株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。2026年7月28日のFederal Registerに、USTRの公告が345ページ分載りました。掲載は91 FR 47318から47662まで、公告番号はFR Doc. 2026-15181。強制労働によって生産された物品の輸入を禁止する制度を導入していない、あるいは実効的に執行していないとして、日本を含む60エコノミーの産品に1974年通商法301条に基づく追加関税を課すというものです1。
先に結論を書きます。日本原産品の米国での合計関税は、HTSUS第1欄GeneralのMFN税率と12.5%のいずれか高い方に収束します。MFNが12.5%未満の品目は差分が301条関税として上乗せされて合計12.5%、MFNが12.5%以上の品目は301条の上乗せがゼロで従来どおり。この「net of MFN」という方式が使われているのは60エコノミーのうち5つだけで、日本はそこに入っています。
そして、ここは記事の最初に書いておきたいところです。今回の課税対象になったことは、その国の企業や品目に強制労働があったという認定ではありません。 調査の対象は各エコノミーの「輸入禁止制度の有無と執行状況」という制度事実であり、日本が課税区分に入った理由も制度の不在にあります。USTR自身、301条(c)(3)(B)が「当該物品や経済セクターが対象行為に関与していたかどうかを問わず」措置を取れる建て付けであることを公告に明記し、調査の狙いは特定の産業やサプライチェーンより広いところにあると述べています1。正規の民生取引をしている企業が品目横断の広い区分にそのまま入るのは、この制度設計上の帰結です。取引先への説明でも、まずこの切り分けを共有するところから始めるのが実務的だと思います。
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何が公告されたのか(一次情報の起点)
公告の正式名称は長いので、実務では文書番号で押さえるのが早いです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 文書 | Notice of Actions in Section 301 Investigations ...(強制労働品の輸入禁止の未整備・未執行に関する各エコノミーの行為・政策・慣行に関する301条調査における措置の公告) |
| 掲載 | 91 FR 47318-47662(Vol. 91, No. 143、2026年7月28日、Notices Part II) |
| 公告番号 | FR Doc. 2026-15181(Filed 7-27-26; 8:45 am) |
| ドケット | USTR-2026-0265 / USTR-2026-0266 |
| 法的根拠 | 1974年通商法301条(b)および304条(a)(19 U.S.C. 2411以下) |
| 署名 | Jennifer Thornton, General Counsel, USTR |
| 上位文書 | 2026年7月23日付大統領メモ(91 FR 47717-47778、FR Doc. 2026-15274) |
税率の設計を直接指示しているのは、7月23日付の大統領メモです。そのSec.1(a)(ii)が「日本・韓国・スイスの産品について、MFN税率が12.5%未満なら、MFN税率と301条関税の合計が12.5%になるように301条関税を課し、MFN税率が12.5%以上なら301条関税はゼロとする」と定め、「このように総関税を上限で抑えることは、相互貿易協定(ART)等の内容と整合し、実行可能であり、適切である」としています2。公告のII.B.28(Japan)にも同じ内容の決定文が置かれています1。
経緯も一次情報で追えます。調査開始は2026年3月12日、根拠は通商法302条(b)(1)(19 U.S.C. 2412(b)(1))で、公告は91 FR 12884(公告日3月17日)。6月2日に60件すべてで「actionable(措置対象となりうる)」と決定し、あわせて包括報告書をまとめています。この決定と対応案が載ったのが6月5日の公告(91 FR 34272)で、ここで10%/12.5%と繊維メカニズムの案が示されました。意見締切は7月6日、書面意見は1,600件超。7月7日から9日の公聴会で100人超が証言し、7月23日に大統領メモ、7月28日に最終公告という流れです1。政府間協議の規模と4月28・29日の第1回公聴会は公告本体には書かれておらず、USTRのプレスリリース側の情報です。同リリースは通商法303条(a)に基づき45を超える相手国政府と協議したとし、調査全体について「公聴会2回、2,100件超の意見」と表現しています。公告の1,600件超(6月5日案への書面意見)とは数える範囲が違うので、社内資料で引くときは出典をそろえてください3。
なぜ日本が対象なのか — 区分の基準は制度事実
