TRAFEED

外国干渉防止法と対外情報収集法は何を変えるのか|自民党「情報防衛力」提言の三本柱

公開2026-08-15濱本 隆太

2026年8月5日、自民党インテリジェンス戦略本部が第二次提言「我が国の『情報防衛力』の強化に向けて」をまとめました。抑止(外国干渉防止法)、収集(対外情報収集法とヒューミント・シギント・ジオイント・オシント)、監督(議会監視と独立監察)の三本柱を、法令原文と提言原文から読み解きます。

外国干渉防止法と対外情報収集法は何を変えるのか|自民党「情報防衛力」提言の三本柱
シェア

こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

2026年7月31日、国家情報局が発足しました。報道の見出しには「日本に情報機関が誕生」といった言葉が並びましたが、条文を開いてみると、印象はかなり変わります。あれは新しい組織をゼロから作った話ではありません。内閣情報調査室という既にあった組織を、法律上の位置づけごと引き上げた話です。

そして本番は、まだ来ていません。8月5日、自民党インテリジェンス戦略本部が第二次提言をまとめました。表題は「我が国の『情報防衛力』の強化に向けて 開かれた社会を、隠れた工作から守る」1。ここに、これから国会に出てくるであろう法律の輪郭が書かれています。外国干渉防止法、対外情報収集法、そして議会による監視。今回はこの提言を、法令の原文と突き合わせながら読んでいきます。

輸出管理や取引先審査を担当されている方には、他人事の話ではありません。理由は記事の後半で書きます。

「新設」ではなく「格上げ」だった。条文を並べるとわかる

まず、7月31日に何が起きたのかを正確に押さえておきます。ここを誤解したまま次の議論に進むと、提言の意味も読み違えます。

根拠法は国家情報会議設置法(令和8年法律第28号)です。2026年5月27日に参議院本会議で成立し、6月3日に公布、7月31日に施行されました2。この法律の本体は国家情報会議という閣僚級の会議を内閣に置くことですが、実務上のインパクトが大きいのは附則による内閣法の改正のほうです。

改正前の内閣法第19条は、こう書かれていました。

内閣官房に、内閣情報官一人を置く。2 内閣情報官は、内閣官房長官、内閣官房副長官及び内閣危機管理監を助け、第十二条第二項第二号から第五号までに掲げる事務のうち特定秘密…の保護に関するもの…及び第十二条第二項第六号に掲げる事務を掌理する。

「官」を一人置く、という規定です。組織としての「局」は内閣法に書かれていませんでした。内閣情報調査室の設置根拠は政令である内閣官房組織令のほうにあり、法律に名前があるのは長である内閣情報官だけ、という構造だったわけです。

改正後は、第16条の2として次の規定が入りました。

内閣官房に、国家情報局を置く。…3 国家情報局に、国家情報局長を置く。4 国家情報局長は、内閣官房長官及び内閣官房副長官を助け、命を受けて局務を掌理する。

変わった点は三つあります。第一に、組織そのものが法律に書かれました。第二に、局長の職務規定が「内閣官房長官及び内閣官房副長官を助け、命を受けて局務を掌理する」となり、これは国家安全保障局長を定める第16条第4項と一字一句同じ文言です。旧規定にあった「及び内閣危機管理監を助け」が消えている点も見逃せません。第三に、条の置き場所が第19条から第16条の2へ移りました。国家安全保障局の規定のすぐ後ろです。法律の条文の並び順は、その組織が政府の中でどこに位置づけられているかを静かに示します。

つまり今回の改正は、政策部門の司令塔である国家安全保障局と、情報部門の司令塔を、条文の上で同格に揃える作業でした。2025年10月20日の自由民主党と日本維新の会の連立政権合意書にも、「安全保障領域における政策部門及び情報部門を同列とするため、『国家情報局』及び『国家情報局長』は、『国家安全保障局』及び『国家安全保障局長』と同格とする」と明記されています3

もうひとつ、地味ですが決定的な条文があります。設置法第7条です。

内閣官房長官及び関係行政機関の長は、会議の定めるところにより、会議に対し、…資料又は情報であって、会議の調査審議に資するものを、適時に提供するものとする。2 前項に定めるもののほか、内閣官房長官及び関係行政機関の長は、議長の求めに応じて、…資料又は情報の提供及び説明その他必要な協力を行わなければならない。

