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国家情報局と産業スパイ対策をゼロから解説|省庁情報の統合・防止法の整備状況・経済安保シンクタンクとKプログラム(2026年8月時点)

公開2026-08-01濱本 隆太

2026年7月31日、国家情報会議設置法が施行され、内閣情報調査室を改組した国家情報局が発足しました。国家情報会議と国家情報局は何が違うのか、なぜ「産業スパイ対策」の話に企業が関係するのか、省庁の情報はどの条文を通って一元化されるのかを、条文原文と内閣官房の公式説明だけを使って初心者向けに解説します。あわせて、2026年12月16日までに施行される官民協議会・経済安保シンクタンク(改正経済安保推進法 第3条の2〜第3条の4)、Kプログラムの仕組み、いわゆるスパイ防止法の正確な現在地、そして企業が今日から着手できる営業秘密管理までを整理しました。

国家情報局と産業スパイ対策をゼロから解説|省庁情報の統合・防止法の整備状況・経済安保シンクタンクとKプログラム(2026年8月時点)
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株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。2026年7月31日、日本の情報機関の姿が制度上いちど作り直されました。国家情報会議設置法が施行され、内閣情報調査室が国家情報局に改組されています1

報道では海外の情報機関になぞらえた見出しも見かけますが、実務の担当者にとって知りたいのはもっと手前のことだと思います。そもそも国家情報局とは何をする役所なのか。会議と局はどう違うのか。そして、産業スパイ対策という話に自社が関係するとしたら、それは具体的にどの条文の話なのか。

この記事は、そこから始めます。前提知識はいりません。条文と、内閣官房・内閣府が公表している公式資料だけを材料にして、制度の骨格を組み立て直します。「Kプログラムってそもそも何なのか」も、途中で丁寧に扱うつもりです。

先に一点だけお断りしておきます。この記事は特定の国や企業を加害者として名指ししません。国家情報会議設置法第2条は、対処の対象を「外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。)の利益を図る目的で行われるもの」と書いていて、国名を一切特定していません2。条文自体が中立に書かれているので、解説もその線を守ります。そして企業は、この制度において疑われる側ではなく、守る側の当事者です。

まず用語を整理する——「会議」と「局」は別物

最初につまずくのがここです。ニュースでは「国家情報会議」と「国家情報局」がほぼ同じ文脈で出てきますが、まったく別のものです。

内閣官房の説明を、そのまま引きます。

令和8年7月31日に施行された国家情報会議設置法(令和8年法律第28号)は、内閣に、政府が行うインテリジェンス活動の司令塔となる閣僚級会議を設置するもので、この法律の施行前に置かれていた内閣情報会議(事務次官級)の格上げが図られました。また、同法の附則により内閣法(昭和22年法律第5号)が改正され、内閣情報官及び内閣情報調査室を発展的に解消し、同会議の事務局ともなる官邸直属の情報機関として国家情報局が設置されました。1

ここに全部書いてあります。整理するとこうなります。

国家情報会議 国家情報局
性格 閣僚級の会議体 内閣官房に置かれた官邸直属の情報機関
議長・トップ 内閣総理大臣(議長) 国家情報局長
主な役割 インテリジェンス活動の司令塔として調査審議 自ら情報を収集調査し、各省庁の情報を集約して総合分析。会議の事務局も担う
前身 内閣情報会議(事務次官級) 内閣情報調査室(トップは内閣情報官)
根拠 国家情報会議設置法 第2条(設置)・第4条〜第6条(組織) 内閣法第16条の2(同法附則による改正で新設)

あくまで例えですが、会議は「取締役会」、局は「事務局と調査部門を兼ねた常設組織」に近い関係です。会議は非常勤の閣僚が集まって方針を決める場で、常設の実働部隊が局にあたります。実際、国家情報会議設置法第8条第1項は「議長及び議員は、非常勤とする」と定めていて、会議そのものは日常業務をこなす組織ではありません2

そして第12条が、会議と局をつなぐ一文になっています。

会議に関する事務は、国家情報局において処理する。2

会議が決め、局が回す。この構造を頭に入れておくと、あとの話がすべて素直に読めます。

なお公式の英語名称は National Intelligence Bureau、局長は Director, National Intelligence Bureau です3

いつ、どうやって発足したのか

日付の並びが少しややこしいので、時系列で押さえます。

日付 出来事
2026年3月13日 国家情報会議設置法案が第221回国会に提出(内閣官房所管、担当部局は当時の内閣情報調査室)4
2026年6月3日 公布(令和8年法律第28号)2
2026年7月24日 定例閣議で、施行期日政令・関係政令整備政令・国家情報局長人事・既往の閣議決定の整理を同時に決定5
2026年7月31日 施行。同日、第1回国家情報会議を開催678

施行日は法律本体ではなく政令で決まりました。政令第233号の原本は、本則が一文だけです。「国家情報会議設置法の施行期日は、令和八年七月三十一日とする」6。e-Gov法令検索でも、同法の現行版は施行日2026年7月31日として登録されています2

発足そのものは官房長官の記者会見で確認できます。木原官房長官は7月31日午前の会見で「本日、国家情報会議設置法が施行され、これに合わせ、第1回目となる国家情報会議を開催いたしました」と述べました7。第1回の議題は「会議の運営方針・諸規則の制定等について」8。出席者名簿・配布資料・議事要旨は公表されていないので、会議の中身について書けることはありません。

人事も同じ日程です。7月24日の閣議で「原 和也を国家情報局長に任命することについて(決定)」が決定され5、内閣官房の幹部紹介では国家安全保障局長の次に国家情報局長・原和也氏が並んでいます。かつてそこにあった内閣情報官の職名は、一覧から消えました9

