こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。令和8年版防衛白書を通読する全5回シリーズの、最終回をお届けします。
この回で分かることを、先に結論から書きます。白書の第Ⅳ部は、防衛の装備を作る産業と技術の土台をどう強めるかを扱っています。第Ⅴ部は、その装備を運用する自衛隊員という人の土台をどう守り、育てるかを扱っています。白書は、現在の安全保障環境が、防衛生産・技術基盤はいわば防衛力そのものだという事実を浮き彫りにしたと述べています1。作る力と担う人の両方がそろって、防衛力は成り立つという考え方です。
この回は、輸出管理、経済安全保障、製造業に関わる読者の方に、特に近い範囲です。防衛生産基盤強化法、防衛装備移転三原則、経済安全保障推進法、機微技術の管理など、日ごろの実務と接点のある言葉が並ぶからです。防衛と無縁だと感じている方にも、中小企業やスタートアップが防衛とどう関わりうるのか、白書が示す入口を整理します。
この記事は、白書が述べていることを白書の言葉で説明する解説です。「白書は〜と述べている」と書いた部分は政府の認識であり、筆者の評価ではありません。筆者の見方は、そのつど「筆者の見方」と断ります。賛否のある論点についても、評価はせず、白書が述べる目的と内容を伝えることに徹します。
シリーズの中での位置づけは、第1回が巻頭特集と日本の安全保障・防衛政策、第2回が米国、中国、朝鮮半島、ロシアなどの情勢、第3回が各地域と新しい戦い方、第4回が防衛目標を実現する3つのアプローチです。第5回の今回は、その土台にあたる産業・技術基盤と人的基盤です。
先に押さえる言葉
専門用語が多い範囲なので、先に主な言葉を並べます。日常の例えは筆者によるものです。
| 言葉 | 意味 | 日常の例え |
|---|---|---|
| 防衛生産・技術基盤 | 装備品を研究、開発、生産、整備するための産業と技術の土台 | 料理を支える農家、問屋、調理器具のすべて |
| プライム企業 | 防衛省から直接注文を受ける大企業 | 工事を元請けする会社 |
| サプライヤー | プライム企業に部品や材料を納める多くの事業者 | 元請けの下で働く専門の職人さん |
| 防衛生産基盤強化法 | 防衛産業の安定した生産を国が支える法律。2023年施行 | 町の大事な工房を、国が設備や後継ぎの面で支える仕組み |
| デュアルユース | 民生にも防衛にも使える技術 | 包丁が料理にも工作にも使えること |
| 防衛装備移転三原則 | 防衛装備を海外へ移す場合の基本ルール。2014年策定、2026年4月改正 | 貸し出しの校則 |
| 5類型 | 完成品の移転を救難、輸送、警戒、監視、掃海に限っていた従来の区分 | 貸してよい物の限定リスト |
| 外為法 | 外国為替及び外国貿易法。貨物や技術の輸出入を管理する法律 | 国境の通関の決まり |
| 経済安全保障 | 経済上の措置で、国の平和、安全、繁栄を守る考え方 | 部品の供給を一か所に頼りすぎない備え |
| 充足率 | 自衛官の定員に対して実際にいる人数の割合 | 席数に対して座っている人の割合 |
防衛産業が置かれている状況と、防衛生産基盤強化法
第Ⅳ部の第1章は、まず状況を整理します。白書によると、科学技術の急速な進展が安全保障のあり方に根本的な変化をもたらし、各国は自国の技術的優位性を確保するために研究開発を加速しています。AI、量子技術、新たな形でのエネルギーの利用といった新技術が装備品に適用され、戦いの様相は、陸・海・空から宇宙・サイバー・電磁波の領域や人の認知の領域にまで広がりつつあると説明されています2。
日本の防衛産業には特徴があります。白書によると、日本には装備品を製造する国営工場である工廠がないため、基盤の重要な役割を、プライム企業だけでなく、サプライヤーと呼ばれる多くの中小受託事業者に大きく頼っています。戦車や戦闘機には1,000社以上、護衛艦には8,000社以上の企業が、部品の製造や組立てに携わっているとも指摘されている、と白書は書いています3。
白書は、防衛事業ならではの難しさも率直に挙げています。高度な性能や情報保全への対応に大きな経営資源が要ること、顧客が基本的に防衛省と自衛隊だけで生産数が限られ、投資を回収する機会が少ないこと、防衛事業に忌避感やレピュテーションリスクを抱く企業がなお存在することなどです。その結果、撤退や事業規模の縮小を決める企業が断続的に現れ、安定した調達に支障が出るだけでなく、長期的には適正な競争環境とイノベーションが失われるおそれもある、と述べています。さらに、国家の関与が疑われるサイバー攻撃の脅威の高まりと、外国政府の輸出規制で原材料が入らなくなるリスクも挙げています3。