6月2日の決定では、60エコノミーが2つに区分されました。日本を含む54エコノミーは「強制労働品の輸入を禁止する制度を導入しておらず、かつ実効的に執行していない」、カナダ・エクアドル・EU・インドネシア・メキシコ・パキスタンの6つは「実効的に執行していない」という区分です。ややこしいのは、公告がそのうえで「調査対象の全エコノミーが、輸入禁止制度の導入と実効的な執行の双方を満たしていない」とも整理している点です1。いずれにしても、線を引いた基準は制度の有無と執行という制度側の事実であって、企業の行為の評価ではありません。
ここで押さえておきたいのは、USTRが相手国の国内的な強制労働対策そのものは切り離して評価していることです。公告III.B.2は「ILO条約の批准や国内の執行努力といった、自国の管轄内で強制労働に対処する取り組みを理由にエコノミーを除外したり低い税率を適用することは、調査対象の行為・政策・慣行の解消につながらない」「貿易相手国が自国内で強制労働をなくす努力は称賛するが、本調査の対象の解消には関係しない」と述べています1。国内法制の充実度ではなく、輸入禁止制度を持っているかという一点で線が引かれた、ということです。
10%区分と12.5%区分の差も、良い国と悪い国の序列ではありません。公告Iの末尾には、6月5日の案の公表と政府間協議のあとに輸入禁止制度を導入したエコノミーとしてカンボジア・グアテマラ・ホンジュラス・インド・スリランカ・トリニダード・トバゴが、ARTで輸入禁止に関するコミットメントを行ったエコノミーとしてヨルダンが挙げられており、この7つはいずれも最終的に10%区分に入っています1。差は制度対応やARTでの約束という手続的な事実の有無に由来する、と読むのが正確です。
米側の立場としては、USTR代表のJamieson Greerが「何十年もの道義的説得では、グローバルなサプライチェーンから強制労働を根絶できなかった」「米国は1世紀近く強制労働品の輸入禁止を持ち厳格に執行してきた。貿易相手国も同じようにする時期はとうに過ぎている」と述べています3。ファクトシートは対象が「米国の輸入の99.4%を占める上位60の貿易相手国」に及ぶとし、「米国は世界で唯一、強制労働品の輸入禁止を採用し実効的に執行している国である」とも書いていますが、後者はUSTRの評価であり、他国制度との比較検証を経た事実として扱うべきものではありません4。
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60エコノミーは3つの課税方式に分かれる
HTSUS第99類の9903.05.20から9903.05.84までの65見出し(60エコノミー分+net of MFN組の各2見出し)をUSITCのHTSデータで全件確認すると、方式は3つに整理できます5。
| 方式 | 税率欄の建て付け | エコノミー数 | 見出しの例 |
|---|---|---|---|
| 定率上乗せ 12.5% | 「適用小見出しの税率+12.5%」 | 38 | 中国 9903.05.31、ベトナム 9903.05.84 |
| 定率上乗せ 10% | 「適用小見出しの税率+10%」 | 17 | 英国 9903.05.81、インド 9903.05.44、メキシコ 9903.05.55 |
| MFNとの合算(net of MFN) | 合計が上限で打ち止め | 5 | 日本 9903.05.48/9903.05.49 |
10%区分の17エコノミーは、アルゼンチン(9903.05.22)、バングラデシュ(.26)、カンボジア(.28)、カナダ(.29)、エクアドル(.35)、エルサルバドル(.37)、グアテマラ(.40)、ホンジュラス(.42)、インド(.44)、インドネシア(.45)、ヨルダン(.50)、マレーシア(.54)、メキシコ(.55)、パキスタン(.62)、スリランカ(.72)、トリニダード・トバゴ(.78)、英国(.81)です5。
12.5%区分の38エコノミーには、アルジェリア、アンゴラ、オーストラリア、バハマ、バーレーン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、コスタリカ、ドミニカ共和国、エジプト、ガイアナ、香港(中国)、イラク、イスラエル、カザフスタン、クウェート、リビア、モロッコ、ニュージーランド、ニカラグア、ナイジェリア、ノルウェー、オマーン、ペルー、フィリピン、カタール、ロシア、サウジアラビア、シンガポール、南アフリカ、タイ、トルコ、アラブ首長国連邦、ウルグアイ、ベネズエラ、ベトナムが含まれます5。
net of MFN組は5つだけで、上限が2種類に分かれます。
| エコノミー | 合計税率の上限 | MFNが上限以上の見出し(上乗せゼロ) | MFNが上限未満の見出し |
|---|---|---|---|
| 日本 | 12.5% | 9903.05.48 | 9903.05.49(税率欄「12.5%」) |
| 韓国 | 12.5% | 9903.05.70 | 9903.05.71(同「12.5%」) |
| スイス | 12.5% | 9903.05.73 | 9903.05.74(同「12.5%」) |
| EU加盟国 | 10% | 9903.05.38 | 9903.05.39(同「10%」) |
