こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
半導体製造装置の輸出規制のニュースで、「同盟国にも同じ水準の規制を求める」という言葉を見かける機会が増えました。その理由として、米国の議員たちが繰り返し使っている言い回しがあります。レベル・プレイング・フィールド(level playing field)、直訳すれば「平らな競技場」です。
この言葉は、輸出管理を学び始めた方には少しとっつきにくいと思います。法令に出てくる用語ではなく、政策の必要性を訴えるときの言い方だからです。それでも、法案、議会の報告書、証言、EUの規則など、あちこちの文書に顔を出します。意味と使われ方を押さえておくと、ニュースや法案の読み方がずいぶん楽になります。そこで今回は、この言葉が実際にどんな文脈で、誰によって、何のために使われているのかを、一次資料で確かめました。
先に結論です。この言葉には、混ぜて使われがちな2つの意味があります。1つは競争の公平、つまり規制を守る国の企業だけが不利にならないようにしたい、という話です。もう1つは規制の実効性、つまり一部の国だけが規制しても、他の国から手に入るなら目的が果たせない、という話です。米国の議会文書は前者を強く打ち出しています。日本の審議会資料は、確認できた範囲では、実効性と公平性を並べて書いています。ワッセナー・アレンジメントは、そもそも各国の裁量を前提に作られています。つまり足並みのずれは、制度の設計に最初から含まれているのです。
この記事で分かることは次の4点です。
- レベル・プレイング・フィールド論の意味と、公平と実効という2つの読み方
- 米国、日本、オランダ、EUの一次資料で、この言葉がどう使われているか
- 外国直接製品規則などの「足並みをそろえる道具」の仕組み
- 日本企業が、法案の行方を待たずに確認しておくこと
なお、この記事は特定の国や企業の是非を論じるものではありません。各国の政府や議員の主張は、その発言として紹介します。
先に押さえる言葉
最初に、この記事で使う言葉を表にまとめます。日常の場面に置き換えた例えも添えました。
| 言葉 | 意味 | 日常の例え |
|---|---|---|
| レベル・プレイング・フィールド | 競争する全員が、同じルールと同じ負担で戦える状態 | 全員が同じ信号を守るレース |
| 輸出管理レジーム | ワッセナー・アレンジメントなど、品目リストを国同士の話し合いで決める国際的な枠組み | 町内会の申し合わせ |
| 国内措置 | 国が自国の法令だけで追加する規制。申し合わせの外側にも設けられる | 町内会の決まりに加えて、自分の家だけで決める家訓 |
| 同盟国・同志国 | 輸出管理で協力する相手国。この記事ではこの意味で使います | 同じルールを持ち寄る近所づきあい |
| 域外適用 | 自国の外で行われる取引にも、自国の規制を及ぼすこと | うちの部品を使った商品は、よその町で売るときもうちの決まりに従ってほしい、という要望 |
| 外国直接製品規則(FDPR) | 米国の技術やソフトウェアで作られた外国製品にも、米国の規制を及ぼす規則 | 親から受け継いだレシピで作った料理は、どこの店で出しても元のレシピの決まりが付いてくる |
| デミニミス | 外国製品に含まれる米国由来の部分の割合で、米国の規制の対象かを決める基準 | 材料のうち何割が特定の産地かで、表示の義務が変わる |
| 保守(サービス) | すでに設置された装置の修理、調整、ソフトウェア更新など | 車の販売を止めても、車検と修理が続けば車は走り続ける |
| 迂回 | 規制を避けるため、第三国や別の会社を経由して届けること | 検問のある道を避けて、裏道を通る |
| 実効性 | 規制の目的が、実際にどこまで果たされるか | 速度制限の標識を立てても、守られなければ事故は減らない |
自社の取引がどの規制に関係しそうか、まず当たりをつけたい方は、輸出管理の無料セルフ診断を試してみてください。数分で、確認すべき論点の見当がつきます。
全員が同じ交通ルールを守らないレースで考える
まず例えで考えてみます。10人のドライバーが同じ道でレースをしています。ところが、ルールを守るのは3人だけで、残りの7人は制限速度も一時停止も守りません。このとき、問題は2つ起きます。
1つ目は不公平です。ルールを守る3人は遅れ、守らない7人が先に着きます。次の大会では、守る人が減るかもしれません。これが公平性の問題です。2つ目は、そもそもルールを作った目的が果たされないことです。見通しの悪い交差点の事故を防ぐための一時停止なのに、7人が止まらずに通過すれば、交差点は危険なままです。こちらが実効性の問題です。