なぜこれが大きいのか。従来の内閣情報調査室には、各省庁に情報提供を求める法的な権限がなかったからです。2005年4月の衆議院安全保障委員会で、政府参考人は「関係省庁に対して情報提供を求めることを法的な権限として明確に規定したものはないが、閣議決定により、各省庁は緊急事態が発生するおそれのある情報等を把握した場合には内閣情報調査室に直ちに報告することとされている」と答弁しています4。閣議決定に基づくお願いだったものが、法律上の義務になりました。

日本大学の小谷賢教授は、7月29日のBS11「インサイドOUT」でこの点をこう説明しています。「これまでは各省庁さんにお願いベースで上げてくださいと言ってたのが、今回からちゃんと法律で必要があれば、協力を求めることができるということになっております」5。同じ番組で、自民党インテリジェンス戦略本部事務局長の塩崎彰久衆議院議員は、会議どうしの役割分担を「国家情報会議が地図を提供して、国家安全保障会議が進路を決める」と表現していました。地図を描く側に、材料を集める権限がようやく付いた、という理解でよいと思います。

ちなみに、この種の「格上げ」は今回が初めてではありません。内閣情報調査室の源流は1952年の内閣総理大臣官房調査室で、1957年に内閣調査室、1986年に内閣情報調査室と改称され、2001年には室長が内閣情報官へ引き上げられています6。25年ぶりの2度目の格上げ、というのが正確な位置づけです。組織の中身や人員が一夜で変わったわけではありません。発足時点の体制や事務の一元化の仕組みについては、国家情報局と産業スパイ対策の解説記事で条文に沿って整理しています。

自社の輸出管理体制がこうした制度変更に耐えられるかを手早く確認したい方は、3分でできる輸出管理チェックから現在地を測っておくと、この後の話が具体的に感じられるはずです。

該非判定の属人化を、AIで解消する。

経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。

なぜ今だったのか。東京の一室から部品が流れていたという報道

制度の話に入る前に、その背中を押した出来事に触れておきます。

2026年7月12日、ニューヨーク・タイムズが「How Putin Turned Japan Into a Den of Spies」と題する調査報道を掲載しました7。ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の第20局と呼ばれる部署が、東京を拠点に軍民両用の電子部品や工作機械を調達していたとする内容です。中心人物とされたのは、ロシアの航空会社アエロフロートの東京事務所の従業員という身分で活動していた人物でした。調達した物品は直接ロシアへ送るのではなく、ベトナム、中国、スリランカ、ウズベキスタンなど、ロシアとの取引を続けている第三国を経由して再輸出されていたと報じられています。報道の11日後、同紙はこの人物が日本を出国したと続報しました8

念のため書いておきますが、これは報道の内容であって、日本の当局が事実として確認したものではありません。個人や企業の犯罪を断定できる段階の話ではないという前提で読む必要があります。

それでも、この報道が永田町と霞が関に与えた衝撃は大きかったようです。塩崎議員は番組で「もし報道が事実だとすればですね、これは極めて重大な事案だ」と述べたうえで、「海外では違法なものが、日本では取り締まることすらできない」というギャップが以前から指摘されてきたと語っています。

小谷教授の説明は、より実務的でした。大使館に外交官の肩書きで駐在する人物は警察や公安調査庁が監視している。しかし民間企業の肩書きで滞在している場合、そもそも見つけようがない。仮に把握できたとしても、日本にはスパイ行為そのものを処罰する法律がないため、「スパイという理由だけでは捕まえることができない」。動くとすれば密輸や外為法違反といった別件になる、と。監視の手法も尾行が中心で、一人を追うのに五人から十人が必要になるといいます。

