の入口だと書きました。理由は単純で、機材は入れ替えられてもAIの権限は絞れても、重要技術に触れた人の記憶だけは回収できないからです。
ここで扱うのは、採用・配属・在職・退職という4つの局面です。多くの組織ではこの4つが別々の部署の仕事になっていて、つながっていません。つなぐための法的な軸は2本あります。外為法の「みなし輸出」と、不正競争防止法の「営業秘密」です。この2本を押さえると、どこまでが義務でどこからが自主的な取り組みかが切り分けられます。
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「人」の経路は点ではなく線である
技術流出の対策を人事施策として語ると、たいてい「退職時の誓約書」の話に着地します。それが悪いわけではありません。ただ、退職の瞬間だけを見ていると、決定的な問いに答えられなくなります。
その人は、いつから、どの技術に、どこまで触れられたのか。
この問いに答えられない組織は、退職時に何を回収すべきかも分かりません。誓約書に「当社の営業秘密を漏らさない」と書いても、何が営業秘密として管理されていたのかを示せなければ、後で争いになったときに立証できません。だから対策は退職時ではなく、採用の時点から始まります。
局面ごとに、法的な位置づけを並べるとこうなります。
| 局面 | 主に効く法令 | 何を確認・記録するか | 性質 |
|---|---|---|---|
| 採用 | 外為法(みなし輸出) | 特定類型に該当するか、重要技術を扱う職務か | 該当すれば法的義務 |
| 配属 | ―(自主的取り組み) | 重要技術を扱う部署への適性確認 | ガイダンス推奨 |
| 在職 | 外為法・不正競争防止法 | 技術提供の記録、アクセス権と秘密管理 | 義務+管理実務 |
| 退職 | 不正競争防止法 | 持ち出しの防止、秘密保持・競業避止の契約 | 契約と立証準備 |
以下、順に見ていきます。
入口:みなし輸出は「国内だから関係ない」が通じない
輸出管理というと国境を越える話に聞こえますが、外為法では国内であっても非居住者への技術提供は輸出とみなされます。ここまでは以前から知られていました。
変わったのは2021年です。令和3年11月18日に通達が公布され、令和4年5月1日に施行されました1。居住者のうち、類型的に非居住者の非常に強い影響下にある人を「特定類型」と定め、その人への技術提供を非居住者への提供とみなして管理対象に加える、という明確化です2。
特定類型は3つに整理されています2。
- 外国政府等の支配下にある者
- 日本国内において外国政府等の指示の下に行動する者
- 経済的利益に基づき外国政府等の支配下にある者
該当性の判断の考え方は「特定類型の該当性の判断に係るガイドライン」(役務通達 別紙1-3)に示されており2、経産省はQ&Aも公表しています(令和5年8月8日改訂)3。新たに雇用される従業員向けの説明資料まで用意されているのは4、これが採用の時点で確認すべき事項だという整理の表れでしょう。
ここで誤解されやすい点を1つ。**国籍を理由に採否を決めることと、輸出管理上の確認を行うことは別です。**確認するのは在留資格や所属、外国政府等との関係といった特定類型の該当性であり、重要技術を扱う職務に就く場合の手続きです。目的と範囲を明示し、職務との関連性の中で行う。これを曖昧にしたまま「外国籍だから」で運用すると、輸出管理としても人事としても筋が悪くなります。
大学や研究機関の実務は事情が異なる部分があり、研究インテグリティとみなし輸出の記事で別途整理しています。ソフトウェア企業の場合はSaaS・ソフトウェア企業の輸出管理も参考になるはずです。
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経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
中間:配属と在職中に、記録を残せているか
採用の確認を通過した後、次は配属です。経済産業省の技術流出対策ガイダンス第2版(2026年4月)は、重要技術を扱う部署への配属時の適性確認を新たに挙げています5。これは法的義務ではなく、自主的な取り組みとして推奨されている領域です。
在職中に効いてくるのは、地味ですがアクセスの記録です。誰がいつどの情報に触れたか。技術提供が発生したなら、それは誰から誰へ、どの技術についてだったか。
この記録が要る理由は2つあります。1つは、みなし輸出の許可が必要だった場合に、手続きを踏んだ証拠が必要になるから。もう1つは、不正競争防止法で営業秘密として保護されるための要件を満たすためです。
営業秘密として保護されるには、3つの要件をすべて満たす必要があります6。
- 秘密管理性:秘密として管理されていること
- 有用性:事業活動に有用な技術上・営業上の情報であること
- 非公知性:公然と知られていないこと
実務で最も落ちやすいのが秘密管理性です。「重要な情報だから当然に守られる」わけではありません。アクセス制限がかかっていたか、秘密である旨が示されていたか、といった管理の実態が問われます。経産省の営業秘密管理指針は令和7年3月31日に最終改訂されており7、秘密管理性の考え方が整理されています。
正直に言うと、この部分は多くの組織で形骸化しています。フォルダに「機密」と名前を付けただけで、実際には全社員が閲覧できる状態になっている、という例を私は何度も見てきました。退職者と争いになってから慌てて管理実態を証明しようとしても、後付けはできません。
出口:契約は最後の砦であって、最初の砦ではない
退職時の対策として真っ先に挙がるのが、秘密保持契約と競業避止義務契約です。技術流出対策ガイダンス第2版も、退職後の技術流出を防ぐ手段として競業避止義務契約の活用を挙げています5。
ただし、競業避止義務契約は万能ではありません。職業選択の自由との関係で有効性が争われやすく、経産省の「秘密情報の保護ハンドブック」でも、参考資料として競業避止義務契約の有効性が論点として整理されています8。無制限に縛れるものではない、というのが実務の前提です。