防衛生産基盤強化法は何を支えるのか
この状況に対する中心的な法律が、防衛生産基盤強化法(正式名称は「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律」)で、2023年に施行されました。防衛産業は装備品のライフサイクルの各段階、つまり研究、開発、生産、維持・整備、補給、用途廃止などを担っており、装備品と防衛産業は一体不可分だというのが、白書の出発点です4。
防衛大臣は基本方針を定めることとされ、2023年10月に公表されました。基本方針は、2014年策定の「防衛生産・技術基盤戦略」に代わるものです。国産での取得を追求する分野として、白書は、国内技術で条件を満たせるもの、有事の持続的な対応能力から不可欠なもの(弾薬や艦船)、機密保持の観点から外国に頼るべきでないもの(通信や暗号技術)などを挙げ、同時に国際共同研究・開発やライセンス国産も進めるとしています。民生と防衛の双方で基盤が強まる「防衛と経済の好循環」という考え方も示されています4。
仕組みの核は、特定取組の認定です。装備品の製造には、原材料が入らなくなる、設備の老朽化で納期や性能に響く、工程にマルウェアなどが混入した懸念部品が入り込む、サイバー攻撃で情報が流出する、事業が続けられなくなる、といったリスクがあります。事業者が行う取組を、白書は次の4つの類型で示しています5。
| 類型 | 取組の例(白書の記述) |
|---|---|
| サプライチェーン強靱化 | 原材料の国産化と備蓄、代替素材や部品の研究開発など |
| 製造工程効率化 | 最新設備の導入、人工知能による検査工程の自動化など |
| サイバーセキュリティ強化 | 情報システムの強化、社内人材の育成など |
| 事業承継など | 製造設備などの整備、人材育成(技術やノウハウの習得)など |
事業者が装備品安定製造等確保計画を提出し、防衛大臣が認定します。防衛省は認定後に事業者と直接契約を結び、契約に従って遅滞なく対価を支払います。民間向けと併用する設備でも認定を受けられます。2025年度は計164件が認定され、そのうち124件が中小企業による取組でした5。
このほか、装備移転の際に仕様や性能を調整する費用を助成する防衛装備移転円滑化基金(2024年3月造成、2026年6月1日時点で計1,600億円を交付)6、秘密情報を「装備品等秘密」として指定し、取り扱う事業者に管理の徹底を求めて故意の漏えいに罰則を設ける措置、QCD評価(品質、費用、納期などの評価)により利益率を5〜10%の間で算定する見直しも、白書は説明しています7。
ここまでの要点です。
- 白書は、日本の防衛産業を、工廠を持たず、プライム企業と多数のサプライヤーが支える構造だと説明しています。
- 防衛生産基盤強化法は、サプライチェーン強靱化、製造工程効率化、サイバーセキュリティ強化、事業承継などに、国が契約して対価を払う仕組みです。
- 2025年度の認定は計164件で、うち124件が中小企業による取組です。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
民間企業、中小企業、スタートアップは、防衛とどう関われるのか
白書は、防衛産業に未参入の企業が参画することを、防衛産業の活性化と基盤強化の観点から極めて重要だと位置づけ、特にAIや情報通信技術などの先端ソフトウェア技術を持つスタートアップを取り込むことが不可欠だと述べています8。白書が示す入口を、順に整理します。
1つ目は、先ほどの事業計画の認定です。認定された計画、申請方法、相談窓口は、防衛装備庁のホームページに掲載されていると、白書は述べています9。
2つ目は、防衛産業参入促進展です。防衛装備庁が2016年から開いている展示会で、優れた技術や製品を持つスタートアップや中小企業が、防衛関連企業や防衛省・自衛隊とマッチングする機会をつくります。2025年度は12月と2月に東京で、各2日間開かれました8。