何が「格上げ」されたのか——旧体制との差分

「格上げ」という言葉が公式説明に出てきますが、具体的に何が変わったのかを法令ベースで押さえておくと、報道の解像度が一段上がります。

法律の附則と関係政令が、既存の3本を書き換えました。

書き換えられたもの 内容
国家公務員法(附則第2条) 第2条第3項第5号の3の「国家安全保障局長」の下に「及び国家情報局長」を加え、同項第5号の4から「、内閣情報官」を削除。国家情報局長が特別職として国家安全保障局長と並びました10
内閣法(附則第5条) 「第十九条を削る。」で内閣情報官の規定を削除し、旧第19条の2(内閣サイバー官)を第19条に繰り上げ。各所の「内閣広報官及び内閣情報官」等の並びを「国家情報局及び内閣広報官」に改めています10
内閣官房組織令(政令第234号) 第1条中の「四室」を「三室」に改め「内閣情報調査室」を削除。第5条の2として国家情報局次長を新設し、局長を助けて局の事務(内閣衛星情報センターの分を除く)を整理すると定めました11

地味ですが、内閣法の書きぶりの変化は示唆的です。従来は内閣情報官という人の官職名で書かれていた箇所が、国家情報局という組織の名前に置き換わりました。

内部の部門構成も公表されています。国家情報局には、局長のほか次長、特定の地域または分野に関する特に高度な分析に従事する内閣情報分析官8人、そして総務部・分析部・研究部・国内部・国際第一部・国際第二部・経済部の7部と内閣情報集約センターが置かれ、さらに情報収集衛星に関する事務をつかさどる内閣衛星情報センターが置かれています1

ここは読み流さないでください。7部の内訳を見ると、情報を集める部門と並んで、分析部と研究部が名前を持っています。そこに経済部が置かれ、国際は第一部と第二部の2つに分かれています。集めるための部門だけでなく、集めたものを噛み砕く部門が組織図の上に載っている。経済分野が部として立っている。この2点は、あとで述べる「配管」の話と直結します。

なお、旧内閣情報調査室の部門構成と突き合わせて「何が増えたのか」を示したいところですが、旧室の内部組織を掲載していた公式ページは改組に伴って公開が終了しており、内閣官房組織令にも室の部門構成の定めはありませんでした。差分を一次情報で示せないので、ここでは現在公表されている構成だけを書きます。

沿革も公式に整理されています。源流は昭和27年に総理府へ置かれた内閣総理大臣官房調査室で、昭和32年に内閣官房の内閣調査室となり、昭和61年に内閣情報調査室へ改組。平成8年に内閣情報集約センター、平成10年に内閣情報会議の設置と情報収集衛星導入の閣議決定、平成13年に内閣情報調査室長の内閣情報官への格上げと内閣衛星情報センターの設置、平成20年に内閣情報分析官の設置、平成26年に特定秘密保護法の施行、平成27年に国際テロ情報集約室の設置と続き、令和8年の国家情報会議設置法施行に至ります1。70年以上かけて積み上げてきた組織が、今回まとめて一段上に持ち上げられた、という見え方になります。

ひとつ、書けないことも明記しておきます。国家情報局の職員定員は、内閣官房の公式ページにも政令の原本にも記載がなく、一次情報で確認できませんでした。政令第234号で確認できるのは内閣官房組織令の内閣審議官等の定数改正(82人が81人に、114人が116人に)と行政機関職員定員令の内閣の機関の項(16人が17人に)だけで11、これらは局の総定員ではありません。規模の数字は、出典を示せないので書きません。

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なぜ「産業スパイ」の話に企業が関係するのか——第2条を読む

ここからが本題です。政府の組織法がなぜ企業の情報管理の話につながるのか。答えは第2条の定義にあります。

国家情報会議設置法第2条は、この法律の対象を2つ定義しています。ひとつは「重要情報活動」で、安全保障の確保、テロリズムの発生の防止、緊急の事態への対処その他の我が国の重要な国政の運営に資する情報の収集調査に係る活動を指します。もうひとつが「外国情報活動への対処」で、原文はこうです2

公になっていない情報のうちその漏えいが重要国政運営に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動(これと一体として行われる不正な活動を含む。)であって、外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。)の利益を図る目的で行われるものへの対処をいう。

引用に出てくる「重要国政運営」は、条文の造語ではありません。同じ第2条の前半で「我が国の重要な国政の運営」と書いたものを、以降そう呼ぶと決めているだけです2。身構えずに「国の重要な仕事の運営」と読み替えて構いません。

一文が長いので、分解します。

  1. 公になっていない情報であること
  2. その漏えいが重要国政運営に支障を与えるおそれがあること
  3. それを取得するための活動であること(一体として行われる不正な活動を含む)
  4. 外国の利益を図る目的で行われること

読んでいて引っかかるのは、1番と2番です。特定秘密保護法の「特定秘密」や、重要経済安保情報保護活用法の「重要経済安保情報」は、行政機関の長が指定した情報だけが対象になる指定制度です。ところが第2条の定義には、その手の指定を前提とする文言がありません。「公になっていない情報」で、漏えいが重要国政運営に支障を与えるおそれがあれば、射程に入りうる書き方です。

これは私の深読みではありません。内閣官房自身が、国家情報会議の説明のなかで次のように書いています1

外国情報活動への対処とは、外国の利益を図る目的で行われる、我が国の政府や企業等の重大な秘密を取得するための活動への対処をいいます。この活動には、外国にとって有利な政策決定や世論形成を導くために行われる偽情報の拡散等の影響工作も含まれます。

「政府や企業等の重大な秘密」。政府が公式の説明文にこう書いた意味は小さくないと思います。制度の関心対象に、民間企業が持っている秘密が入っている。しかも影響工作まで含むと明示されている。

ここで誤解しないでいただきたいのですが、これは「企業が調査対象になる」という話ではありません。第2条が定義しているのは、外国の利益を図る目的で秘密を取得しようとする活動への「対処」。企業は、その対処によって守られる側に位置づけられています。私はこの条文を、企業の情報が政府の関心の射程に入った、つまり自社の技術情報の流出が「一社の事故」ではなく制度上の関心事として扱われるようになった、という意味で読んでいます。