| 台湾 | 10% | 9903.05.75 | 9903.05.76(同「10%」) |
日本向けの2つの見出しをどう読むか
日本原産品に使う見出しは2本だけです。HTSUS上の文言を見ると、振り分けの基準がはっきりします6。
- 9903.05.48: 9903.05.85から9903.05.92に記述された産品を除き、日本原産の物品であって、第1欄における従価税率(または従価換算税率)が12.5%以上のもの。税率欄General・Specialは「適用小見出しに定める税率」=301条の上乗せなし。第2欄は「変更なし」。
- 9903.05.49: 同じ前段で、第1欄における税率が12.5%未満のもの。税率欄General・Specialは「12.5%」。第2欄は「変更なし」。
そして、合計税率を明文で確定させているのがAnnex IのU.S. note 52(k)の末尾です。「9903.05.49、9903.05.71、9903.05.74については、適用される第1欄税率が12.5%未満の物品について、第1欄税率と追加従価税率の合計は従価12.5%とする」「9903.05.39および9903.05.76については、第1欄税率が10%未満の物品について、合計は従価10%とする」1。note 52(a)は冒頭で「本注の(b)から(k)に定める場合を除き」と留保しているので、日本・韓国・スイスの品目については(k)が優先し、合計12.5%で打ち止めになります。
一方、定率上乗せ組(10%/12.5%区分)にはこの打ち止めがありません。note 52(a)は「本小見出しのU.S. note 1にかかわらず、これらの見出しによる追加従価税率の対象となるすべての産品は、関税率表第1類から第97類の小見出しに定める一般税率の対象にもなる」と定め、さらに「本注の(b)から(k)に定める場合を除き、9903.05.20から9903.05.84の追加従価税率の対象となる産品は、本subchapterまたは第99類subchapter IVに定める他の追加関税の対象にもなる」としています1。つまり第99類側の他の追加関税とも重なる建て付けです。個別プログラムとの積み上がり方は本稿では検証していないので、具体的な合計税率の試算は避けます。
実在のHSコードで計算してみる
USITCのHTSで第1欄Generalの税率を実測し、日本原産品を想定して当てはめたものです6。
| HTSUS | 品目 | 第1欄General(MFN) | 該当見出し | 301条上乗せ | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 8471.30.01.00 | 携帯型の自動データ処理機械(重量10kg以下、ノートPC等) | Free | 9903.05.49 | 12.5% | 12.5% |
| 3926.90.99 | その他のプラスチック製品 | 5.3% | 9903.05.49 | 7.2% | 12.5% |
| 8482.10.50 | 玉軸受(その他のもの) | 9% | 9903.05.49 | 3.5% | 12.5% |
| 6110.30.30 | 人造繊維製のセーター・プルオーバー類(その他のもの) | 32% | 9903.05.48 | 0% | 32% |
この表の意味は、単に「12.5%が乗る」ではありません。MFNが低い品目のほうが上乗せ幅が大きくなり、MFNが高い品目は上乗せゼロで済むという、直感と逆向きの効き方をします。従来Free(無税)だった精密機器や電子機器がまるごと12.5%を負担し、もともと高関税だった繊維製品には追加負担が生じない。品目ポートフォリオによって影響の出方が大きく違うので、社内の説明資料は「主要HSコード別の上乗せ幅の一覧」にしておくのが実務的です。
従価税でない品目は従価換算(AVE)が必要
第1欄が従価税でない品目、たとえば2206.00.15のシードルは第1欄Generalが1リットル当たり0.4セントという特定税率です6。この場合は閾値判定のために従価換算率を出す必要があり、計算式はnote 52(k)に明示されています。「EU加盟国、日本、韓国、スイス、台湾の物品で、第1欄Generalの特定税率または複合税率の対象となるものについては、従価換算税率は、第1欄Generalにより支払われる関税額を当該物品の関税評価額で除して決定する」。公告自身の例示は「1キログラム当たり50セントの特定税率で、関税評価額10ドルの1キログラムを申告した場合、50セントを10ドルで除して従価5%」です1。
なお、第1欄Specialの特定税率・複合税率について同じ方法で従価換算すると明示されているのは韓国の物品だけです1。日本については条文に対応する明示がないため、特恵税率を主張する場合の扱いは条文だけでは確定できません。
除外はどこを見るか
日本原産品について確認すべき除外の範囲は、実はかなり限定的です。公告II.Bの各決定文が参照するAnnexは、日本と韓国については「Annex I and Annex II, Part A」のみです。net of MFN組の残り3つを見ると、EUは「Parts A and C」、スイスは「Parts A and D」、台湾は「Parts A and K」で、エコノミー別の追加除外パートが割り当てられています1。同じ計算方式のグループでも、個別除外を持つ組と持たない組に分かれた、ということです。