輸出管理に置き換えると、1つ目は企業の競争条件になります。ある国の企業は許可を取らないと売れない装置を、別の国の企業は許可なしで売れるとします。顧客が後者に移れば、規制を守る側の企業だけが売上を失います。2つ目は安全保障の目的です。懸念される使い方を防ぎたくて規制を設けても、規制のない国から同じ装置が手に入るなら、目的は果たせません。
私は、この2つを分けて読むことが、この議論を理解する最大のコツだと考えています。同じ「レベル・プレイング・フィールド」という言葉が、あるときは企業の利益を守る意味で、あるときは規制の穴をふさぐ意味で使われるからです。誰かがこの言葉を使ったら、「いま話しているのは公平の話か、実効の話か」と自分に問いかけてみてください。
もう1つ、大事な前提があります。公平の主張は、規制そのものが正しいかどうかとは別の論点です。規制が適切だと考える人も、不要に重いと考える人も、「ルールは全員に同じように課すべきだ」という点では一致しうるからです。また、公平をそろえる方法は、理屈の上では規制の軽い側を重くする道も、重い側を軽くする道もあります。ただし、次の節で見る資料はいずれも、軽い側の水準を引き上げる方向で語っています。
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米国の議会文書で、この言葉はどう使われているか
一次資料を順に読みます。この言葉がもっとも目立つのは、2026年4月に米国議会へ提出されたMATCH法案(Multilateral Alignment of Technology Controls on Hardware Act、ハードウェア技術管理の多国間整合法)です。法案の経緯と仕組みはMATCH法の解説記事にまとめてあるので、ここでは言葉の使われ方に絞ります。
下院案(H.R.8170)の提出時の条文には、第2条「議会の認識(Sense of Congress)」の8番目に、米国政府は同盟国・パートナー国と協力して半導体製造装置と部品の輸出管理をそろえ、管理の隙間と迂回のリスクを減らし、「世界で公平な競争条件(a level global playing field)」を確保すべきだ、という趣旨の項目があります1。上院案(S.4281)にも同じ項目があり、さらに9番目として、外交による合意が、前向きな誘因も使いながら、足並みをそろえる最も持続可能な道だという項目が加わっています2。
ここで注意したいのは、この文言が置かれた場所です。「議会の認識」は、議会としての考えを表明する条項で、行政機関や他国に法的な義務を課すものではありません。義務を定めているのは第3条です。提出時の条文では、まず外交で同盟国に国内の規制をそろえるよう求め、150日以内に同盟国が必要な管理を導入したと認定できなければ、米国が、それらの国から輸出される装置にも米国の管轄を広げて規制をかける、という順序になっています1。ただし、同盟国が管理を導入したと判断できれば、その規制を終了または修正できる条項もあります。足並みがそろえば米国側の規制は引く、という形です。なお、この150日の期限は、下院外交委員会の修正で変更されています。最新の内容は先の解説記事を参照してください。
議員たちの発言でも、この言葉は使われています。2026年4月2日の下院議員のプレスリリースでは、上院の共同提出者のリケッツ議員が、米国の装置規制は近しい同盟国やパートナー国の規制より厳しく、この現状は米国企業を最後尾に置いている、法案は米国企業のための公平な競争条件(a level playing field)をつくる、という趣旨を述べています3。同じリリースで、下院特別委員会のムーレナー委員長は「米国と同盟国の装置メーカーのための公平な競争条件」と述べ、ローラー議員は「同盟国との公平な競争条件」、ゴールデン議員は「米国の製造業のための公平な競争条件」と、それぞれ表現しています3。上院外交委員会が出したプレスリリースの題名にも、「米国の技術のために世界の競争条件を平らにする」という趣旨の表現が入っています4。
もう1つ、下院の中国問題特別委員会が2025年10月7日に公表した報告書も見ておきます。この報告書は、米国、日本、オランダに本拠を置く主要な装置メーカー5社を調べたもので、5社の中国向けの売上は2024年に合計で約380億ドル、5社の世界売上の39%を占め、2022年より66%増えたと集計しています5。そのうえで、非米国のメーカーが制限対象の相手に売る額と、米国メーカーのそれとの差から、米国の輸出管理が「公平でない競技場(an unlevel playing field)」を生んでいる、と結論づけています5。報告書は、この結論が売上の差から「示唆される」ものだと書いており、因果を測定した結果ではなく委員会の推論である点は、読むときに意識しておくとよいでしょう。提言としては、オランダと日本が米国の輸出管理に十分にそろうよう誘因と交渉力を使うこと、そして、短期的な痛みを米国メーカーだけでなく同盟国のメーカーも等しく負うべきだと述べ、そろった管理は「市場の確実性と予見可能性」をメーカーに与えると書いています5。