議員の顔ぶれも同じ方向を指しています。第6条第1項が列挙する議員は、内閣総理大臣の臨時代理として指定された国務大臣、内閣官房長官、内閣府設置法第11条の特命担当大臣、国家公安委員会委員長、法務大臣、外務大臣、財務大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、防衛大臣です2経済産業大臣と財務大臣が条文に明記されている。外交・防衛・警察だけの会議ではないということが、条文の段階で決まっています。

省庁の情報はどの条文を通って一つになるのか

「省庁の情報が一元化される」という説明はよく見かけますが、実際にどの条文がその配管を作っているのかを追った解説はあまりありません。ここが本記事の核です。3本の条文が直列につながっています。

1本目、第7条。 資料・情報の提供を定めた条文です。

内閣官房長官及び関係行政機関の長は、会議の定めるところにより、会議に対し、重要情報活動又は外国情報活動への対処に関する資料又は情報であって、会議の調査審議に資するものを、適時に提供するものとする。(第1項)2

第2項は、これに加えて「議長の求めに応じて、会議に対し、……資料又は情報の提供及び説明その他必要な協力を行わなければならない」と定めています2

注意深く読むと、1項は「提供するものとする」、2項は議長の求めがある場合に「行わなければならない」という書き分けになっています。そして両方とも、名宛人は「会議」であって「局」ではありません。条文上、各省庁が資料を出す先は閣僚級の会議です。

2本目、第12条。 前述のとおり「会議に関する事務は、国家情報局において処理する」2。会議に集まった資料の実務は、局が扱うことになります。

3本目、内閣法第16条の2第2項第4号。 これが出口です。国家情報会議設置法の附則第5条が内閣法に新設した条文で、国家情報局の所掌事務を列挙しています。その第4号がこうです10

国家情報会議設置法第七条の規定により国家情報会議に提供された資料又は情報その他の前三号に掲げる事務に係る資料又は情報を総合して整理する事務

第7条で会議に集まったものを、局が総合して整理する。ここまで来て、ようやく配管が一本につながります。

段階 条文 何が起きるか
入口 国家情報会議設置法 第7条 内閣官房長官と関係行政機関の長が、会議に資料・情報を提供する
中継 同 第12条 会議に関する事務は国家情報局が処理する
出口 内閣法 第16条の2第2項第4号 会議に提供された資料・情報を、局が総合して整理する
分析 同 第16条の2第2項(内閣官房の説明) 局が自ら収集調査を行い、関係行政機関の収集した情報を集約した総合分析等を行う1

内閣官房は局の任務を「自ら情報の収集調査に当たるとともに、関係行政機関の収集した情報を集約した総合分析等を行います。また、国家情報会議の事務局の機能を有しており、会議の調査審議に係る事務処理や資料等の整理を実施しつつ、関係行政機関による情報活動の総合調整や、省庁横断的な施策の企画立案等を行います」と説明し、所掌事務の根拠として内閣法第16条の2第2項を明示しています1

政府の概要資料は、この関係を図で示しています。左に首相官邸・国家安全保障会議・国家安全保障局・各省庁を「カスタマー」、右にインテリジェンス関係機関を「プロバイダー」として置き、中央に国家情報会議と国家情報局を据える。カスタマーからは「より多くの情報関心・情報要求」が入り、カスタマーへは「より多く、より質の高いインテリジェンスの提供」が出ていく。プロバイダーとの間では「基本方針」と「資料・情報」が行き来し、「総合調整」の矢印が双方向に描かれています12

需要側と供給側を分けて描いているのが、この図の要点だと思います。従来は、情報を持っている省庁と、それを使いたい官邸・各省庁の間に、注文と納品の関係が制度として書かれていませんでした。そこに会議と局を挟んだ、というのが今回の設計です。

ひとつ技術的な注意点を。e-Gov法令検索で内閣法(法令ID 322AC0000000005)を引いても、2026年8月1日時点では第16条の2が本文に出てきません。返ってくるのは2025年7月1日施行版で、本文にはまだ「内閣情報官」が残っています。条文の中身を確認したい場合は、内閣官房が公開している法律案・理由のPDF10と、内閣官房の公式説明1を突き合わせるのが確実です。一次情報を当たるときの落とし穴なので、共有しておきます。

罰則はどこにあるのか——この法律にはない

制度の性格を知るうえで、罰則があるかないかは大きな手がかりになります。

国家情報会議設置法には、守秘義務の規定があります。第8条第2項です。

議長及び議員並びに議長又は議員であった者、第六条第四項の規定により副大臣として議員の職務を代行した者並びに次条の規定により関係者として会議に出席した者は、その職務に関して知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない。2

対象は、議長・議員・元議長元議員・職務代行の副大臣・関係者として出席した者です。ただし、この法律は全14条と附則で構成され、罰則の章を持ちません2。つまり国家情報会議設置法は、政府内部の情報の流れと組織を定めた法律であって、民間に義務や罰を課す法律ではないということです。

この点は、企業の実務担当者にとって外せない前提です。7月31日の施行によって、企業に新たな報告義務や届出義務が発生したわけではありません。 変わったのは政府側の配管です。ただし、その配管が経済分野を明示的に含んでいる以上、次の局面で企業に何かが求められる可能性は制度の中に織り込まれている、という読み方をしています。

なお、国家情報局は「情報提供フォーム」を公開していて、「我が国又は日本国民に対する脅威に関する情報の提供を受け付けております」と案内しています1。企業から国への回路が実在する、という事実として押さえておくにとどめます。寄せられた情報の件数や取扱いプロセス、企業からの相談を受ける趣旨なのかどうかは公表されていないので、それ以上のことは書けません。

経済安保シンクタンクと官民協議会——2026年12月までに動く配管

ここまでが情報の司令塔の話でした。もう一本、企業と直接つながる配管が、同じ2026年に法定されています。

経済安全保障推進法及び株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律(令和8年法律第38号)が、2026年6月10日に成立し、6月17日に公布されました13。この改正で、経済安保推進法に官民協議会と調査研究(総合的な経済安全保障シンクタンク機能)が書き加えられています。