3つ目は、スタートアップ向けの枠組みです。防衛省と経済産業省の関係部署が会合する「防衛産業へのスタートアップ活用に向けた合同推進会」と、技術分野ごとにマッチングを図る「スタートアップ合同ヒアリング」があります。契約面では、2024年6月に「スタートアップ技術提案評価方式」の申合せが行われました。最適な解決策を見つけにくい課題について、優れた提案をした企業と仕様を詰めたうえで随意契約ができる方式で、防衛省は2025年3月に株式会社インフォステラと結び、政府で最初の適用事例になったと白書は書いています8。日本スタートアップ大賞には、2025年から防衛大臣賞(防衛スタートアップ賞)が新設され、株式会社Synspectiveが受賞したとも記されています8。
さらに、2026年2月に公表された「ファストパス調達」の取組は、次の4点です10。
- スタートアップなどの研究開発を支援する政府共通のスキームであるSBIR制度を使い、自衛隊の運用ニーズを踏まえた研究開発を促す。
- スタートアップ技術提案評価方式を、さらに活用する。
- 部隊が企業と一体となって早期の装備化を目指す、アジャイル型調達を制度化する。
- 「スタートアップ活用伴走支援グループ」を新設し、運用ニーズとのマッチングや契約時の障害の解決まで支援する。
受け入れる側の環境も整えられています。防衛装備庁と経済産業省は2025年3月に、労務費などを適切に価格へ転嫁し、必要な利益を確保することを目的とした「防衛産業における受託適正取引等の推進のためのガイドライン」を共同で策定しました。情報保全では、2025年6月に「防衛事業適合事業者制度」が創設されています。事業者の保全体制をあらかじめ審査して認証し、事業所単位で契約をまとめる仕組みで、事務手続きの迅速化につながるとされています。秘密ではないが保護が必要な情報には、米国防省のNIST SP800-171と同水準の基準が2023年4月から適用され、2026年3月現在、100社を超える国内の防衛関連企業が情報システムの改修や新規導入を行いました11。
白書には、制度を使って設備を更新した企業、異業種から転職して溶接に携わる従業員、スタートアップの経営者などの「声」も載っています。ここでは評価せず、白書が現場の声として紹介している、とだけお伝えします12。
ここまでの要点です。
- 入口は、事業計画の認定、参入促進展、スタートアップ向けの合同推進会、技術提案評価方式、ファストパス調達などです。
- 取引の適正化と情報保全の制度も、あわせて整えられています。
防衛技術基盤の強化と、経済安全保障との関係
第2章第2節は、技術の側を扱います。白書は、防衛省の研究開発費は米国などと比べれば低いものの、近年は大幅に増加していると述べます。民生と安全保障の技術の区別が極めて難しくなっているため、官民の研究成果を装備品に活用することが重要だという立場です13。
その方針を具体化したのが、2023年6月に策定された「防衛技術指針2023」です。第1の柱は、わが国を守り抜くために必要な機能と装備を早期につくり、5年以内、またはおおむね10年以内の早期装備化を実現すること、第2の柱は、10年以上先も見据えて官民の研究開発コミュニティを広げ、技術的優越を確保することです13。
民生技術の取り込みには、次の取組があります14。
| 取組 | 白書の記述 |
|---|---|
| Kプログラム(経済安全保障重要技術育成プログラム) | AIや量子技術など、多義性のある先端分野を国が後押しし、成果を安全保障分野にもつなげる |
| 安全保障技術研究推進制度 | 大学、研究機関、スタートアップなどから基礎研究を公募。2025年度までに239件を採択 |
| 防衛イノベーション科学技術研究所 | 2024年10月に防衛装備庁が創設。ブレークスルー研究を行う |
| 防衛科学技術委員会 | 2025年6月に設置された防衛大臣への助言機関。2026年3月までに6回開催 |
安全保障技術研究推進制度について、白書は、研究の自由を最大限尊重するため、防衛省による研究への介入、成果の公表制限、成果の秘密指定、研究者への秘密の提供は行わないと明記しています14。
経済安全保障の中での位置づけ
ここからは、輸出管理や経済安全保障の担当者に身近な話題です。白書は、国家安全保障戦略の考え方を引いて、経済安全保障を、国益を経済上の措置を講じて確保することと説明し、自律性の向上と、技術などに関する優位性と不可欠性の確保に向けた経済施策を、総合的、効果的、集中的に講じる必要があるとしています。日本政府の動きとして、次の点が整理されています15。
- 2022年5月に経済安全保障推進法が成立し、2024年5月には特許出願の非公開と基幹インフラの両制度が運用を開始して、同法の全ての制度が運用されることになりました。