ここで、輸出管理の担当者にとって他人事ではなくなります。ウクライナ政府は、ロシアのミサイルや無人機のおよそ9割に日本製部品が使われていると推計しているとされます7。誤解のないように申し添えますが、これは日本のメーカーが問題を起こしたという話ではありません。正規の民生品として売られたものが、第三国の商社を何段か経由するうちに用途を偽られ、最終的に兵器へ入っていく。売り手からは見えにくい経路です。むしろメーカーは欺かれた側であり、だからこそ取引先の実体を確認する仕組みが要る、という話になります。この構造については日本製部品の迂回輸出とレッドフラグの記事で詳しく書きました。

抑止、収集、監督。8月5日の提言が示した三本柱

そして8月5日、自民党インテリジェンス戦略本部の第二次提言が政務調査会審議会で了承されました。本部長は小林鷹之政務調査会長、事務局長が塩崎議員です。

提言はまず、言葉の定義から入ります。

情報防衛力とは、国民を監視するための力ではない。外国勢力による隠れた工作から、国民の自由な判断と民主主義の公正を守るための力である。1

そのうえで、抑止、収集、監督の三本柱を「不可分一体」で設計すべきだとしています。順に見ていきます。

一本目の抑止。その中核が、外国干渉防止法(仮称)です。中身は二階建てになっていて、外国代理人の登録等義務によって代理活動を透明化する部分と、不正な干渉行為に刑事罰を科す部分を、一体で整備するとしています。なぜ両方なのか。「登録・罰則のいずれか一方のみでは実効性を欠く」という諸外国の教訓が根拠に挙げられていました。登録の管理は、制度の中立性と実効性の観点から国家公安委員会が担うことが考えられる、と書かれています。参考として並ぶのは、米国のFARA(1938年)、英国の国家安全保障法2023(登録制度FIRSと外国干渉罪。2025年7月施行)、豪州のFITSと外国干渉罪(2018年制定、2023年に干渉罪で初の有罪判決)、ニュージーランドの外国干渉対策法(2025年)。

登録と聞くとスパイを名乗り出させる制度のように思えますが、そうではありません。塩崎議員の説明がわかりやすいので引いておきます。「外国代理人登録法っていうのは必ずしもスパイに限定されているわけではないんですね。例えば、正当なロビー活動を行っているような団体でも、外国では登録をする義務があることになります。だから堂々と登録してロビー活動をしていただければ、それは違法でもなんでもない。逆に、登録をしていないでそういう活動をしていると、それはなぜですかということになってくる」。適法な活動を可視化することで、可視化を避ける動きのほうを浮かび上がらせる設計です。

二本目の収集には、二つの法的措置が並びます。ひとつは通信傍受法の対象犯罪に特定秘密保護法違反や外国干渉防止法(仮称)違反を追加すること。もうひとつが対外情報収集法(仮称)で、安全保障目的で外国機関等の活動解明に資する通信情報の収集と利用を可能にする新法です。既に成立しているサイバー対処能力強化法を改正する道と、新法を作る道の双方が検討対象に載っています。

ここが最も議論を呼ぶ論点でしょう。日本国憲法第21条第2項は通信の秘密を侵してはならないと定めており、現行の通信傍受は犯罪捜査のために裁判所の令状を得て行うものに限られています。提言が置いたのは、対象や事態に応じた「行政的承認と独立した司法的関与を前提とする厳格な承認要件」。参考は英国の捜査権限法2016のダブルロック方式です。行政の大臣が令状を出し、それとは別に元裁判官である司法コミッショナーの承認を得る、という二重の関門になっています。対象範囲の限定、保存期間と廃棄、独立機関による事後監査、苦情救済手続も「権限の付与と一体で設計」するとされました。

塩崎議員も番組で、「海外でも、この行政傍受においても、令状を要さずという、何でもやっていいよっていう仕組みには実はなっておりません」と述べたうえで、厳格な手続保障と国民の監督が前提だと語っていました。制度の是非はこれから国会で争われるはずですが、少なくとも提言の段階では、権限だけを先に取る組み立てにはなっていません。

三本目の監督は、議会監視と独立監察の二層構造です。米国は上下両院の情報特別委員会を持ち、最も機微な情報は与野党幹部8人に限って共有します(Gang of Eight)。英国には議会の情報安全保障委員会、豪州には情報・安全保障合同委員会。さらに英国のIPCO(捜査権限コミッショナー事務局)、豪州のIGIS(情報保安監察官)、米国の監察総監といった独立監察機関が、個別の活動の実態まで踏み込んで検証しています。

