株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。
2026年8月5日、中国商務部が同じ日に2つの措置を公表しました。ひとつは米国の7つの企業・団体に対する反制措置、もうひとつはドローン関連の両用品目について、対米輸出管理を強化するというものです12。
米中のやり取りとして報じられましたが、原文を読むと、日本企業が直接の名宛人になっている部分があります。 しかも、日本の製造業がふだん当たり前に付き合っている業界団体が対象に入っています。
米中双方と取引のある企業に向けて、何が起きたのか、そしてどこに立つべきかを整理します。中国の制度は日本や米国と作りが違うので、前提から書きます。
この記事の要点
- 反制措置の名宛人は「中国国内の組織及び個人」。日系企業の中国現地法人は直接の対象
- 対象7者には、サプライチェーンの追跡・監査・認証にかかわる事業者と団体が含まれる。日本の製造業が多数加盟している業界団体も入っている
- ドローン関連両用品目の対米輸出は「逐案従厳審査」となり、許可の簡便化措置が適用されなくなった
- 中国には性格の違うリストが4種類ある。混同すると対応を誤る
- 日本は既に別枠で対象になっている。 2026年1月6日、中国は両用品目の対日輸出管理を強化した
- 米中どちらか一方に合わせる、という発想では立てない。両方向を同時に見る体制が要る
前提:中国のリストは1種類ではない
日本の実務者が最初につまずくのがここです。「中国のブラックリストに載った」という報道を見ても、どのリストなのかで意味がまったく違います。
| リスト | 根拠法 | 主な効果 |
|---|---|---|
| 反制清単(反制措置) | 反外国制裁法 | 中国国内の組織・個人が、その相手と取引・協力することを禁止 |
| 不可靠実体清単(信頼できない実体リスト) | 対外貿易法、国家安全法 等 | 中国に関わる輸出入・投資の制限、入国制限など |
| 出口管制管控名単(輸出管制コントロールリスト) | 輸出管制法 | 中国からその相手への両用品目の輸出を停止 |
| 関注名単(ウォッチリスト) | 輸出管制法 | 監視対象。輸出審査がより厳格になる |
今回の7者は反制清単です。つまり効き方は「中国側の主体が、その相手と取引できなくなる」という向きになります。
ここが日本企業にとって重要です。 「中国国内の組織及び個人」には、日系企業の中国現地法人が含まれます。 米国企業に対する措置だから日本には関係ない、とはなりません。
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何が決まったのか
1. 7つの米国の企業・団体への反制措置
商務部令2026年第2号(2026年8月5日)は、反外国制裁法の第3条、第4条、第6条、第9条、第10条、第15条および同法実施規定に基づき、6つの米国企業・団体への反制措置を決定しました2。
対象は次のとおりです。
- Applied DNA Sciences, Inc.(ニューヨーク州)
- Stratum Reservoir, LLC(テキサス州)
- Altana Technologies, Inc.(ニューヨーク州)
- Responsible Business Alliance(バージニア州)
- Verite Group, Inc.(バージニア州)
- Human Rights in China(ニューヨーク州)
措置の内容は「中国国内の組織及び個人が、これらと関連する取引、協力その他の活動を行うことを禁止する」というものです。
中国側が示した理由は、米国が「強制労働」を理由に中国企業へ制裁を行ったことに対し、これら6者が当該措置を援助・支持したというものです。これは中国政府の見解であり、対象企業に不正行為が認定されたわけではありません。 各社は米国の法制度の下で正当に事業を行っている事業者・団体であり、この記事はどちらの立場にも与しません。事実として「中国が反制対象に指定した」という点だけを扱います。
これとは別に、同日、無線・電気通信機器の適合性試験と認証を行う米国の第三者試験機関1社が、FCCの措置に関与したことを理由に反制対象とされました。合わせて7者です。
2. ドローン関連両用品目の対米輸出管理強化
商務部公告2026年第34号(2026年8月5日公布・即日実施)は、輸出管制法および両用品目輸出管制条例に基づき、次を定めました1。
両用品目輸出管制リストに掲載されたドローンおよびその主要部品、関連技術の対米輸出について、逐案従厳審査を行い、許可便利化措置を適用しない