一方、同じ問題を実効性から語る資料もあります。外交問題評議会(CFR)のクリス・マクガイア氏は、2025年11月20日の米下院外交委員会の小委員会で、同盟国の管理を米国の水準まで引き上げる必要があると証言しました。主な論拠は、日本とオランダが先端の工場に対する米国の管理に十分そろっていないため、そうした工場が同盟国の装置、部品、保守を使い続けられる、という点です。この証言は、その結果として「市場シェアが米国企業から離れる」とも述べていますが、重点は管理の穴の方に置かれています6。
ここまでを表にまとめます。
| 資料 | 時期 | 言葉の使い方 | 重点 |
|---|---|---|---|
| MATCH法案(議会の認識) | 2026年4月 | 世界で公平な競争条件を確保する | 隙間と迂回の防止、公平 |
| 議員のプレスリリース | 2026年4月 | 米国企業、あるいは米国と同盟国の装置メーカーのための公平な競争条件 | 企業の競争条件 |
| 下院の特別委員会報告書 | 2025年10月 | 米国の管理が公平でない競技場を生んでいる | 企業の競争条件、管理の穴 |
| 外交問題評議会の証言 | 2025年11月 | 同盟国の管理を米国の水準まで引き上げる | 実効性 |
どれも、発言した人や機関の主張です。日本政府やオランダ政府の見解ではありません。次の節では、規制をそろえるよう求められる側の資料を見ます。
日本、オランダ、EU、ワッセナーの側から見ると
規制を求められる側の資料に目を移すと、見え方が変わります。出発点は、輸出管理の国際的な枠組みであるワッセナー・アレンジメントの設計です。
ワッセナー・アレンジメントの公式サイトによれば、参加国は42か国で、決定はすべて全会一致で行われ、総会は通常年に1回、12月に開かれます7。そして、品目を移転するか拒否するかの判断は各参加国のみの責任であり、枠組みに関する措置はすべて国の法令と政策に従い、各国の裁量で実施される、と明記されています7。公式サイトのよくある質問には、管理の範囲はリストで決まるものの、実際の運用は国ごとの手続きによって異なる、という説明もあります7。さらに、この枠組みは特定の国や国のグループを対象としたものではない、とも書かれています7。つまり、足並みのずれは、運用のばらつきとして、制度の設計に最初から織り込まれています。仕組みの限界と各国の動きはワッセナー・アレンジメントの機能不全を扱った記事で詳しく扱っています。
日本の制度は、この国内措置の考え方に沿って動いています。経済産業省の2023年5月23日付の概要資料は、先端の半導体製造装置23品目を輸出管理の対象に加えた趣旨を、国際的な安全保障環境が厳しさを増す中で、軍事転用の防止を目的として、ワッセナー・アレンジメントを補完するとともに、半導体製造装置に関する関係国の最新の輸出管理動向なども総合的に勘案した、と説明しています8。根拠は外為法の第25条第1項と第48条第1項で、施行は2023年7月23日でした8。日本は、他国の動向を見ながらも、自国の法令に基づいて独自に判断したことが、この資料から読み取れます。
では、日本の審議会はこの問題をどう語っているのでしょうか。産業構造審議会の安全保障貿易管理小委員会は、2024年4月24日に中間報告をまとめました9。経済産業省がその概要を使って説明した資料には、方向性の1つとして、同盟国・同志国との重層的な連携を通じて、国際協調による実効性と公平性を担保する、と書かれています9。また、各国が独自措置を多用することになれば、実効性と予見可能性が低下するため、国際連携による制度・運用の協調を企図する、とも書かれています9。ここでは、公平性と実効性が並べて語られています。
私が確認した範囲では、この概要資料にカタカナの「レベル・プレイング・フィールド」は出てきませんでした。使われているのは「公平性」です。また、同じ資料には、補完的輸出規制の見直しの文脈で「企業間の公平性にも留意した形で」という表現もあります9。こちらは国どうしの話ではなく、日本国内の企業の間の公平を指しており、同じ「公平」でも指す相手が違います。審議会の議事録や報告書の全文までは、今回は取得できませんでした。全文の確認は今後の宿題です。
オランダ政府の公式発表は、また別の角度を示します。2025年1月15日の発表で、オランダは2025年4月1日から、先端半導体製造装置に関する国内の輸出管理措置を改めると述べています10。この措置は2023年9月1日に導入されたもので、今回が2回目の改正です。担当大臣は、誰がどの技術を手にするかを管理しておくことが重要だと述べる一方、半導体産業は国際的であり、不必要に混乱させないよう細心の注意を払った、とも述べています10。国の安全保障上の判断と、産業への配慮を、自国の枠内で両立させようとしていることが分かります。