条番号まで押さえておきます。改正後のe-Gov条文で確認できる建て付けはこうです14

内容
第3条の2 官民協議会。内閣総理大臣が基本方針に基づき組織する
第3条の3 調査研究基本指針。政府が定め、閣議決定を経て公表する
第3条の4 調査研究。内閣総理大臣が行い、業務の一部をRIETIに行わせ、一部を調査研究機関に委託できる
第95条第1項第1号 第3条の2第9項・第3条の4第5項等の守秘義務違反に1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金

**官民協議会(第3条の2)**は、「経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止するため、官民の連携による当該行為の防止……のための情報共有及び対策に関する協議会」と定義されています。構成員は、内閣総理大臣、関係行政機関の長、そして第10条第1項の認定供給確保事業者、第50条第1項の特定社会基盤事業者その他内閣総理大臣が必要と認める事業者(同意を得た者に限る)です。学識経験者等を加えることもできます14

企業の実務から見て効いてくるのは、第4項以下です。協議事項として「連携経済安全阻害防止のために官民が取り組むべき対策」と「その情報を適正に管理するために必要な措置」が並び、第5項は構成員が協議の結果に基づき「官民協議会で知り得た連携経済安全阻害防止に資する情報の適正な管理その他の必要な取組を行うものとする」と定めます。第6項では、協議会が構成員に資料提供・説明・意見表明等の協力を求めることができ、「当該構成員は、正当な理由がある場合を除き、その求めに応じなければならない」とされています。第7項には、資料を提供する構成員が取扱いに関し意見を付すことができ、他の構成員は「その意見に配慮しなければならない」という仕組みが置かれました。ただしこの第7項にはただし書きがあり、官民の連携により経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止するため特に必要と認めるときは、配慮義務は適用されません14

情報を出す側の企業が、その情報の扱い方に注文を付けられる。共有はしたいが用途は限定したい、という企業側の当然の要求が、条文のレベルで受け止められたことになります。ただし、いま見たとおり配慮義務には例外が書かれています。意見を付けたのだから必ず守られる、という前提で情報を出すのではなく、付けた意見が外れる場面まで見込んだうえで出す情報を決める。実務としては、そちらが正しい構えだと思います。

守秘義務の名宛人については、正確に読み分けてください。第3条の2第9項は「官民協議会の事務に従事する者又は従事していた者は、正当な理由がなく、当該事務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない」と定め、第95条第1項第1号の罰則もここに掛かります14。内閣府の改正法概要は「構成員及び協議会事務の従事者に国家公務員と同等の守秘義務を求める」と要約していますが15、条文上、刑事罰が明示的に掛かっているのは事務従事者です。構成員側は第5項の適正管理と第7項の意見付記の枠組みで整理されています。社内で説明する際は、ここを混ぜないほうが安全です。

**経済安保シンクタンク(第3条の3・第3条の4)**のほうも見ておきます。第3条の4第2項は「内閣総理大臣は、独立行政法人経済産業研究所に調査研究に関する業務の一部を行わせることができる」と定め、担い手をRIETIと名指ししました。第3項は調査研究の一部を、専門的能力・内外情報の収集整理保管能力・内外関係機関との連携能力・情報の安全管理措置という4基準に適合する法人へ委託できるとし、第4項は「関係行政機関の長は、前項の規定による委託を受けた者……からの求めに応じて、当該委託に係る調査研究を行うために必要な情報及び資料の提供を行うことができる」としています14。シンクタンク側から関係行政機関に情報を求める経路が用意されている、ということです。内閣府はこの機能を「内閣官房を司令塔とし、外交・情報・防衛・経済・技術の専門知識を集結して総合的な調査研究・政策提言を行う業務を独立行政法人経済産業研究所に追加」と説明しています15

改正の起点も公開されています。2025年11月7日の第8回経済安全保障推進会議で、内閣総理大臣が経済安全保障担当大臣に「経済安全保障推進法の改正に向けて、早急に検討を開始すること」を指示し、関係閣僚には「総合的なシンクタンクの創設をはじめ体制整備について、積極的な協力をお願いする」と述べています16。会議は8時00分から8時10分。10分で号砲が鳴った形です。

施行時期については誤解しないでください。2026年8月1日時点で、官民協議会も調査研究も未施行です。 内閣府の概要PDFはどちらも施行期日を「公布後6月以内」としており、e-Gov法令検索でも該当リビジョンは未施行として登録されています。政令で別途定めがない限り、上限は2026年12月16日です1415。同じ改正法でも、指定基金協議会を設置できる基金の対象拡大など「公布から1月後」施行の部分は2026年7月17日に施行済みで、新設された重要な海外事業の促進は公布後1年以内、基幹インフラ制度への医療分野の追加は公布後1年6月以内と、施行時期が分かれています15

政府側の準備は進んでいます。2026年6月11日の第6回経済安全保障重点課題検討会議(局長級)では、重要な物資やインフラのリスク点検について「経済安全保障推進法に基づき設置される予定のシンクタンク・官民協議会とも連携した点検のサイクルを確立していくことを含め、今後の在り方についての議論が行われました」と公表されています17。一方で、実際の立ち上げ時期、参加事業者の顔ぶれ、調査研究基本指針の内容、RIETIが担う体制の規模は、いずれも2026年8月1日時点では公表されていません。ここは書けることがないので、書きません。

Kプログラムとは何か——ゼロから説明する

シンクタンクの話に「Kプログラム」がよく併走して出てくるので、ここでちゃんと解説します。名前だけ聞くと暗号のようですが、中身は素直な制度です。

正式名称は経済安全保障重要技術育成プログラム。英名は Key and Advanced Technology R&D through Cross Community Collaboration Program で、頭文字のKを取って通称Kプログラムと呼ばれています18

何をする制度か。内閣府の説明を引きます。

本プログラムは、中長期的に我が国が国際社会において確固たる地位を確保し続ける上で不可欠な要素となる先端的な重要技術について、科学技術の多義性を踏まえ、民生利用のみならず公的利用につながる研究開発及びその成果の活用を推進するものです。具体的には、経済安全保障上の我が国のニーズを踏まえつつ、個別の技術の特性や技術成熟度等に応じて適切な技術流出対策をとりながら、研究開発から技術実証までを迅速かつ柔軟に推進します。18