| 見出し | 除外の内容 |
|---|---|
| 9903.05.85 | 在途貨物(2026年7月24日午前0時1分より前に積地で本船に積載され最終輸送段階にあり、7月28日午前0時1分より前に申告されたもの) |
| 9903.05.86 | note 52(b)に列挙されたHTSUS番号の品目(全エコノミー共通の除外リストで、Annex IIのPart Aに対応する) |
| 9903.05.87 | note 52(c)の16品目(エトログ、播種用のゴマ・マスタード・ベニバナ等の種子、宗教用の焼き菓子、アサイー、ココナッツウォーター、ユーカリ合板など) |
| 9903.05.88 | 民間航空機(軍用機以外のすべての航空機)とそのエンジン・部品・地上飛行シミュレータ(HTSUS general note 6の要件を満たすもの) |
| 9903.05.89 | 医薬用途に用いる品目(note 52(e)が列挙するHTSUS番号のものに限る) |
| 9903.05.90 | 232条の対象品目(note 52(f)が列挙する第99類見出しに規定されるものに限る) |
| 9903.05.91 | 米国の管轄に属する者による人道目的の寄贈品(食料・衣類・医薬品等) |
| 9903.05.92 | 情報素材(出版物、フィルム、ポスター、写真、CD-ROM、美術作品、ニュースワイヤ配信等) |
ここは自分で確かめておくといい箇所です。note 52(a)の柱書は、除外される見出しの範囲を「9903.05.85から9903.06.21」と広く書いています。ただし.93以降はエコノミー別の除外で、カナダ(9903.05.93)、メキシコ(.94)、CAFTA-DRの繊維・アパレル(.95)、英国(.96)、EU(.97)、スイス(.98)、マレーシア(.99)と続き、日本向けの見出し(9903.05.48/.49)を参照するものは一つもありません1。日本原産品の見出し自体も「9903.05.85から9903.05.92に記述された産品を除き」と限定しているので、確認範囲は8本で閉じます5。
実務上おそらく最も効くのが9903.05.90です。品目記述には、アルミ・鉄鋼・銅の製品と派生アルミ・鉄鋼製品、乗用車(セダン、SUV、CUV、ミニバン、カーゴバン)と小型トラックおよびその部品、中大型車およびその部品、木材製品、半導体品目が挙げられ、参照先の第99類見出しはnote 52(f)に列挙されています。派生アルミ・鉄鋼=9903.82.02および9903.82.04-9903.82.26、乗用車・小型トラックとその部品=9903.94系、木材製品=9903.76.01-.03と.20-.24、中大型車・バスとその部品=9903.74系、半導体=9903.79.01です1。要するに、すでに232条で追加関税がかかっている領域には301条を重ねない、という整理です。自社品目が232条側に入っているかどうかで結論が変わるので、ここは番号レベルで確認する価値があります。
発効日が2つある点も見落とせません。 Annex IのB項は、2026年7月31日午前0時1分以後に申告される物品について、9903.05.90の品目記述に「特許医薬品(patented pharmaceutical articles)」を「木材製品」の後に挿入し、note 52(f)に新項目(8)として「9903.04.60-9903.04.66に規定する特許医薬品」を追加すると定めています1。2026年7月30日時点のUSITC HTS上の9903.05.90の記述にはまだこの文言が入っておらず、7月31日発効を待っている状態です5。医薬品を扱う場合は、7月30日までの申告と7月31日以後の申告で扱いが変わりうるということです。
Annex II(91 FR 47394-47662)は「HTSUS/Description/Scope Limitations」の3列で、8桁のHTSUS番号単位に除外品目を並べた表です。共通のPart A(Goods of Any Investigated Economy)に続いて、Part B=英国、Part C=EU加盟国、Part D=スイス、Part E以降=マレーシア、カンボジア、グアテマラ、エルサルバドル、アルゼンチン、バングラデシュ、台湾、インドネシア、エクアドル、ヨルダン、そしてPart O=CAFTA-DRで無税輸入されるヨルダン/エルサルバドル・グアテマラの繊維・アパレル品、というエコノミー別の層が並びます。Scope Limitations欄の記号は「Ex=品目記述で限定」「Aircraft=民間航空機用に限る」「Pharma=医薬用途に限る」です7。日本原産品の照合で見るのはPart Aだけになります。