実は、この言葉は欧州の規則にも出てきます。EUの軍民両用品目の規則(規則2021/821)の前文には、「輸出者の間の公平な競争条件(the level-playing field between exporters)」と「多国間の公平な競争条件(a multilateral level playing field)」という表現があります11。前者は社内の輸出管理規程に関する指針の説明に、後者はサイバー監視品目をめぐる国際的な体制への貢献の説明に使われています11。さらに、EUの前身の規則を改める2016年の欧州委員会の提案は、EU加盟国の間でより公平な競争条件をつくることを狙いの1つに掲げていました12。同じ言葉でも、競争する相手が「輸出者」「加盟国」「国」と、文脈によって違うのです。
最後に、日本の研究者の見方も紹介しておきます。日本国際問題研究所の髙山嘉顕研究員は、2026年6月の論考で、MATCH法が日本に突き付ける課題として、米国の規制強化に順次同調する従来のやり方から、規制整合を主体的に形づくる側へ転換すること、挟撃の状況で生じる企業の損失を補う制度を整えること、中国のブロッキング規則などへの備えを挙げています13。どの道を選ぶかは政府の判断であり、本稿では評価しません。ただ、足並みの議論が、日本企業にとっては米中双方の要請の間に立つ問題でもあることは、覚えておいてよいと思います。
足並みをそろえる道具と、外国直接製品規則の位置づけ
足並みをそろえる方法は、大きく3つに分けられます。外交で合意を作ること、各国が自国の法令で規制を足すこと、そして米国のように自国の規制が及ぶ範囲を広げることです。3つ目が、いわゆる域外適用です。
米国の輸出管理規則(EAR)には、外国で作られた製品にも米国の規制を及ぼす仕組みが2つあります。1つは、外国製品に含まれる米国由来の部分の割合で決める最低含有率の基準(デミニミス)、もう1つは、米国の技術やソフトウェアで作られた外国製品を対象にする外国直接製品規則(FDPR)です。どちらも詳しくは外国直接製品規則の解説記事にあります。ここで見ておきたいのは、この仕組みが同盟国をどう扱ってきたかです。
2024年12月5日の米国商務省産業安全保障局(BIS)の規則は、半導体製造装置に関する外国直接製品規則を新しく設けました14。規則の本文は、この規則が、補則第4(第742部)に挙げた国々の向けには一般に適用されないと説明し、その理由を、これらの国の政府が多国間の輸出管理レジームの加盟国であり、主要な半導体製造装置を管理する権限を持っているためだと述べています14。その一覧には、日本とオランダのほか、欧州各国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど33の国が並んでいます14。一方、台湾や韓国は、この一覧に入っていません。つまり、この規則に関しては、米国は一覧の国々について、その国自身の管理に任せる形をとっていました。
MATCH法案や、先ほど見た外交問題評議会の証言は、この「任せる」形を見直す方向を示しています。証言は、同盟国が米国と同等の規制を採るまでは、この例外を停止することを提言しています6。法案は、同盟国が期限内に必要な管理を導入したと認定できなければ、米国がそれらの国から出る装置と、その保守に管轄を広げるとしています1。さらに、法案が規制の対象とする「適用品目」には、米国の技術に由来する外国製品や、米国由来の管理品目を含む割合が0%を超える外国製品が含まれています1。含有率が0%を超えれば対象になるという書き方で、割合の基準を設ける通常のデミニミスより厳しい形です。現行規則との重なりは先の解説記事で整理しています。この内容は日本の半導体関連の新たな規制品目を扱った記事と合わせて読むと、日本の規制と米国の規制の重なりが見えてきます。
ただし、これはあくまで法案です。私が確認できた範囲では、この記事を書いている2026年11月6日の時点で、成立したことは確認できていません。法案の修正内容と審議状況は、先の解説記事で更新しています。成立していない法案を、すでに決まった規則のように扱うことだけは避けてください。
規制の抜け穴と、この議論を読むときの注意点
「規制の抜け穴」という言葉も、よく一緒に使われます。足並みがそろわないときに、どんな隙間が生まれるのかを整理しておきましょう。