日本の現状はどうか。衆参両院に情報監視審査会がありますが、監視の対象は特定秘密や重要経済安保情報の指定と解除、適性評価の実施状況などで、情報機関の活動そのものを直接監視する仕組みではありません。提言もこの点を認め、監視対象を行政と予算にまで広げることを視野に、本部として具体設計を行うとしています。独立監察については、サイバー対処能力強化法に基づき2026年4月に設置されたサイバー通信情報監理委員会のような合議体の行政委員会を置くことが有力な選択肢だ、と書かれています。国内に既に一つ、参考にできる型がある状態です。

輸出管理と取引先審査を扱う立場から見ると、三本柱のうち抑止と収集が動いた時点で、企業側に降りてくる要求も確実に変わるはずです。制度論と現場の実務は地続きで、TRAFEEDのサービスページで扱っている経済安全保障の話ともそのままつながります。

ヒューミント、シギント、ジオイント、オシント。四つの目と耳

収集の話をもう少し噛み砕いておきます。提言はインテリジェンスを四つの手段に整理していて、この分類を知っておくと報道の読み方が変わります。

ヒューミント(HUMINT)は人を通じて得る情報です。現地の当局者や関係者と関係を築き、対話から取る。地味ですが、相手の意図という、機械では取れないものを取れるのが強みです。日本では外務省に置かれた国際テロ情報収集ユニット(CTU-J)が海外での情報収集に従事していますが、対象はテロ関連に限られています。提言は将来的な対外情報庁(仮称)の設置を視野に、要員の安全確保のための措置を検討するとしています。

対外情報庁については、連立政権合意書で令和9年度末までの創設が掲げられました。提言は組織形態について、政策部門からの独立を確保しつつ外交上の資産を使える形として、外務大臣の監督の下の独立の外局とすることが有力な選択肢だとしています。英国のSIS(通称MI6)や豪州のASISが外務大臣の所管でありながら作戦上の独立を保っている構造が念頭にあります。

ただ、器を作れば動くという話ではありません。小谷教授は番組で、CTU-Jの任務は現地の治安機関から情報を受け取ることが基本で、自ら組織に潜入するようなことはしていないと述べ、「身分の偽装とか、通信傍受とか、情報協力者の身辺警護とか、そういうところを解決しない限りは、結局現在のCTU-Jの延長で活動せざるを得ない」と指摘しています。機能するまでには人材育成を含めて10年単位だ、とも。塩崎議員自身、CIA本部を訪問した際の話として、壁に刻まれた殉職者の星のうち、いくつかは名前が空欄になっていた、死後も身分を明かせない隊員がいるのだと聞いた、というエピソードを語っていました。踏み込むほど、守るべきものが増えます。

シギント(SIGINT)は通信や電波、電子信号を収集して分析するもの。提言は四つのなかでシギントを最優先に置いています。第一次提言では、同志国の情報関係者の言葉として「ヒューミントは、強力なシギントがあってこそ機能する」「シギントで大まかな当たりをつけた上で、どうしても足りないピースをヒューミントで埋める」という証言が引かれていました9。前節の対外情報収集法は、この能力を法的に裏づけるための議論です。

ジオイント(GEOINT)は衛星画像や航空写真などの地理空間情報です。日本では内閣衛星情報センターが情報収集衛星を運用しており、令和11年度までに10機体制を構築する目標が置かれています。提言が求めているのは、分析人員を増強して24時間運用を早期に実現すること。ちなみに内閣情報調査室の予算は、その大半がこの衛星部門でした。令和8年度予算で本室が約38.4億円だったのに対し、内閣衛星情報センターは約622.3億円、およそ16倍です6。日本のインテリジェンス投資は、これまで圧倒的に「目」に寄っていたことがわかります。