6月5日案からの変更として、公告III.Dは各調査でさらに471品目を除外したと述べています。対象分野は、一部動物性製品、種子、野菜製品、割当内の砂糖・砂糖含有製品、無香料インスタントコーヒー、一部肥料・農薬原料、動物皮革、一部木材製品、銑鉄や鉄系原料・スクラップ、アルミスクラップ、一部半導体製造装置、一部医薬品・医薬原料、古着、一部の骨董・美術品・収集品などです。ただしIII.C.2では、一部化学品の除外を「医薬用途(pharmaceutical applications)」に限定した、つまり非医薬用途は課税対象に戻したとしています1。除外欄のScope Limitationsに「Pharma」が付いた品目は、用途を証明できるかどうかで結論が変わるということです。
見落としやすい7つの論点
条文を読んでいて「ここは社内で共有しておかないと事故になる」と感じた点を並べます。出典は公告の文言で、大統領メモに基づく箇所はその旨を書き添えました12。
- 課税開始は公告日より前に遡る。 DATES欄は2026年7月24日午前0時1分(東部時間)以後の申告分に適用するとしており、公告日は7月28日。7月24日から27日の申告分の扱いは、実務上まず確認が必要な箇所になります。
- 在途救済は狭い。 9903.05.85の要件は「7月24日午前0時1分より前に積地で本船(vessel)に積載され最終輸送段階にあった」かつ「7月28日午前0時1分より前に申告された」の両方です。7月28日以後に申告した貨物は文言上そもそも外れます。航空貨物が「本船に積載」に読み込めるのかは条文からは判断できないので、ここはCBPの運用ガイダンスで確認する項目に入れておくのが安全です。
- FTZ(保税区)に置いて待つ戦術は使えない。 追加関税の対象産品を米国のFTZに搬入する場合、19 CFR 146.43の「domestic status」で搬入できるものを除き、19 CFR 146.41の「privileged foreign status」でのみ搬入可能とされています。搬入時の税率で固定される、ということです。
- 第98類は原則対象外だが、9802系は例外。 note 52(a)は第98類の規定で適切に申告された物品には追加関税を適用しないとしつつ、9802.00.40/.50/.60と9802.00.80を除いています。9802.00.40/.50/.60では「行われた修理・改造・加工の価額」に、9802.00.80では「海外で組み立てられた物品の価額から米国産品の費用または価額を控除した額」に追加関税がかかります。
- 特恵や一時的減免があっても上乗せは免れない。 general note 3(c)(i)による特別な関税待遇の対象品目、第99類subchapter IIによる一時的な免税・減税の対象品目も、本注に別段の定めがある場合を除き、9903.05.20-9903.05.84の追加従価税率の対象になるとされています。
- AD/CVDは別枠で続く。 本注の対象産品は引き続きアンチダンピング税、相殺関税その他の関税・税・手数料等の対象になると明記されています。
- 個別の除外申請窓口はない。 公告III.Gは、追加的な品目の関税を下げる除外プロセスを設けることは大統領の指示と整合しないとし、定期見直しの要望についてはTrade Act第307条(19 U.S.C. 2417)に措置の修正・必要性の見直しの規定があると答えています。大統領メモSec.3(e)も、307条に基づくものを含め、大統領の具体的指示に従って関税・免除・TRQを修正または終了しうるとしています。個社で除外を取りにいく道はなく、変更は政府間・制度レベルで動く設計です。
繊維の関税割当(TRQ)については、大統領メモSec.2がバングラデシュ・カンボジア・インドネシア・マレーシアの4カ国について、各国の米国産綿花・繊維品の輸入実績に基づき初期期間3年のTRQを実行可能と判断した時点で設定するとしています。同Sec.2(c)は、TRQを設定するまでは1(a)の税率(ここでは10%)を課すと明記しています2。公告III.Fも、繊維メカニズムは別公告で設定し、TRQの設定と発効日はFederal Registerで別途公表するとしています。つまり本公告時点で数量も発効日も未設定です1。
なお、60エコノミーごとの措置は相互に独立と明記されています。公告IVは、あるエコノミーに対する関税措置は他の調査における措置とは別個のものであり、いずれかの措置の実施が無効と判断された場合でも、無効となるのはその調査におけるその関税のみと扱われるべきとしています。大統領メモSec.4も同旨です12。日本向けの計算は他国分の帰趨と切り離して有効に動く建て付け、と読めます。
一次情報では確定できない論点(断定しない)
正直に書いておきます。ここまでの内容は公告原文とHTSUSの実データで確認できたものですが、実務判断に直結するのに現時点で確定できない論点が残っています。
- CBPの運用ガイダンス。 申告時の第99類番号の記載方法、7月24日から27日の遡及適用分の是正手続、9903.05.48と9903.05.49の使い分けの運用については、CBPのCSMSメッセージ等を別途確認する必要があります。本稿執筆時点で一次情報を取得できていないため、具体的な申告手順は書きません。