ポイントは2つです。個別案件ごとに厳格審査にすること、そして簡便化された許可制度の対象から外すことです。禁止ではありませんが、実務上は許可の見通しが立ちにくくなります。
日本企業にとっての実務論点
論点1:中国現地法人が名宛人になっている
繰り返しますが、反制措置の禁止対象は「中国国内の組織及び個人」です。日系メーカーの中国工場、中国の販売子会社、現地の合弁会社は、この定義に入ります。
したがって確認すべきは「日本本社が米国のリストに載っていないか」ではなく、**「中国現地法人が、反制対象の7者と何らかの取引・協力関係を持っていないか」**です。視点が逆になります。
論点2:業界団体との関係をどう整理するか
今回いちばん実務に響くのが、対象に Responsible Business Alliance(RBA)が入っていることです。
RBAは電子機器を中心とするサプライチェーンのCSR・人権対応の業界団体で、日本の製造業も多数が加盟しています。 会員企業は行動規範に基づく監査や自己評価を運用しており、取引先から対応を求められる場面も一般的です。
ここで難しい問いが生まれます。中国現地法人がRBAの枠組みに参加すること、監査を受けること、会費を払うことは、「取引、協力その他の活動」に当たるのか。
正直に書きますが、現時点で明確な答えはありません。 公告は「相关交易、合作等活动」という包括的な書き方をしており、具体的にどこまでが禁止対象かの運用は示されていません。
ですので、実務としては次のように進めるのが現実的だと考えています。
- 中国現地法人が7者とどう接点を持っているかを、事実として洗い出す(会員契約の主体はどこか、監査の受け入れ主体はどこか、支払いの経路はどこか)
- 契約主体が日本本社や第三国法人であれば、中国国内の主体が当事者になっていないかを確認する
- 現地の法律事務所に照会する。 反外国制裁法の運用は判断が分かれる領域なので、一般論で決め打ちしない
「グループとして人権デューデリジェンスを進めること」自体が悪いという話ではまったくありません。 米国側の要請に応えるための仕組みが、中国側の措置の対象になった、という板挟みの構造が生まれている、というのが実態です。この板挟みこそが、いまの経済安全保障の実務の難しさです。
論点3:ドローンとその部品の供給
対米輸出管理の強化は、直接には中国から米国へ輸出する事業者に効きます。ただし日本企業も無関係ではありません。
- 中国製のドローンや、その主要部品を組み込んだ製品を扱っている場合、供給の安定性に影響が出うる
- 米国向けに完成品を出している場合、部品の調達元が中国であれば、そこが詰まる
規制の名宛人ではなくても、供給網の途中で効いてきます。
論点4:日本は既に別枠で対象になっている
ここは見落とされがちですが、重要です。
2026年1月6日、中国商務部は公告2026年第1号を公布し、両用品目の対日輸出管理を強化しました(公布日から即日実施)3。内容は、すべての両用品目について、日本の軍事ユーザー、軍事用途、および日本の軍事力向上に資するその他の最終ユーザー・用途への輸出を禁止するというものです。逐案審査ではなく禁止です。
中国側が示した理由は、日本の指導者の台湾に関する発言です。通商上の理由ではなく外交上の理由で発動されている点は、実務的に意味があります。技術的な該非判定では説明がつかない動き方をしうる、ということだからです。
さらに2026年2月には、日本の20の事業者が輸出管制管控名単に、別の20の事業者が関注名単に掲載されました。
繰り返しますが、リストへの掲載は規制上の区分であって、掲載された企業が不正を行ったという判断ではありません。 掲載された日本企業は、日本の法令の下で正当に事業を営む事業者です。当事者としては、自社の位置づけを把握し、取引先へ説明できる状態を作ることが実務になります。
米中双方と取引する企業は、どこに立つべきか
ここが本題です。私の考えを書きます。
「どちらかに寄る」は選択肢にならない
まず、片側に合わせて組み替える、という発想が成り立たなくなっています。
米国の措置に合わせて中国製の調達を切り替えれば、それは中国側から見れば米国の措置への協力です。実際、今回反制対象になった7者は、いずれも米国の措置の実施を技術・基準・データの面で支えたことを理由に挙げられています。「米国の要請に応えた」ことが、中国側の措置の引き金になっているという構造です。
逆に中国側に配慮して米国の要請に応じなければ、米国側で問題になります。
どちらかに寄って安全になる位置は、もう存在しません。
立てる場所は「事実と手続」
では何ができるか。自社の判断を、政治的な立場ではなく、事実と手続で説明できる状態にしておくことだと考えています。
具体的には次の3つです。