- 特定重要物資は、2022年12月に半導体や蓄電池など11物資、2024年2月に先端電子部品を加えて12物資、2025年12月に無人航空機や人工衛星など4物資を新たに指定して合計16物資になりました。
- セキュリティ・クリアランス制度として、2025年5月に「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」が施行されました。
防衛省の役割について、白書は、安全保障担当官庁として蓄積した知見とニーズを提供し、内閣府への人員派遣やKプログラムの指定基金協議会への参画などを通じて、政府一体の取組に参加していると述べます15。防衛と経済の関係では、防衛予算の約8割から9割が国内向けの支出であること、防衛費の増額などが雇用創出や地域経済の活性化、民間への技術的な波及効果につながると考えられることを挙げ、2026年2月には防衛大臣と経済産業大臣が共同座長を務める防衛産業ワーキンググループが立ち上がったと書いています16。
筆者の見方を1つだけ添えます。原材料の輸出規制、先端技術の保全、サイバー攻撃、特許出願の非公開といった課題は、防衛産業に限らず、一般の製造業が向き合っている経済安全保障の課題と地続きです。基礎は経済安全保障推進法とは?4本柱と2026年改正を初心者向けに完全解説に、技術流出の防止策は技術流出対策ガイダンス第2版を読む(前編)にまとめています。白書も、防衛装備の移転で技術的機微性評価を行い、機微性の高い技術にリバースエンジニアリング対策を進めると述べています11。
ここまでの要点です。
- 防衛技術指針2023は、早期装備化と技術的優越の確保の2つの柱を示しています。
- 白書は、防衛生産・技術基盤の維持強化を、サプライチェーン強靱化や先端技術の保全・育成と並ぶ経済安全保障の施策と位置づけています。
防衛装備移転三原則と、外為法の輸出管理は何が違うのか
第3章は、装備を海外へ移す話です。輸出管理の実務に携わる方が、制度の違いで混乱しやすい部分でもあります。
防衛装備移転三原則とは
防衛装備移転三原則は、2014年に策定された、防衛装備の海外移転に関する政府の基本方針です。名称に「移転」を使うのは、貨物に加えて技術の提供が含まれるからだと、白書の脚注にあります。骨格は次の3つです17。
| 原則 | 内容(白書の記述) |
|---|---|
| 第一原則 | 移転を禁止する場合を明確化。条約等の義務に違反する場合、国連安保理決議に基づく義務に違反する場合、紛争当事国への移転となる場合 |
| 第二原則 | 移転を認め得る場合を、平和貢献・国際協力に資する場合や日本の安全保障に資する場合などに限定。厳格に審査し、重要な案件は国家安全保障会議で審議して情報を公開。自衛隊法上の武器にあたる完成品は、国会へ速やかに通知 |
| 第三原則 | 目的外使用と第三国移転について、原則として日本の事前同意を相手国政府に義務づけるなど、適正な管理を確保 |
2026年4月の改正と、5類型
白書によると、完成品の移転は、国際共同開発・生産やライセンス生産品を除き、5類型(救難、輸送、警戒、監視、掃海)の場合に限られてきました。2025年10月の自由民主党と日本維新の会の連立政権合意書、2026年3月の与党提言を踏まえ、2026年4月に三原則と運用指針が改正されました。結果として、全ての完成品、部品、技術、修理などの役務の提供が、制度上は原則として移転可能になったと説明されています。欧米や東南アジアなどの国から歓迎や期待の意が表明されたとも書かれています18。
同時に、白書は歯止めも説明しています19。
- 審査では、仕向先と最終需要者の適切性、移転が日本の安全保障に及ぼす懸念の程度を、複合的に考慮して厳格に審査します。
- 自衛隊法上の武器にあたる完成品は、国連憲章の目的と原則に適合する方法での使用を義務づける国際約束(いわゆる防衛装備品・技術移転協定)を結んでいる国に限ります。
- 武力紛争の一環として現に戦闘が行われていると判断される国には、原則として移転しません。
- 仕向国・地域の安全保障環境、仕向国・地域の輸出管理体制などの審査項目を明記し、移転を認め得ると判断したときは国会に通知します。
この協定は、2026年4月現在、米国、英国、オーストラリア、インドなど17か国と結ばれていると、白書の脚注にあります20。
外為法の輸出管理との違い