「科学技術の多義性」という言い方が出てきますが、これは同じ技術が民生にも公的用途にも使えるという性質、いわゆるデュアルユースのことです。そういう技術を、流出対策とセットで国が育てる。それがKプログラムです。

仕組みを分解すると、こうなります1819

  • 意思決定:経済安全保障推進会議と統合イノベーション戦略推進会議という2つの閣僚級会議の下で推進される。研究開発ビジョンの決定に際しては、国家安全保障会議での経済安全保障に係る審議を経る
  • 推進体制:内閣府・文部科学省・経済産業省が中心となり、府省横断で進める。有識者等で構成するプログラム会議の検討を踏まえて両閣僚級会議が「研究開発ビジョン」を決定し、公募する
  • お金の出し方:JST(科学技術振興機構)とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)に造成された基金を用いる。この基金が経済安保推進法上の「指定基金」に指定されている20

運用ルールを定めた「経済安全保障重要技術育成プログラムの運用に係る基本的考え方について」(令和4年6月17日内閣総理大臣決裁)には、すでにこう書かれていました。「この際、専門家の知見や関係府省が持つ情報、別途、国が整備を進めているシンクタンク機能を活用する」19。2022年の時点で、シンクタンクを使う前提が制度文書に入っていたわけです。今回法定されたシンクタンクは、この4年越しの伏線を回収した格好になります。

企業から見て一番具体的なのは「指定基金協議会」です。採択された研究開発ごとに設置される官民の協議の場で、2026年8月時点で第1号から第42号まで設置されており、テーマが公開されています20。いくつか挙げます。

テーマ
第5号 半導体・電子機器等のハードウェアにおける不正機能排除のための検証基盤の確立
第16号 先進的サイバー防御機能・分析能力強化
第19号 サプライチェーンセキュリティに関する不正機能検証技術の確立
第24号 偽情報分析に係る技術の開発
第25号 人工知能(AI)が浸透するデータ駆動型の経済社会に必要なAIセキュリティ技術の確立
第31号 セキュアなデータ流通を支える暗号関連技術(高機能暗号)

テーマの並びを見ると、この記事で扱ってきた話とほとんど重なります。不正機能の検証、サプライチェーンの検証技術、偽情報分析。制度が守ろうとしている領域と、育てようとしている技術が同じ方向を向いています。なお、Kプログラムの基金総額としてよく語られる金額は、内閣府のKプログラムページ・運用に係る基本的考え方のいずれからも数字として確認できませんでした。金額は書きません。

協議会に入ると、規律もセットで付いてきます。第62条の協議会は協議事項に「当該特定重要技術の研究開発に関する情報を適正に管理するために必要な措置に関する事項」を含み、第62条第7項が事務従事者の守秘義務を定め、違反には第95条第1項第1号の罰則が掛かります。指定基金協議会(第63条)はこれを準用します。今回新設された官民協議会とシンクタンクの守秘義務も、同じ第95条第1項第1号の列に並びました14。支援を受けるということは、情報管理の規律を受け入れるということです。

いわゆる「スパイ防止法」は、いまどこにあるのか

産業スパイ対策の文脈で必ず出てくるのがこのテーマです。結論から書きます。

2026年8月1日時点で、いわゆるスパイ防止法にあたる政府提出法案は確認できません。

内閣官房が公表している第221回特別国会の国会提出法案一覧に掲載されている内閣官房所管の法律案は、皇室典範等の一部改正案、情報通信技術活用行政推進法等改正案、国家情報会議設置法案、防災庁設置法案、防災庁設置法整備法案の5本です4。防諜関係の閣法はここにありません。衆議院が公開している第221回国会の議案一覧を閣法まで通して見ても、防諜を正面から扱う政府提出法案は見当たりませんでした21。ちなみに同じ一覧で、国家情報会議設置法案は閣法第24号・審議状況「成立」として記載されています21

議員立法としては、動きがありました。「防諜に関する施策の推進に関する法律案」が参議院に提出されています。参法 第221回国会 第5号、議案提出者は神谷宗幣君外四名、参議院での受理は2026年4月2日、衆議院の予備審査議案受理は同年4月6日です。ただし衆議院の議案審議経過情報を見ると、衆参いずれについても、付託年月日・付託委員会、審査終了年月日・審査結果、審議終了年月日・審議結果、公布年月日・法律番号の欄がすべて空欄のままです22。衆議院の議案一覧でも、この法案の審議状況は「未了」と記載されています21。つまり、成立していません。

法案の中身も参議院が本文を公開しているので、事実として紹介します。全3章19条と附則で構成され、第2条が「防諜」を、外国により行われる①公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動その他の不当な活動、②虚偽情報の発信等により選挙・国民投票・政策決定に不当な影響を及ぼす活動、の悪影響を防止することと定義していました23

企業に関係する条文もありました。第7条です。

事業者は、基本理念にのっとり、その事業に関し管理する情報についての防諜の重要性を自覚するとともに、国が実施する防諜に関する施策に協力するよう努めるものとする。23

努力義務の規定です。このほか、第16条が外国から指示・請託等を受けた者の活動についての届出・定期報告制度を施行後2年以内に創設するとし、第18条が内閣官房に「内閣情報調査局」を置く旨の基本方針、第19条が施策の適正を独立・公正な立場で検証・監察する新機関の検討を定めていました23

同時に、第3条第2項にはこう書かれていました。「国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない」23。推進側の条文と歯止めの条文が、同じ法案の中に置かれていたということです。

同じ提出者による参法第6号も、同じ4月2日に参議院で受理されています。特定秘密保護法と重要経済安保情報保護活用法に、外国政府等または情報収集義務者への漏えいを重く罰する条(それぞれ第23条の2など)を新設し、適性評価の調査事項に「外国への渡航又は外国における居住の経歴その他の外国との関連性に係る事情」を書き加える内容でした24。こちらも議案一覧の審議状況は「未了」です21