同ハンドブックが示しているのは、退職時だけでなく入社時やプロジェクト開始時にも秘密保持契約を締結し、キーパーソンについては競業避止義務契約の締結も検討するという考え方です8。つまり出口だけで対処しようとしない、ということです。
退職者をめぐる争いが実際にどう展開するかは、退職者の技術流出対策の記事で具体的な事案をもとに書きました。あわせて読んでいただくと、契約の限界と記録の重要性がつながると思います。
4つの局面を、1枚の台帳にまとめる
ここまでを実務に落とすと、やることは1つです。採用・配属・在職・退職を、人単位で1枚に集約する。
具体的には、次の項目が同じ場所で引ける状態を作ります。
- 特定類型の該当性の確認結果と、確認した日付・根拠
- その人が触れられる重要技術の範囲(配属と権限)
- 技術提供が発生した場合の記録(相手・技術・日付・許可の要否)
- 秘密保持契約と、該当する場合は競業避止義務契約の締結状況
- 退職時のアクセス権剥奪と、返却・削除の確認
分けて持つと、退職時に「この人は何を知っていたのか」を再構成できません。私の実感では、ここを一元化できているかどうかが、体制として機能しているかの分かれ目です。
そして、この作業は輸出管理でやっている照合と本質的に同じです。相手が誰で、どの資本や政府の影響下にあり、何が渡るのか。参照する情報源も判断の型も重なります。
私たちのTRAFEEDは輸出管理の該非判定と取引先スクリーニングのために作ったAIエージェントですが、各国の規制リストを横断して照合し、資本関係をたどり、判定の根拠を記録として残すという中身は、人の受け入れを確認する作業と地続きです。判断の根拠が記録として残ることが、技術流出対策としては効きます。あとから「なぜその判断をしたのか」を説明できる状態が作れるからです。
判定精度は95%以上(岡山大学との共同実証・自社調べ)、判定手法は特許(特許第7862062号)を取得しており、20を超える組織で使われています。念のため申し添えると、最終判定は貴社の輸出管理責任者が行うもので、AIは材料と根拠を揃える役割です。詳細はTRAFEEDのページにまとめています。
社内で体制を議論するための資料: TRAFEEDが何を照合し、どこまで自動化し、どこから人が判断するのかを整理したサービスカタログを配布しています。輸出管理の担当部門だけでなく、人事・法務・情報システムに「人の局面は4つある」という前提を共有する資料としてもお使いいただけます。→ TRAFEEDサービスカタログをダウンロード(無料。会社名とお勤め先のメールアドレスのご登録が必要です)
まとめと、次回
- 「人」の対策は退職時ではなく採用から始まる。4局面を線でつなぐ
- みなし輸出は令和4年5月1日施行で、居住者でも特定類型①〜③に該当すれば管理対象12
- 国籍を理由とする判断と、輸出管理上の確認は別のものとして運用する
- 営業秘密の保護には3要件が必要で、実務で落ちやすいのは秘密管理性67
- 競業避止義務契約は最後の砦。入社時・プロジェクト開始時からの契約と記録が先8
最終回では、7つの経路すべてに対する対策を組織としてどう組み立てるかを書きました。誰が旗を振るか、どこから予算をつけるか、AIエージェントとロボットをどう台帳に載せるかまで、順序を決めて整理しています。
- 第3回: 技術流出対策を組織にどう実装するか
- 第1回に戻る: 技術流出はどこから起きるのか
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参考文献
Footnotes
-
経済産業省 貿易管理部 安全保障貿易管理課「みなし輸出管理の運用明確化について」(令和3年11月18日公布、令和4年5月1日施行). https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/minashi/meikakukanitsuite2.pdf ↩ ↩2
-
経済産業省「安全保障貿易管理 みなし輸出管理」(特定類型①〜③、役務通達 別紙1-3). https://www.meti.go.jp/policy/anpo/anpo07.html ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
経済産業省「『みなし輸出』管理の明確化に関するQ&A」(令和5年8月8日改訂). https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/minashi/minashiqa3.pdf ↩
-
経済産業省 貿易管理部「『みなし輸出』管理の明確化について(新たに雇用される従業員の方へ)」(令和3年11月). https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/minashi/jp_kigyou.pdf ↩
-
経済産業省 貿易経済安全保障局 技術調査・流出対策室「技術流出対策ガイダンス 第2版」(2026年4月27日公表). https://www.meti.go.jp/press/2026/04/20260427002/20260427002-1.pdf ↩ ↩2
-
経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」(営業秘密の3要件). https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html ↩ ↩2
-
経済産業省「営業秘密管理指針」(平成15年1月30日策定、最終改訂 令和7年3月31日). https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/r7ts.pdf ↩ ↩2
-
経済産業省 知的財産政策室「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」(平成28年2月策定、最終改訂 令和6年2月). https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf ↩ ↩2 ↩3