ここからは、白書の記述に基づく筆者の整理です。白書は三原則の説明に紙幅を割いていますが、外為法との関係は詳しく論じていません。制度の違いを、大づかみに整理します。
| 比べる点 | 防衛装備移転三原則 | 外為法に基づく一般の輸出管理 |
|---|---|---|
| 対象 | 防衛装備(完成品、部品、技術、役務) | 貨物と技術全般。リスト規制とキャッチオール規制など |
| 位置づけ | 防衛装備の海外移転についての政府の基本方針と運用指針 | 法律に基づく許可制度 |
| 判断の視点 | 平和貢献・国際協力、日本の安全保障、仕向先の適切性、適正管理 | 品目、仕向地、用途、需要者の確認 |
| 特徴的な手続き | 国家安全保障会議での審議、国会への通知 | 経済産業大臣の許可、事前の該非判定 |
防衛装備の移転と、一般の貨物や技術の輸出管理は、別の枠組みです。ただし、同じ取引が両方に関わる場面はあります。部品や技術の移転が制度上は原則可能になったからといって、外為法上の手続きが不要になるわけではない、という点が実務では大切です。自社の品目や技術がどの枠組みで判断されるのかは、取引の早い段階で確かめてください。細部は、防衛装備移転三原則とは?5類型撤廃で武器輸出はどう変わるか、輸出許可と輸出承認の違い、外為法第55条の8の技術管理制度にまとめています。
ここまでの要点です。
- 三原則は2026年4月に改正され、完成品の5類型の限定がなくなりました。自衛隊法上の武器には、国際約束の締結、審査項目、国会への通知といった歯止めがあります。
- 外為法の輸出管理は別の枠組みで、両者が重なる場面では早めの確認が大切です。
米国や同志国との協力、そして調達の最適化
米国との協力
白書によると、日米の防衛装備・技術協力は、同盟の技術的優位性、相互運用性、即応性、持続的な対応能力を確保するための取組です。中心的な枠組みが、日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)で、2024年4月の日米首脳共同声明で開催が決まりました。4つの作業部会(ミサイル共同生産、航空機整備、サプライチェーン強靱化、艦船整備)で進捗を確認し、2026年4月の第4回では、取組が実行段階に移ったとして、通称をDICAS 2.0とすることで一致しました。インド太平洋における産業基盤強靱化パートナーシップ(PIPIR)には、米国に加えてオーストラリア、韓国など計16か国が参加しています21。供給の安定化では、2023年に「防衛装備品等の供給の安定化に係る取決め」(SoSA)が署名されています22。
新たな協力の形
2025年8月、オーストラリア政府は次期汎用フリゲートとして、もがみ型護衛艦の能力向上型を選定しました。今後、日豪で計11隻を共同開発・生産することになり、2026年4月には3番艦までの契約締結が発表されたと、白書は書いています。次期戦闘機は、日本、英国、イタリアによるグローバル戦闘航空プログラム(GCAP)で、2024年12月に政府間機関のGIGOが、2025年6月に民間の合弁企業Edgewingが設立され、2026年4月には最初の統合契約が結ばれました23。
装備品の最適化
第4章は、限られた人材と予算で必要な能力を得る取組です。白書は、人口減少と少子高齢化、厳しい財政事情のもとでは装備体系の合理化が必要不可欠だとして、無人化と省人化、そして装備品のライフサイクルを通じたプロジェクト管理を柱に挙げます。契約制度では、長期契約法により、財政法で原則5か年度以内とされる支出年限を、特定の装備品について10か年度以内にしています。調達の公正性については、2024年から翌年の潜水艦修理契約に関する特別防衛監察での指摘を受け、原価調査と制度調査の実効性の向上などの見直しを行ったと書かれています24。
ここまでの要点です。
- DICASとPIPIRは、ミサイルの共同生産、艦船や航空機の共同維持整備、サプライチェーンの強靱化を進める枠組みです。
- もがみ型護衛艦の能力向上型の豪州への移転とGCAPが、新たな協力の例です。
第Ⅴ部 人的基盤の強化(1)自衛隊員を確保し、処遇を改善する
ここからは第Ⅴ部です。白書は冒頭で、自衛隊員は全国の駐屯地、基地、艦艇のほか、離島や洋上、海外でも任務に従事しており、一人ひとりがわが国の平和と独立を守る使命の担い手だと述べています。自衛隊員は全国で約24万人、このほかに事務官、技官、教官などが2万人を超えて勤務しています25。
人材確保の現状