1つ目は、品目の違いです。国ごとにリストの範囲が違えば、ある国では許可が要る装置が、別の国では要りません。2つ目は、仕向地や使用者の違いです。ある国は特定の国向けを全面的に許可制にし、別の国は取引先ごとの審査にとどめている、という違いがあります。3つ目は、設置済みの装置の保守です。装置の輸出を止めても、保守や部品の供給が続けば、その装置は使われ続けます。MATCH法案が「保守(servicing)」を、設置、調整、修理、ソフトウェア更新、技術支援まで含めて細かく定義しているのは、そのためだと読めます1。外交問題評議会の証言も、同盟国の装置、部品、保守が先端の工場に届き続ける点を問題にしています6。4つ目は、第三国や別の会社を経由する迂回です。この論点は、別の記事で改めて扱います。
こうして見ると、「規制の少ない国への移転」は、国どうしの差から自然に生まれる動きでもあります。規制の重い国の顧客が規制の軽い国の供給元に移れば、公平の面でも実効の面でも、規制を設けた側の目的は薄まります。だからこそ、足並みの議論が起きるのだと理解できます。
一方で、この議論を読むときには、いくつか注意しておきたい点があります。
第1に、資料の多くは発信者の立場からの主張だということです。米国議会の文書は米国の立場から、オランダや日本の資料は各国の立場から書かれています。第2に、下院特別委員会の結論のように、売上の差から推論した部分は、実際の因果を示したものではありません。第3に、足並みをそろえる過程で、規制を受ける側の国の政府が反発したり、対抗措置を取ったりする可能性があります。髙山氏の論考も、中国のブロッキング規則などへの備えを課題として挙げています13。こうした点を中国の域外適用に関する記事で整理しています。第4に、ワッセナー・アレンジメントの設計が示すとおり、各国の裁量は輸出管理の前提です。他国に同じ水準を求めることは、その国の主権の判断に関わります。だからこそ、法案も外交の段階を先に置き、誘因を使うことを重視しているのでしょう。
私は、この議論の本質を「誰と誰の公平か」「何を物差しにするか」の2点に絞って読むと、かなり整理できると考えています。誰と誰かは、米国企業と同盟国企業なのか、輸出者どうしなのか、加盟国どうしなのか。物差しは、品目なのか、仕向地なのか、保守なのか。そこが曖昧なまま「そろえるべきだ」と言われたときは、慎重に読む価値があります。
日本企業が確認すること 5つの手順
ここからは、実務の話です。法案の行方を待たなくても、いま確認できることがあります。以下は筆者の整理した手順で、法令上の決まった手順ではありません。
- 自社の製品と技術が、日本のリスト規制に当たるかを確かめます。半導体製造装置の規制対象は、貨物等省令第6条第17号などで、細かな仕様まで定められています8。確認の入口は輸出令別表第1の解説にまとめています。
- 自社の製品に、米国由来の部品、ソフトウェア、技術が含まれるかを確認します。含まれる場合は、米国の規則の対象になるかどうかを調べる必要があります。確認の考え方はEAR(米国の輸出管理規則)の域外適用の解説が参考になります。
- 顧客、設置場所、最終用途、保守の相手先を記録します。設置済みの装置の保守は、この議論の焦点の1つだからです。誰がどこで保守しているかを、すぐに説明できる状態にしておきます。
- 契約と社内規程に、法令が変わったときの扱いを書いておきます。許可が必要になった場合の出荷の停止、再輸出の制限、保守の扱いなどが、取引先との間で決まっているかを見直します。
- 情報の取り方を決めます。経済産業省の改正情報、米国の官報(Federal Register)、議会の公式の法案ページを一次情報として確認し、報道は補助として使います。確認した日付と出典を、判断の記録とともに残します。
たとえば、半導体製造装置向けの部品を作る従業員50人の会社があるとします。これは仮の例です。この会社に輸出管理の専任者はおらず、営業担当が兼務しています。法案のニュースが出るたびに不安になりますが、まず手順1から3を実行すれば、「どの部品が、どの規制に当たり、誰に、どこへ納め、誰が保守しているか」を1枚の表にできます。その表があれば、制度が変わったとき、影響を受ける取引を数時間で洗い出せます。逆に表がないと、報道を見るたびに全取引を手探りで確認することになります。
最終的な該非判定は、貴社の輸出管理責任者が行うものです。上の手順は、その判断を早く確かな根拠で行うための下準備と考えてください。
よくある誤解と、これから
最後に、この議論でよく見かける誤解を整理します。
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| レベル・プレイング・フィールドは法令の用語である | 提出時の法案では、法的な義務を課さない「議会の認識」の項にあります。義務を定めるのは別の条項です |
| 足並みがそろっていないのは、日本やオランダが規制していないからだ | 日本は2023年7月23日に23品目を全地域向けの許可制にし、オランダも2023年9月に国内措置を導入しています。米国議員が指摘するのは、範囲や対象などの差です |