オシント(OSINT)はSNSや報道、研究機関の報告書など、公開情報から取るものです。かつては補助的な扱いでしたが、生成AIと大規模データ分析が使えるようになったことで位置づけが変わりました。提言は、影響力工作や偽情報は痕跡の多くが公開空間に現れるため、オシントが早期検知と背後主体の特定に大きな力を発揮すると整理しています。そのうえで、政策判断に直結する分析や機微情報との統合は政府が担い、大量の公開情報の収集監視や言語と地域の専門知見は外部の専門機関に委託する、という切り分けを提案しています。政府の内部に閉じない「開かれたオシント基盤」という表現が使われていました。

四つを眺めて私が感じるのは、日本はジオイントには相当な投資をしてきた一方、シギントとヒューミントの法的基盤がほぼ空白のまま来た、という不均衡です。今回の提言は、その空白を埋めにいく設計になっています。

戦後80年の空白と、監督が「前提条件」である理由

日本にかつて対外情報機関がなかったわけではありません。戦前には陸海軍や外務省がそれぞれ情報部門を持っていました。しかし敗戦とともにそれらは解体され、以後80年、国として体系的に情報要員を育てて運用する仕組みは置かれてこなかった。今回の一連の動きは、その空白を埋め直す試みでもあります。

同時に、戦前の記憶があるからこそ慎重であるべきだ、という声も当然あります。小樽商科大学の荻野富士夫名誉教授は「軍機保護法を始めとするスパイ防止法令が、国民を思想選別する判断基準としても機能したこと。こうした歴史は記憶されるべきでしょう」と警鐘を鳴らしています6。一方で小谷教授は、今回検討されている法制は外国のスパイを対象とするものであり、特別高等警察や憲兵隊が行ったような国民弾圧が再現されるおそれはない、という見方を示しています。どちらも一次資料に基づいた真面目な主張で、片方を切り捨てて済む話ではありません。

だからこそ、監督が効くかどうかがすべてだと私は思います。塩崎議員も番組でこう述べています。「厳格な手続保障と、あと監督と書きましたけれども、国民、議会による監視、または独立監察機関による監視によって、その透明性と説明責任を担保していく。この監督っていうのは、様々な能力強化の前提条件だ」。順序として、能力を先に与えて監督を後から考える、では逆になります。

制度設計上の宿題もはっきりしています。実は2014年に衆参の情報監視審査会を設置した際の国会法改正で、附則第3項に「海外の情報を収集することを目的とする行政機関が設置される場合には、国会における当該行政機関の監視の在り方について検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする」という規定が置かれています6。対外情報庁を作るなら、この規定に基づく検討が正面から求められます。宿題は12年前に自ら書いていたわけです。

体力面の懸念も指摘されています。麗澤大学の江崎道朗特任教授は、国家情報局の担当事務が国家情報会議の事務局から対外情報庁の制度設計まで大幅に増える一方、定員増が29名にとどまる点について「これで対応できるのか」と述べています6。日本国際問題研究所の柳淳氏は、格上げそれ自体より情報アクセス権の付与が本質であるとしたうえで、集まった情報を捌く分析官の人数と支援体制を拡充しなければ「情報過多の洪水に溺れてしまう」と指摘しています。器を整えたあとに残るのは、いつも人の問題です。

企業として、いま準備しておけること

最後に実務の話をします。三本柱がそのまま法律になったとき、企業の現場に降りてくる要求は三つの方向で変わります。

ひとつめは、外国代理人登録制度への備え。この制度が入ると、外国政府や外国の団体から委託を受けて国内で行う広報、渉外、調査、コンサルティングの業務が、登録の射程に入りうることになります。スパイ活動をしている会社だけの話ではありません。むしろ普通のPR会社やシンクタンク、法律事務所こそ、契約の相手方は誰か、資金はどこから出ているのかを説明できる状態にしておく必要が出てくるでしょう。海外の顧客との契約書を洗い出し、最終的な依頼主を把握できているか確認する。ここは今日から始められます。

ふたつめは、迂回調達に対する目線の強化です。冒頭の報道が示したのは、第三国の商社を経由して用途を偽られた場合、輸出者からは最終需要者が見えないという構造でした。抑止と収集が強化されるということは、当局が把握した情報をもとに個別の取引が問われる場面が増えるということでもあります。取引先の資本関係と実体を確認した記録、レッドフラグに気づいた際の判断過程を残しておくことの価値は、これまで以上に高くなります。私たちが提供しているTRAFEEDも、該非判定と取引先スクリーニングの過程を記録として残すことに力点を置いていますが、ツールの有無にかかわらず「なぜその取引を通したのか」を後から説明できる形にしておくことが要点です。