白書は、人材確保の状況を数字で示しています。内閣府の世論調査では国民の9割が自衛隊に好意的な印象を持っていますが、自衛官の確保は困難な状況です。2024年度は約1万5,000人の採用計画に対し採用者は1万人に達せず、中途退職者は約5,600人でした。2025年度は約1万5,000人の計画に対し約1万1,000人が採用され、中途退職者は前年度から約1,000人減って約4,600人となり、白書は基本方針に基づく施策が一定の効果をあげていると考えています。それでも充足率は約9割にとどまり、人材確保は引き続き至上命題だと述べています26。背景として、民間企業などとの人材獲得競争の激化を挙げ、「就職したい、働き続けたい」と感じられる職場にすることが急務だとしています27。
基本方針と処遇改善
2024年10月に内閣総理大臣を議長とする関係閣僚会議が設置され、同年12月に「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」がまとまりました。2026年度予算には関連経費として約5,814億円が計上されています26。
給与面では、2025年度から、過去に例のない30を超える手当などの新設や引き上げが実現しました。2025年の人事院勧告を踏まえた給与改定では、30代や40代の隊員も年収で20万円以上増え、全自衛官の給与が過去最高の額になったと、白書は書いています26。自衛官の俸給表は、1950年の警察予備隊の発足時に作られた構造が約70年間大きく見直されてこなかったとして、2027年度中に独自の見直しを実現することを目指し、防衛人事審議会の「処遇・給与部会」で検討を進めています28。
採用の入口も見直されています。士と曹で約5年勤務した後に幹部となる「幹部候補曹」(2025年募集開始)、陸自でサイバーなどに特化した「一般幹部候補生(専門)」(2025年度から)、自衛官候補生制度を廃止して当初から自衛官として採用する「新たな任期制士」(2026年度から募集)、専門人材を採る任期付隊員制度での自衛官募集(2025年度から)、自衛隊奨学生の年額を96万円へ引き上げることなどです。2025年度は士となる一般曹候補生と自衛官候補生の採用者が約9,300人で、一般曹候補生は5年ぶりに増加に転じました。予備自衛官にも、手当の引き上げや、個人事業主向けの「予備自衛官事業継続給付金」の新設などの改善が行われています28。
退職後の生涯設計
自衛隊は精強性を保つため、多くの自衛官が50代半ば以降に退職する若年定年制を採っています。白書は、退職後の収入や再就職への不安を取り除くことが、人材確保の面でも重要だと述べます。1佐から3曹までの定年は2020年から2024年の間に2歳ずつ引き上げられ、2028年から2032年の間にさらに2歳ずつ引き上げる予定です29。
再就職支援の2025年度実績は、若年定年退職者で支援を希望した4,062人のうち4,027人(99.1%)、任期満了退職者で730人のうち727人(99.6%)の就職が決まりました。2026年3月末現在、地方公共団体の防災・危機管理部門には692名の退職自衛官が在職しています。若年定年退職者給付金は見直されて2026年度から施行され、2026年度中に65歳までの再就職支援に向けた制度整備を目指すとしています29。
ここまでの要点です。
- 2025年度の採用は計画約1万5,000人に対して約1万1,000人、中途退職は約4,600人で、充足率は約9割です。
- 2025年度から30を超える手当などが新設または引き上げられ、2027年度中に独自の給与体系の見直しを目指しています。
- 採用区分の新設、予備自衛官の処遇改善、定年の引き上げ、再就職支援の拡充が一体で進められています。
第Ⅴ部 人的基盤の強化(2)サイバー人材、多様な人が働ける職場、安心して任務に就ける環境
サイバー人材の確保
白書によると、防衛力整備計画は、2027年度を目途にサイバー専門部隊を約4,000人に拡充し、サイバー関連業務に従事する隊員への教育を加えて、サイバー要員を約2万人体制にするとしています。2024年7月に公表された「防衛省サイバー人材総合戦略」は、人材の特定、確保、育成、維持・管理、そして施策全体の強化という5つの柱を掲げ、入隊段階からサイバー業務を続けられるキャリアパスや、専門知識を持つ人材の特定任期付自衛官やキャリア採用幹部としての採用などを示しています。入隊時にサイバーの知識がなくても、入隊後にレベルに応じて学べる専門の学校があるとも説明されています30。
ワークライフバランスと女性の活躍