- 「column 1」が特恵を含むのか。 見出し9903.05.48/.49の文言は「rate of duty under column 1」、note 52(k)は「the applicable column 1 duty rate」であり、第1欄Specialに明示的に言及しているのは韓国の特定税率・複合税率のケースだけです。たとえば9506.31.00.00(ゴルフクラブの完成品)は第1欄Generalが4.4%で、Special欄に「Free (A,AU,BH,CL,CO,D,E,IL,JO,JP,KR,MA,OM,P,PA,PE,S,SG)」と日米貿易協定の「JP」が入っています6。Generalが12.5%以上でも特恵で12.5%未満になる品目がどちらの見出しに入るのかは、条文だけでは判断できません。本稿では「Generalが12.5%未満なら合計12.5%」という確実なケースに限って書いています。
- 日本政府の反応。 本稿執筆時点(2026年7月30日)で、経済産業省・外務省の公式見解を一次情報として確認できていません。首相官邸が公表している内閣官房長官記者会見の冒頭発言には本措置への言及がありませんが、公表されているのは冒頭発言のみで質疑の記録がないため、言及がなかったと断定はできません。
- 訴訟の状況。 本措置に対する提訴や司法判断の有無は確認していません。公告IVと大統領メモSec.4にseverability条項が置かれている事実だけが確認できています。
- 第99類の他の追加関税との積み上がり。 note 52(a)は他の追加関税と重なる建て付けを定めていますが、個別プログラムの現行税率との照合はしていないため、合計税率の試算はしていません。
実務チェックリスト
輸出者(日本側)と輸入者(米国側)が、この公告を受けて手を動かす順番として整理したものです。
- 対米出荷している全品目の8桁または10桁HTSUS番号を洗い出す。 米国側の輸入者が申告している番号が正解です。日本側で推定した番号と食い違っていることがあるので、突き合わせから始めます。
- 各番号の第1欄General税率をUSITC HTSで実測する。 記憶や過去資料ではなく現在の税率を引く。特定税率・複合税率の品目は、note 52(k)の式(支払関税額÷関税評価額)で従価換算率を出します。
- 12.5%を境に2群に分ける。 Generalが12.5%未満の群は9903.05.49で合計12.5%、12.5%以上の群は9903.05.48で上乗せゼロ。上乗せ幅(12.5%からGeneralを引いた値)を品目別に一覧化します。
- 除外に当たるかを4段階で確認する。 232条対象(9903.05.90/note 52(f)の参照先見出し)、民間航空機(9903.05.88)、医薬用途の品目(9903.05.89)、Annex II Part Aの8桁番号。医薬品はさらに7月31日発効の追加を確認します。
- 在途貨物と遡及期間を切り出す。 7月24日午前0時1分より前に積載・最終輸送段階にあり、7月28日午前0時1分より前に申告した貨物は9903.05.85。7月24日から27日の申告分は別扱いとして、対応をCBPガイダンスで確認するリストに入れます。
- 9802系・FTZ・保税を使っている取引を棚卸しする。 修理・改造・海外組立の課税ベース、FTZのstatus指定は個別に効きます。
- 上乗せ分の負担をどう分けるか、契約条件を確認する。 インコタームズと価格条項でどちらが吸収するかが決まります。DDPで出しているなら日本側の負担、FOBなら米国輸入者の負担が起点です。
- 社内説明と取引先説明の文面を用意する。 ここで、今回の課税は制度事実に基づく区分であって自社の労働慣行への評価ではない、という切り分けを明示します。取引先から「強制労働の疑いがあるのか」と問われる場面は現実に起きるので、公告の該当箇所を引ける状態にしておくと話が早い。
輸入禁止(UFLPA等)とは別レイヤーの話
最後に整理しておきたいのが、レイヤーの違いです。強制労働をめぐる米国の制度には、物を止める仕組みと、税をかける仕組みがあります。UFLPAや19 U.S.C. 1307に基づく輸入禁止は前者で、対象と判断されれば貨物が入りません。今回の301条措置は後者で、貨物は入るが税負担が上がる。前者は品目とサプライチェーンの実態に踏み込み、後者はどのエコノミーの産品かという区分で、除外品目を除いて横断的にかかる。混同すると、社内で「うちは強制労働の疑いをかけられたのか」という誤解が生まれます。
デューディリジェンスの実務そのものは、これまでの議論の延長線上にあります。UFLPAの枠組みと反証の実務はUFLPA(ウイグル強制労働防止法)の解説、サプライチェーンをどこまで遡って何を証拠として残すかはサプライチェーン・デューディリジェンスの手順にまとめています。米国側の輸出管理・関税の全体像は米国輸出規制とトランプ関税の現場、輸入が止まる側の日本の制度は関税法上の輸入禁制品を合わせて読むと、どのレイヤーの話をしているのかが整理しやすいと思います。