議員立法はもう1本あって、こちらは本会議まで進みました。衆法 第221回国会 第3号「インテリジェンスに係る態勢の整備の推進に関する法律案」です。議案提出者は橋本幹彦君外二名、衆議院の議案受理は2026年3月10日、4月21日に内閣委員会へ付託され、4月22日に委員会で否決、4月23日の本会議でも否決されています25。議案一覧では審議状況が「本院議了」と記載されています21。防諜そのものではなく情報態勢の整備を掲げた法案でしたが、この分野の議員立法が採決まで至った例として、公的記録に残っています。

これらの法案について、私は賛否を書きません。いずれも議員立法であり、提出者・受理日・採決の結果という公的記録の事実で止めます。そして政府が今後この種の法案を提出する時期や方針も、内閣官房・首相官邸の公開情報からは確認できませんでした。見通しの話はしません。

ただ、政府に宿題が出ていないわけではありません。前の節で見た経済安保推進法の改正法(令和8年法律第38号)の附則第7条第1項が、こう定めています26

政府は、速やかに、経済活動に関し国家及び国民の安全を損なう事態を防止するために必要な措置の在り方について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

同法附則第1条第1号によって、この検討規定は公布の日(2026年6月17日)から施行済みです26。官民協議会もシンクタンクもまだ動いていないのに、検討義務だけが先に走り出している、という並びになっています。何をいつ出すかまでは書かれていないので中身の予想はしませんが、「防止のための措置の在り方」を検討することが法律の条文として政府に課されている、という事実は押さえておく価値があります。いわゆるスパイ防止法の現在地は、「法案がない」で終わる話ではなく、「宿題は出ているが答案はまだ提出されていない」という状態です。

企業の実務にとって効いてくるのは、そこではないからです。新しい防諜法制がない現在も、企業の技術情報を守る法律はすでに存在しています。次の節がそれです。

いま企業の技術情報を守っているのは不正競争防止法

産業スパイ対策の主戦場は、今日の時点では不正競争防止法の営業秘密です。ここは条文を正確に押さえてください。

第2条第6項の定義がこうです27

この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

要件は3つ。秘密として管理されていること(秘密管理性)、事業活動に有用であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)です。

一番効いてくるのが秘密管理性です。この要件が意味するのは、社内で秘密として管理する措置を取っていない情報は、たとえ外に流出しても営業秘密としての保護を受けられないということです。どれだけ価値のある図面でも、共有フォルダに誰でも読める状態で置いてあれば、法的な立場は弱くなります。

罰則の水準も見ておきます。第21条第1項は、管理侵害行為等による営業秘密の取得・使用・開示等に10年以下の拘禁刑もしくは2000万円以下の罰金またはこれらの併科を定め、第2項は営業秘密を示された役員・従業者等による領得・使用・開示(退職後を含む)にも同じ刑を定めます。第4項・第5項は、日本国外において使用する目的での取得や国外での使用について、罰金の上限を3000万円に引き上げています。未遂も国外犯も処罰対象です。法人については第22条第1項に両罰規定があり、第21条第4項関係で10億円以下、第1項関係で5億円以下、第3項関係で3億円以下の罰金刑です27。両罰規定というのは、違反した個人を罰するのと併せて、その個人が属する法人にも罰金を科す仕組みのことです。

法人に最大10億円。制度としては、すでにかなり重い建て付けです。詳しくは不正競争防止法と営業秘密の保護で整理しています。

ここで、あえて過去の事件を社名付きで挙げることはしません。誰かを反面教師にする書き方は、当事者にとって公正ではないと考えているからです。制度の建て付けだけで十分に話は通ります。要点はひとつで、保護の入口が「秘密として管理されているか」である以上、企業側の作業は法改正を待つ話ではなく、今日からの社内管理の話だということです。

セキュリティ・クリアランス制度は、まだ立ち上がりの途中にある

もうひとつ、企業が関わる制度として重要経済安保情報保護活用法(令和6年法律第27号)があります。いわゆるセキュリティ・クリアランス制度で、2025年5月16日に施行されました28

初年度の運用実績が、2026年6月26日に国会報告として公表されました28。対象期間は2025年5月16日から同年12月31日までの約7か月半です。概要から数字を拾います29

項目 実績
重要経済安保情報の指定 9機関・20件(うち1件が年内に解除され、年末時点は9機関・19件)
重要経済安保情報が記録された行政文書の保有 8機関・計43件
違反行為に関する通報窓口への通報 0件
適性評価の実施 2機関・18件(適合事業者の従業者は0件)
適性評価調査を内閣総理大臣に求めた行政機関 11機関・217件
適合事業者の認定 0件

この数字を、制度批判にも「企業が消極的だ」という決めつけにも使うつもりはありません。施行から7か月半の立ち上がり期の実績として、淡々と受け取るべきものです。

ただ、実務的な示唆はあります。適合事業者の認定が0件ということは、民間側の準備がこれから本格化する段階にあるということです。内閣府は、各行政機関の重要経済安保情報保護規程、通報窓口一覧、適性評価に係る苦情受理窓口・相談窓口一覧に加え、運用基準やガイドライン(行政機関編と適合事業者編)、適性評価に関するQ&Aを公表しています28。まず読むところから始められます。監督の側も動いていて、2025年中には内閣府独立公文書管理監から行政機関に対し、重要経済安保情報の表示等に関する1件の是正の求めがなされました。当該行政機関が必要な是正措置を講じ、あわせて内閣府から各行政機関へ通知が発出されています29

制度の詳細はセキュリティ・クリアランス制度の基礎重要経済安保情報保護活用法の企業対応で扱っています。

企業が今日から着手できること

制度の側は動きました。では企業は何をするのか。ここまでの整理から、優先順位を付けて並べます。

1. 営業秘密の秘密管理性を、書類の上で成立させる。 何が営業秘密なのかを特定し、アクセスできる人を限定し、その情報が秘密であることを認識できる措置を取る。不正競争防止法の保護は、この作業をした情報にしか届きません27。図面・レシピ・製造条件・治工具設計・顧客リストといった単位で、管理状態を棚卸しするところから始めます。