防衛省は2015年以降、女性職員の活躍とワークライフバランス推進の取組計画を策定、改訂し、2026年には働き方改革と多様な職員の活躍推進を2本柱とする新しい計画を策定しました。早出遅出勤務やフレックスタイム制、テレワーク、男性職員の育児休暇・休業の取得促進、全国9か所の庁内託児施設などが挙げられています。女性の活躍について、白書の数字は次のとおりです31。
| 項目 | 現状(白書の記述) | 目標(白書の記述) |
|---|---|---|
| 女性自衛官 | 2026年3月末現在、約2万人で全自衛官の約9.3%(10年前は約5.9%) | 2035年度までに全自衛官の13%以上 |
| 自衛官採用者に占める女性 | 18.1%(2025年度) | 2026年度以降、毎年度20%以上 |
| 女性事務官・技官・教官など | 約5,700人で約28.6%(10年前は約23.6%) | 採用者の割合を2026年度以降40%以上 |
2025年7月に特殊武器(化学)防護隊の一部の部隊の配置制限が解除され、陸・海・空自衛隊における女性自衛官の配置制限は完全に撤廃されたと、白書は述べています31。
ハラスメントを許さない環境
白書は、ハラスメントを、隊員相互の信頼関係を失わせ組織の根幹を揺るがす、決してあってはならないものだと位置づけています。そのうえで、2024年度のハラスメントを事由とする懲戒処分は262人で、最も重い免職が8件あったと明記しています。ホットラインなどへの相談は、2021年度の2,311件から減少し、2025年度は1,479件でした。取組として、防衛大臣などによるトップメッセージの発信、管理者向けの講演会とロールプレイング形式の教育、休日や勤務時間外にも対応するLINEの相談窓口、省として統一した懲戒処分の基準の制定、ハラスメント防止月間の実施などが挙げられています32。
隊員と家族への支援、衛生機能
職員の自殺について、白書は、ご家族にとって大変痛ましく組織にとっても多大な損失だと述べ、「防衛省のメンタルヘルスに関する基本方針」に基づく取組を進めているとしています。家族への支援では、2025年3月に自衛隊家族会、隊友会との間で家族支援の協力に関する協定を結びました。また、任務中に殉職した隊員が2,100人を超えることにも触れ、追悼式などで追悼を行っていると記しています33。
衛生機能は、有事に危険を顧みず任務を遂行する隊員の生命と身体を救う組織への変革が、国家防衛戦略で示されました。3本柱は、第一線から最終後送先までのシームレスな医療・後送態勢の強化、衛生にかかる統合運用態勢の強化、防衛医科大学校の抜本的改革で、受傷から10分以内に救護が受けられる体制づくりや、血液製剤を自律的に確保して備蓄する態勢の構築が挙げられています34。
ここまでの要点です。
- 2027年度を目途に、サイバー専門部隊を約4,000人、サイバー要員を約2万人体制にする計画です。
- 女性自衛官は約9.3%で、配置制限は完全に撤廃され、採用と登用の目標が数字で示されています。
- ハラスメント対策、家族支援、メンタルヘルス、衛生機能の変革が、人的基盤を守る取組として並んでいます。
この解説は、令和8年版防衛白書を読む全5回のシリーズです。ほかの回は、次のとおりです。
第5回のまとめと、シリーズの終わりに
第5回で分かったことを振り返ります。
- 白書は、防衛生産・技術基盤をいわば防衛力そのものと位置づけ、防衛生産基盤強化法、スタートアップ向けの制度、情報保全の制度、経済安全保障の施策で強化を進めています。
- 防衛装備移転三原則は2026年4月に改正されました。外為法の輸出管理とは別の枠組みで、重なる場面では早めの確認が大切です。
- 人的基盤では、採用が計画を下回る状況が続くなか、処遇、採用区分、退職後の生涯設計、サイバー人材、多様な人材の活躍、ハラスメント対策、家族支援、衛生機能が、あわせて強化されています。
最後に1つだけ書き足します。装備を作る人も、装備を使う人も、一人ひとりが自分の生活を持つ人です。白書が、処遇や職場環境、家族への支援、殉職した隊員への追悼まで、同じ文書の中で扱っていることは、読み終えて印象に残りました。防衛の話を、制度の名前としてだけでなく、そこで働く人の話としても読む。5回を通じて、そうした読み方をお勧めしたかったのだと思います。