| 公平性の議論は米国だけのものである | EUの規則の前文にも、日本の審議会の資料にも、公平性を意識した記述があります。ただし、比べる相手や意味は文脈で異なります |
| 法案が成立すれば、日本企業は直ちに米国の許可が必要になる | 法案は成立していません。内容も修正されており、同盟国の対応によって適用が変わる設計です |
| 規制がそろえば競争は完全に公平になる | 規制の重さは、顧客の所在、技術の水準、為替など、他の条件とは別の話です。規制の差は競争条件を左右する要素の1つにすぎません |
私が今回の調査で一番印象に残ったのは、同じ言葉が文脈によって、驚くほど違うものを指していたことです。米国議会では企業の競争条件を、日本の審議会では国際協調の枠組みを、EUでは域内の輸出者や加盟国の間を、それぞれ指していました。言葉の響きに引っ張られず、「誰の、何についての公平か」を毎回確かめることが、これからのニュースを読むうえでの出発点になると思います。
日本企業にとっていちばん現実的なのは、政策の行方を当てようとすることではなく、自社の取引を説明できる状態にしておくことです。顧客、設置場所、最終用途、保守の相手先、判断の根拠を残しておけば、足並みがどう変わっても、組み替えは落ち着いて進められます。
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参考文献
Footnotes
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H.R. 8170 "Multilateral Alignment of Technology Controls on Hardware Act"(提出時の条文)— 米国政府出版局(GovInfo)— 2026-04-02 — 確認日 2026-11-06 — https://www.govinfo.gov/content/pkg/BILLS-119hr8170ih/html/BILLS-119hr8170ih.htm ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
S. 4281 "Multilateral Alignment of Technology Controls on Hardware Act"(提出時の条文。第2条(8)(9))— 米国政府出版局(GovInfo)— 2026-04 — 確認日 2026-11-06 — https://www.govinfo.gov/content/pkg/BILLS-119s4281is/html/BILLS-119s4281is.htm ↩
-
Michael Baumgartner 下院議員 "Baumgartner Introduces Bipartisan Bill to Tighten Controls on Sensitive Chipmaking Equipment" — 2026-04-02 — 確認日 2026-11-06 — https://baumgartner.house.gov/2026/04/02/baumgartner-introduces-bipartisan-bill-to-tighten-controls-on-sensitive-chipmaking-equipment ↩ ↩2
-
米上院外交委員会 "Risch, Ricketts, Kim Introduce MATCH Act; Level the Global Playing Field for U.S. Tech" — 2026-04-08 — 確認日 2026-11-06(ページ本文は取得できず、題名のみ検索結果で確認) — https://www.foreign.senate.gov/press/rep/release/risch-ricketts-kim-introduce-match-act-level-the-global-playing-field-for-us-tech ↩
-
米下院 中国共産党との戦略的競争に関する特別委員会 "Selling the Forges of the Future"(報告書)— 2025-10-07 — 確認日 2026-11-06 — https://chinaselectcommittee.house.gov/media/reports/selling-the-forges-of-the-future ↩ ↩2 ↩3
-