2. 技術情報のアクセス制御と持ち出し記録を整える。 誰がいつどの図面を見たのか、どこへ送ったのか。事後に再現できる記録がないと、流出が起きたときに立証ができません。海外拠点や委託先へ図面が流れる経路は、みなし輸出図面の輸出管理と同じ流路を通ります。輸出管理の台帳をすでに持っている企業なら、そこに列を足すのが最短です。

3. 契約の穴を塞ぐ。 NDA、共同研究契約、業務委託契約、そして退職時の合意。第21条第2項は退職後の使用・開示も処罰対象にしていますが27、刑事の話に持ち込む前に、契約と運用で防げるものは防いだほうがいい。産学連携も同じです。研究セキュリティの実務は研究インテグリティ・研究セキュリティの基礎で整理しています。

4. 取引先スクリーニングを継続的な工程にする。 取引の相手方や、その先の需要者を確認する作業は、一度やって終わりにできる性質のものではありません。各国の規制リストは更新され続けます。ひとつ書き添えておくと、リストへの掲載はあくまで規制上の区分であって、掲載された企業の是非を判断するものではありません。確認の目的は取引を止めることではなく、必要な手続を漏らさないことです。ここは私たちが提供しているTRAFEEDが該非判定(自社の製品や技術が輸出規制の対象品目に当たるかどうかを条文に照らして判定する作業)と取引先スクリーニングをAIで支援し、判定の証跡を残す領域ですが、ツールを入れるかどうかより、誰がいつ何を確認したかを残す運用があるかのほうが先に来ます。考え方は取引審査(顧客デューデリジェンス)の実務にまとめました。

5. 官民協議会に備えて、情報の出し方のルールを決めておく。 施行は2026年12月16日までです。誰が判断するのか、どのレベルの情報までなら共有可能なのか。この2つを先に決めておくだけで、実際に声がかかったときの動きが変わります。第7項の意見付記の仕組みは、そのための道具です14

6. セキュリティ・クリアランスの適合事業者認定を、選択肢として検討する。 認定0件という現状は、逆に言えば運用が固まる過程に立ち会えるということでもあります29。すぐに手を挙げるかどうかは別として、ガイドライン(適合事業者編)で自社が満たすべき要件を把握しておく価値はあります。

どれも派手な対策ではありません。ただ、国の側が情報を集約する配管を作った今、企業側の配管が抜けたままだと、守れるはずのものが守れないという単純な話です。

まとめ

  • 2026年7月31日、国家情報会議設置法(令和8年法律第28号)が政令第233号の定める施行期日で施行され、同日に第1回国家情報会議が開催されました。官房長官が同日午前の会見で公表しています
  • 国家情報会議は内閣総理大臣を議長とする閣僚級の会議体、国家情報局は内閣官房に置かれた官邸直属の情報機関です。第12条が「会議に関する事務は、国家情報局において処理する」と定め、二層構造をつないでいます。内閣情報官と内閣情報調査室は発展的に解消されました
  • 省庁情報の統合は、第7条で会議に資料・情報が提供され、第12条で会議に関する事務を国家情報局が処理し、内閣法第16条の2第2項第4号で局がそれらを総合して整理する、という3本の条文で配管されています。第7条の名宛人は会議であって局ではない点が読みどころです
  • 第2条の「外国情報活動」の定義は指定制度を前提としておらず、内閣官房自身が「我が国の政府や企業等の重大な秘密」と説明しています。企業の秘密が制度の関心対象に入っていることの一次的な根拠です
  • 国家情報会議設置法に罰則の章はなく、この施行によって企業に新たな義務が生じたわけではありません
  • 官民協議会(改正経済安保推進法 第3条の2)と経済安保シンクタンク(同 第3条の3・第3条の4、担い手はRIETI)は2026年8月1日時点で未施行です。施行は公布後6月以内で、政令に別段の定めがなければ上限は2026年12月16日になります
  • Kプログラム(経済安全保障重要技術育成プログラム)は、JST・NEDOの指定基金で運営される府省横断の重要技術育成制度です。指定基金協議会は第1号から第42号まで設置され、テーマが公開されています。基金の金額と国家情報局の職員定員は、一次情報で確認できなかったため記載していません
  • いわゆるスパイ防止法にあたる政府提出法案は、2026年8月1日時点で確認できません。議員立法の「防諜に関する施策の推進に関する法律案」(参法221-5)は、衆議院の議案一覧で審議状況が「未了」と記載されており、成立していません。同じ国会に出された「インテリジェンスに係る態勢の整備の推進に関する法律案」(衆法221-3)は、2026年4月23日の衆議院本会議で否決されています
  • ただし経済安保推進法改正法の附則第7条第1項が、経済活動に関し国家及び国民の安全を損なう事態を防止するために必要な措置の在り方を速やかに検討するよう政府に求めており、この規定は公布日(2026年6月17日)から施行済みです。法案は出ていないが、検討義務は法律に書き込まれている、というのが現在地です
  • 今日の時点で企業の技術情報を守る中心は不正競争防止法の営業秘密です。保護の入口は「秘密として管理されているか」であり、これは法改正を待たずに着手できる社内作業です

制度の側は、情報が一箇所に集まる形に作り替えられました。ただ、そこに流れ込むのは政府部門が持つ情報であって、企業の中にある図面やレシピを誰かが代わりに守ってくれるわけではありません。営業秘密の管理も、取引先の確認も、結局は自社の台帳の上で完結させる作業です。国の配管が太くなったこのタイミングで、自社の配管の細いところを見つけておく。それが、この一連の制度改正に対する一番実務的な向き合い方だと思っています。