全5回の解説は、これで完結です。白書は900ページにおよぶ文書で、このシリーズで拾えたのはごく一部です。気になった箇所は、防衛省が公開している白書の原文(https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2026/pdf/)で確かめてみてください。
防衛と経済安全保障、輸出管理に関わる業務をお持ちの方は、TRAFEEDの情報をご覧いただくか、お問い合わせからご相談ください。自社の輸出管理の状況は、輸出管理の簡易診断でも確かめられます。
参考文献
Footnotes
-
防衛省『令和8年版 防衛白書』第Ⅳ部冒頭の概説(印刷ページ478)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第1章第1節(印刷ページ479)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第2章第1節2(3)装備移転の円滑化・指定装備移転支援法人(印刷ページ487)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第2章第1節2(4)装備品等秘密の保全、および「防衛事業の魅力化」(印刷ページ488)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第2章第1節「防衛産業の活性化」、スタートアップ技術提案評価方式、日本スタートアップ大賞(印刷ページ491から493)。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
同、第Ⅳ部第2章第1節2(2)特定取組として認定された例(印刷ページ485)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第2章第1節「ファストパス調達の新設」(印刷ページ494)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第2章第1節「取適ガイドラインの策定」「防衛産業保全の強化」「機微技術管理の強化」(印刷ページ495から496)。 ↩ ↩2
-
同、第Ⅳ部第2章第1節のVOICE欄(印刷ページ486、489、490、492、493、496)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第2章第4節1(印刷ページ508)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第3章第1節1「防衛装備移転三原則」(印刷ページ510)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第3章第1節2「いわゆる『5類型』の見直しをめぐる議論」(印刷ページ511)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第3章第1節3「防衛装備移転三原則の運用指針(改正後)」および解説(印刷ページ511から513)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第3章第3節の脚注1(印刷ページ517)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第3章第2節1、3、4(印刷ページ514から516)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第2章第1節3「強靱なサプライチェーンの構築」(印刷ページ494)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第3章第3節1「オーストラリア」と解説、4「次期戦闘機の共同開発」(印刷ページ518、523)。 ↩
-
同、第Ⅳ部第4章(印刷ページ525から528)。 ↩
-
同、第Ⅴ部第1章冒頭(印刷ページ535)、同第1節(印刷ページ537)、第Ⅴ部第2章第2節2(印刷ページ551)。 ↩
-
同、第Ⅴ部第1章第2節(印刷ページ541)。 ↩
-
同、第Ⅴ部第2章第2節3「サイバー人材の確保」(印刷ページ566から567)。 ↩
-
同、第Ⅴ部第2章第2節5「ハラスメントを一切許容しない環境の構築」(印刷ページ572から574)。 ↩
-
同、第Ⅴ部第2章第2節6「隊員や家族への支援」(印刷ページ574から576)。 ↩
-
同、第Ⅴ部第2章第3節1「衛生機能の変革」(印刷ページ577から578)。 ↩