Chris McGuire(外交問題評議会)"Protecting the Foundation: Strengthening Export Controls on Semiconductor Manufacturing Equipment"(米下院外交委員会小委員会での証言)— 2025-11-20 — 確認日 2026-11-06 — https://www.cfr.org/report/protecting-foundation-strengthening-export-controls-semiconductor-manufacturing-equipment ↩ ↩2 ↩3
-
The Wassenaar Arrangement "About Us"(参加国、全会一致、各国の裁量)— ワッセナー・アレンジメント事務局 — 確認日 2026-11-06 — https://www.wassenaar.org/about-us/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
経済産業省「『輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令の一部を改正する省令』等の改正の概要について」— 2023-05-23 — 確認日 2026-11-06 — https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/shourei/20230523_gaiyo.pdf ↩ ↩2 ↩3
-
経済産業省「安全保障貿易管理を巡る最近の動向」(産業構造審議会 安全保障貿易管理小委員会 中間報告の概要を掲載)— 2024-12 — 確認日 2026-11-06 — https://www.meti.go.jp/policy/anpo/daigaku/seminer/r6/meti4.pdf 。中間報告の公表ページ(2024-04-24)は https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240424004/20240424004.html 。中間報告の全文は取得できず、概要資料の記述のみ確認 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Government of the Netherlands "Klever: export controls on advanced semiconductor manufacturing equipment to be tightened" — 2025-01-15 — 確認日 2026-11-06 — https://www.government.nl/latest/news/2025/01/15/klever-export-controls-on-advanced-semiconductor-manufacturing-equipment-to-be-tightened ↩ ↩2
-
Regulation (EU) 2021/821 of the European Parliament and of the Council of 20 May 2021(前文18、39、第9条)— EUR-Lex — 2021-06-11(官報掲載)— 確認日 2026-11-06 — https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2021/821/oj ↩ ↩2
-
欧州議会 Legislative Train "File review of dual-use export controls"(2016-09-28の欧州委員会提案の説明)— 確認日 2026-11-06 — https://www.europarl.europa.eu/legislative-train/theme-international-trade-inta/file-review-of-dual-use-export-controls ↩
-
日本国際問題研究所 髙山嘉顕「国問研戦略コメント(2026-17)MATCH法と『挟撃の経済安全保障』」— 2026-06-24 — 確認日 2026-11-06 — https://www.jiia.or.jp/jpn/report/2026/06/strategic_comment_2026-17.html ↩ ↩2
-
Federal Register "Foreign-Produced Direct Product Rule Additions, and Refinements to Controls for Advanced Computing and Semiconductor Manufacturing Items"(89 FR 96790。補則第4(第742部))— 2024-12-05 — 確認日 2026-11-06 — https://www.federalregister.gov/d/2024-28270 ↩ ↩2 ↩3