私たちが開発しているTRAFEEDは、取引先スクリーニングと該非判定を担う輸出管理AIエージェントで、関税率の計算そのものを行うツールではありません。ただ今回のように、規制の一次情報が数百ページ単位で出てきて、そこから自社の品目・取引先に効く部分だけを切り出す作業は、輸出管理と関税実務で完全に共通しています。原文にあたる回数を減らさずに、あたる範囲を絞る。今回の公告でいえば、345ページのうち日本原産品に効くのは見出し2本、共通除外8本、note 52の共通規定、そしてAnnex II Part Aでした。
まとめ
- USTRは2026年7月28日、日本を含む60エコノミーの産品に301条追加関税を課す公告を出した(91 FR 47318、FR Doc. 2026-15181)。課税開始は7月24日午前0時1分(米国東部時間)以後の申告分に遡る1
- 日本原産品の合計関税は「第1欄GeneralのMFN税率と12.5%のいずれか高い方」。MFNが12.5%未満なら9903.05.49で合計12.5%、12.5%以上なら9903.05.48で上乗せゼロ156
- この net of MFN 方式は日本・韓国・スイス(上限12.5%)とEU・台湾(上限10%)の5エコノミーのみ。他は「適用小見出しの税率+12.5%」が38、「+10%」が175
- 日本原産品の除外は Annex I の共通除外8見出し(9903.05.85-.92)と Annex II Part A に限られる。232条対象品目は9903.05.90で除外、特許医薬品は7月31日発効で追加1
- 課税区分に入ったことは、その国の企業や品目に強制労働があったという認定ではない。区分の基準は輸入禁止制度の有無と執行状況という制度事実で、301条(c)(3)(B)自体が対象行為への関与を問わない建て付けになっている1
- CBPの運用ガイダンス、特恵税率を主張する場合の閾値判定、繊維TRQの内容は本稿執筆時点で確定していない。これらは断定せず、確認事項として管理する
一次情報を読む作業は地味ですが、必要な数行を先に押さえた社内は判断が速い。ここまで整理した内容を主要HSコードの一覧に落とし込めば、価格交渉や見積の改定にすぐ使えます。
参考文献
- Office of the United States Trade Representative. Notice of Actions in Section 301 Investigations ... Related to the Failure of Each Economy To Impose and Effectively Enforce a Prohibition on the Importation of Goods Produced With Forced Labor. 91 FR 47318(2026年7月28日、FR Doc. 2026-15181、Annex I・Annex IIを含む)
- The White House. Memorandum of July 23, 2026: Actions by the United States in the Investigations Under Section 301 of the Trade Act of 1974 ... 91 FR 47717(FR Doc. 2026-15274)
- U.S. International Trade Commission. Harmonized Tariff Schedule of the United States(第99類 subchapter III 9903.05.20-9903.06.21、および各品目の第1欄税率)
- Office of the United States Trade Representative. USTR Takes Action in Forced Labor Section 301 Investigations(プレスリリース、2026年7月23日)
- Office of the United States Trade Representative. Fact Sheet: USTR Section 301 Action in Response to the Failure of 60 Economies to Ban Imports Produced with Forced Labor(2026年7月23日)
- U.S. Government Publishing Office. Federal Register FR-2026-07-28 パッケージ(公告本体PDF)
Footnotes
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Federal Register「Notice of Actions in Section 301 Investigations of Acts, Policies, and Practices of Various Economies Related to the Failure of Each Economy To Impose and Effectively Enforce a Prohibition on the Importation of Goods Produced With Forced Labor」91 FR 47318(2026年7月28日、FR Doc. 2026-15181)原文テキスト https://www.federalregister.gov/documents/full_text/text/2026/07/28/2026-15181.txt ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19 ↩20 ↩21 ↩22 ↩23 ↩24