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関連記事


参考文献

  • 内閣官房「国家情報会議・国家情報局」
  • 内閣官房「国家情報会議設置法の施行期日を定める政令」(政令第233号)/「国家情報会議設置法の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令」(政令第234号)
  • 内閣官房「国家情報会議設置法案 法律案・理由」
  • 内閣官房「【概要】国家情報会議設置法」
  • 首相官邸 内閣官房長官記者会見(令和8年7月31日午前)/令和8年7月24日定例閣議案件
  • e-Gov法令検索 国家情報会議設置法、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律、不正競争防止法
  • 内閣府「経済安全保障推進法」「重要経済安保情報保護活用法」「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」「先端的な重要技術の開発支援に関する制度」
  • 内閣官房 第8回経済安全保障推進会議 議事要旨/第6回経済安全保障重点課題検討会議(結果)
  • 衆議院 第221回国会 議案の一覧/議案審議経過情報/参議院 第221回国会 提出法案本文

Footnotes

  1. 内閣官房「国家情報会議・国家情報局」(組織・任務・沿革・国家情報会議の説明・情報提供フォーム) https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/nic_nib.html 2 3 4 5 6 7 8 9

  2. e-Gov法令検索「国家情報会議設置法」(令和八年法律第二十八号。公布2026年6月3日、施行2026年7月31日)第2条、第4条〜第14条 https://laws.e-gov.go.jp/law/508AC0000000028 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

  3. 内閣官房「内閣官房組織等英文名称一覧」 https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/eibun/index.html

  4. 内閣官房「国会提出法案(第221回 特別国会)」 https://www.cas.go.jp/jp/houan/221.html 2

  5. 首相官邸「令和8年7月24日(金)定例閣議案件」 https://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2026/kakugi-2026072401.html 2

  6. 内閣官房「国家情報会議設置法の施行期日を定める政令」(政令第二百三十三号)原本PDF https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/kokkajyouhokaigi_kijitsu.pdf 2

  7. 首相官邸「内閣官房長官記者会見」令和8年7月31日(金)午前 https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202607/31_a.html 2

  8. 内閣官房「国家情報会議 開催状況」(令和8年度 第1回・令和8年7月31日・議題「会議の運営方針・諸規則の制定等について」) https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/nic_kaisai.html 2

  9. 内閣官房「幹部紹介」 https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/kanbu/index.html

  10. 内閣官房「国家情報会議設置法案 法律案・理由」(第221回国会提出、2026年3月13日)附則第2条・第3条・第5条 https://www.cas.go.jp/jp/houan/260313/houritsuanriyuu.pdf 2 3 4

  11. 内閣官房「国家情報会議設置法の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令」(政令第二百三十四号)原本PDF https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/kokkajyouhokaigi_seibi.pdf 2

  12. 内閣官房「【概要】国家情報会議設置法」PDF https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/kokkajyouhokaigi_gaiyou.pdf

  13. 内閣府「経済安全保障推進法」(改正法の成立・公布、制度全体の説明) https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/suishinhou/suishinhou.html

  14. e-Gov法令検索「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」(令和四年法律第四十三号。令和8年法律第38号による改正後の第2条、第3条、第3条の2、第3条の3、第3条の4、第62条・第63条、第95条。当該リビジョンの施行日は2026年12月16日で、2026年8月1日時点では未施行) https://laws.e-gov.go.jp/law/504AC0000000043 2 3 4 5 6 7 8

  15. 内閣府「経済安全保障推進法及び株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律の概要」PDF https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/suishinhou/doc/houangaiyo.pdf 2 3 4

  16. 内閣官房「第8回経済安全保障推進会議 議事要旨」(令和7年11月7日)PDF https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyo/dai8/gijiyoshi.pdf

  17. 内閣官房「第6回経済安全保障重点課題検討会議の開催(結果)」(令和8年6月11日開催、6月15日公表)PDF https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyo/kentokaigi_dai6/gaiyo.pdf

  18. 内閣府「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」 https://www8.cao.go.jp/cstp/anzen_anshin/kprogram.html 2 3

  19. 内閣府「経済安全保障重要技術育成プログラムの運用に係る基本的考え方について」(令和4年6月17日内閣総理大臣決裁)PDF https://www8.cao.go.jp/cstp/anzen_anshin/20220617_kihonteki.pdf 2

  20. 内閣府「先端的な重要技術の開発支援に関する制度」(指定基金・指定基金協議会の設置状況、協議会モデル規約) https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/suishinhou/technology/technology.html 2

  21. 衆議院「第221回国会 議案の一覧」(閣法・衆法・参法の審議状況一覧。参法第5号・第6号はいずれも審議状況「未了」、衆法第3号は「本院議了」、閣法第24号 国家情報会議設置法案は「成立」) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/kaiji221.htm 2 3 4 5

  22. 衆議院「議案審議経過情報 参法 第221回国会 5 防諜に関する施策の推進に関する法律案」 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DE2532.htm

  23. 参議院「第221回国会 参法第5号 防諜に関する施策の推進に関する法律案」本文PDF https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/221/pdf/t1002210052210.pdf 2 3 4

  24. 参議院「第221回国会 参法第6号 特定秘密の保護に関する法律及び重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律の一部を改正する法律案」本文PDF https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/221/pdf/t1002210062210.pdf

  25. 衆議院「議案審議経過情報 衆法 第221回国会 3 インテリジェンスに係る態勢の整備の推進に関する法律案」(議案受理 令和8年3月10日、付託 令和8年4月21日/内閣委員会、審査終了 令和8年4月22日/否決、審議終了 令和8年4月23日/否決) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DE1E7E.htm

  26. e-Gov法令検索「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」に収録の令和八年六月一七日法律第三八号 附則第1条第1号・附則第7条第1項(附則第7条第1項は公布の日から施行) https://laws.e-gov.go.jp/law/504AC0000000043 2

  27. e-Gov法令検索「不正競争防止法」(平成五年法律第四十七号)第2条第6項、第21条、第22条 https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000047 2 3 4

  28. 内閣府「重要経済安保情報保護活用法」(運用基準・ガイドライン・通報窓口一覧・相談窓口一覧・監督体制) https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/hogokatsuyou/hogokatsuyou.html 2 3

  29. 内閣府「重要経済安保情報の指定及びその解除、適性評価の実施並びに適合事業者の認定の状況に関する報告」概要PDF(令和8年6月公表、対象期間 令和7年5月16日〜12月31日) https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/kokkaihoukoku/houkoku_gaiyou.pdf 2 3

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