みっつめが、情報を扱う人の管理。2025年5月に施行された重要経済安保情報保護活用法によって、政府の重要情報を扱う民間人にも適性評価の仕組みが入りました。国家情報局の発足でインテリジェンス関連の情報流通量が増えれば、政府調達や共同研究を通じてこの制度に触れる企業も増えます。関連する制度の全体像はスパイ防止法と重要経済安保情報保護活用法の解説記事にまとめています。

次に注目すべき節目は三つ。政府が夏に立ち上げるとしていた有識者会議の議論、国家情報会議が取りまとめる国家情報戦略の公表、そして次の通常国会に外国干渉防止法案が出てくるかどうかです。塩崎議員は、各情報機関がばらばらに白書を出すのではなく、日本全体としてどういう優先順位でどう活動していくのかを可能な範囲で国民に説明できるものを作りたい、と語っていました。小谷教授は「諸外国は大変これ今回関心を持っている」と述べています。日本がどこまで具体的に方針を示すかを、同盟国も相手国も見ているということです。

制度が固まってから慌てて対応するより、いま自社の取引と契約の見え方を点検しておくほうが安く済みます。輸出管理や取引先審査の体制づくりで迷われている方は、個別のご相談からお気軽にお声がけください。制度がどう転んでも困らない形を、一緒に考えます。


Footnotes

  1. 自由民主党インテリジェンス戦略本部「我が国の『情報防衛力』の強化に向けて 開かれた社会を、隠れた工作から守る」(2026年8月5日)。要旨 / 本文 / 党の発表 2

  2. 国家情報会議設置法(令和8年法律第28号)(e-Gov法令検索)。内閣法の現行条文も同じくe-Gov(昭和22年法律第5号)。成立時の首相会見は首相官邸(2026年5月27日)

  3. 「自由民主党・日本維新の会 連立政権合意書」(2025年10月20日)。内容は参議院の解説資料(脚注6)に全文が整理されています

  4. 第162回国会衆議院安全保障委員会議録第6号12頁(2005年4月8日)。参議院の解説資料(脚注6)より引用

  5. BS11「インサイドOUT」2026年7月29日放送「日本にスパイ組織誕生!? 国家情報局の実態」(番組アーカイブ)。出演は塩崎彰久衆議院議員、小谷賢日本大学教授。発言はいずれも放送内容から

  6. 柿沼重志・河村健太郎「内閣のインテリジェンス体制の現状と今後の動向」『経済のプリズム』No.252(参議院事務局企画調整室、2026年3月26日)。PDF 2 3 4 5

  7. The New York Times, "How Putin Turned Japan Into a Den of Spies"(2026年7月12日)。記事 2

  8. The New York Times, "A Russian Spy, Suddenly Cast Into the Spotlight, Flees Japan"(2026年7月23日)。記事

  9. 自由民主党政務調査会インテリジェンス戦略本部「我が国のインテリジェンス機能の抜本強化に関する提言」(2026年3月3日)。PDF

本記事は一部にAIを用いて作成し、公開前に人間が一次情報の確認と編集を行っています。

外為法違反の52%は該非判定起因 — 御社は大丈夫ですか?

2024年度の経産省統計で、輸出管理違反の過半が該非判定に起因。まず5問(約2分・メール不要)のライト診断。詳細は10問本編へ。

この記事が参考になったらシェア

シェア

メルマガ登録

AI活用やDXの最新情報を毎週お届けします

ご登録いただいたメールアドレスは、メルマガ配信のみに使用します。

無料診断ツール

輸出管理のリスク、見えていますか?

まず5問(約2分・メール不要)のライト診断。必要なら10問本編で詳細レポートまで。

輸出管理の実務、一緒に整理しませんか

該非判定・取引先調査・法令追随など、現場の運用を伺いながら整理します。まずはお問い合わせフォームから(カレンダー直結ではありません)。

関連記事