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Federal Register「Memorandum of July 23, 2026: Actions by the United States in the Investigations Under Section 301 of the Trade Act of 1974 of the Acts, Policies, and Practices of 60 Economies ...」91 FR 47717(FR Doc. 2026-15274)原文テキスト https://www.federalregister.gov/documents/full_text/text/2026/07/28/2026-15274.txt ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Office of the United States Trade Representative「USTR Takes Action in Forced Labor Section 301 Investigations」(2026年7月23日、Greer代表の発言および手続の概要) https://www.ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2026/july/ustr-takes-action-forced-labor-section-301-investigations ↩ ↩2
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Office of the United States Trade Representative「Fact Sheet: USTR Section 301 Action in Response to the Failure of 60 Economies to Ban Imports Produced with Forced Labor」(2026年7月23日、USTR自身の説明) https://www.ustr.gov/about/policy-offices/press-office/fact-sheets/2026/july/fact-sheet-ustr-section-301-action-response-failure-60-economies-ban-imports-produced-forced-labor ↩
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U.S. International Trade Commission, Harmonized Tariff Schedule(第99類 9903.05.20-9903.06.21 の一括取得データ。見出しごとの品目記述と税率欄) https://hts.usitc.gov/reststop/exportList?from=9903.05.20&to=9903.06.21&format=JSON&styles=true ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
-
U.S. International Trade Commission, Harmonized Tariff Schedule 検索(9903.05.48/9903.05.49、および8471.30.01.00・3926.90.99・8482.10.50・6110.30.30・9506.31.00.00・2206.00.15の第1欄税率の個別照会) https://hts.usitc.gov/reststop/search?keyword=8482.10.50 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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U.S. Government Publishing Office, Federal Register FR-2026-07-28 パッケージ(FR Doc. 2026-15181 のPDF。Annex IIの構成とScope Limitations欄の記号を確認) https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2026-07-28/pdf/2026-15181.pdf ↩