1. 各国の措置を、それぞれの法令に沿って個別に評価する。 米国の措置は米国法の問題、中国の措置は中国法の問題として、別々に判定します。混ぜて「地政学リスク」として丸めない。 丸めると、どちらの当局にも説明できない判断になります。
2. 判断の根拠を残す。 どの公告のどの条項に基づき、どの取引をどう扱ったか。後から第三者に説明できる形で記録する。 板挟みの状況では、結論そのものより「合理的な手続を踏んだか」が問われます。
3. 法域ごとに主体を整理する。 中国国内の主体が当事者になる取引と、そうでない取引を分けて把握しておく。今回の反制措置のように「中国国内の組織及び個人」を名宛人とする措置は、契約主体をどこに置いているかで結論が変わります。
やってはいけないこと
**「うちは中国とも米国とも取引しているから、どちらの規制にも触れないように黙っておく」**という対応です。これがいちばん危ない。
規制は増える方向にあり、しかも今回のように外交上の理由で急に動きます。 平時に整理しておかないと、動いたときに何も分からないまま止まります。
実務でやること
1. 中国現地法人を主語にした棚卸しをする。 日本本社ではなく、中国の法人が誰と取引・協力しているか。反制清単は現地法人に直接効きます。
2. 業界団体・認証機関・調査会社との関係を、契約主体レベルで把握する。 今回のように、事業会社ではなく団体や試験機関が対象になる例が出ています。取引先だけを見ていると拾えません。
3. 中国の4種類のリストを、それぞれ別に照合する。 反制清単、不可靠実体清単、管控名単、関注名単。根拠法も効果も違うので、まとめて1つのリストとして扱わないこと。
4. 対日措置の影響を、自社の輸出入の両面で確認する。 中国からの調達(対日輸出管理の強化)と、中国への輸出(管控名単・関注名単)の両方向です。
5. 更新を追い続ける仕組みを持つ。 今回の措置は8月5日に公布・即日実施でした。四半期に一度の点検では間に合いません。
私たちのTRAFEEDは、米国・中国・日本それぞれの一次情報を継続的に追いながら、取引先の審査と該非判定を支援しています。今回のように「同じ日に、複数の根拠法に基づく複数の措置が出る」ケースは、人手での追跡がいちばん破綻しやすいところです。 事前確認シートによる調査もお引き受けしていますので、板挟みの整理でお困りでしたらご相談ください。
まとめ
- 2026年8月5日、中国商務部が7者への反制措置とドローン関連両用品目の対米輸出管理強化を同時に公表した
- 反制措置の名宛人は「中国国内の組織及び個人」。日系企業の中国現地法人は直接の対象
- 対象にサプライチェーンの追跡・監査・認証にかかわる事業者と団体が含まれ、日本の製造業が多数加盟する業界団体も入っている。契約主体レベルでの棚卸しが要る
- ドローン関連は禁止ではなく逐案従厳審査。ただし許可便利化措置の対象外となり、見通しは立ちにくい
- 中国のリストは性格の違うものが4種類ある。混同すると対応を誤る
- 日本は既に別枠の対象。 2026年1月6日から両用品目の対日輸出管理が強化され、2月には日本の事業者がリストに掲載された
- 掲載は規制上の区分であって、企業の是非の判断ではない
- 片側に寄って安全になる位置はもう無い。事実と手続で説明できる状態を作ることが実務
米中の応酬は、当面続くと見ておくのが現実的だと思います。そのたびに右往左往しないために要るのは、政治的な読みではなく、自社の取引を法域ごとに整理した地図です。 地図さえあれば、次に何が出ても当てはめるだけになります。
Footnotes
-
中華人民共和国商務部公告2026年第34号「公布加強無人機相関両用物項対美国出口管制」(2026年8月5日). https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2026/art_74835ca289b5463f9c36cb983b689dba.html ↩ ↩2
-
中華人民共和国商務部令二〇二六年第2号「関于対応用DNA科学公司等6家美国実体采取反制措施的決定」(2026年8月5日). https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2026/art_bd62c275eb144ba7bc6a50716ab823b6.html ↩ ↩2
-
中華人民共和国商務部公告2026年第1号「関于加強両用物項対日本出口管制的公告」(2026年1月6日). https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2026/art_8990fedae8fa462eb02cc9bae5034e91.html ↩





