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なぜ原発は「小さく」なるのか|三菱重工の小型軽水炉が経産省事業に採択された意味

Published2026-08-21濱本 隆太

三菱重工の提案3件が経済産業省の次世代革新炉支援事業に採択され、国産技術による小型軽水炉(SMR)の開発が加速します。なぜ原発はこれまで大きくなり続けたのか、小さくすると何が解決するのか、福島の経験を踏まえてなぜ今SMRなのかを、初心者向けに整理します。最後に、この領域が輸出管理でどう扱われるかにも触れます。

なぜ原発は「小さく」なるのか|三菱重工の小型軽水炉が経産省事業に採択された意味
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株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。

三菱重工業が2026年8月5日、経済産業省の支援事業に提案3件が採択されたと発表しました1。そのうちの1件が「小型軽水炉の開発・実用化に向けた国産技術による炉型/要素技術開発」です。

正直に言うと、私はこのニュースを応援したいと思っています。エネルギーをどう確保するかは、経済安全保障の土台そのものです。輸出管理の記事を書いていると、日本が何を守るべきかという話が毎回出てきますが、電気が足りない国は、そもそも守るものを作れません。

一方で、原子力の話は「小型原発」という言葉だけで拒否反応が出やすい領域でもあります。福島の経験がある以上、それは当然です。だからこの記事では、まずなぜ今「小さく」する方向に進んでいるのかを、初心者の方に向けて丁寧に説明します。

先に結論

  • SMRはIAEAの定義でおおむね10万〜30万kW級。従来の大型炉(100万kW級)の3分の1以下
  • これまで原発が大型化したのは規模の経済が働くから。立地・許認可・運転員などの費用が出力によらずほぼ一定で、大きくするほど単価が下がる
  • 小型化が狙うのは**「規模の経済」から「量産の経済」への転換**。工場でつくって運ぶ
  • 出力が小さいと、事故時の冷却をポンプや電源に頼らずに成立させやすい。福島で失われたのは、まさにその動力だった
  • 三菱重工は炉だけでなくサプライチェーンまで含めて3件採択されている。ここが地味だが重要
  • 原子力は輸出令別表第1の2の項・NSG。海外展開を考えるなら、部品メーカーも当事者になる

何が採択されたのか

まず事実関係を整理します。出典は三菱重工の2026年8月5日付リリースです1

採択されたのは、経済産業省の「次世代革新炉の開発・建設に向けた技術開発・サプライチェーン構築支援事業」(令和7年度補正予算)で、同社の提案3件です。

# 採択された提案
1 革新軽水炉の開発・建設に向けた安全性向上等に資する要素技術開発及び標準炉型の開発(その2)
2 小型軽水炉の開発・実用化に向けた国産技術による炉型/要素技術開発
3 次世代革新炉実現に向けたサプライチェーン高度化に資する機器・素材・製造技術開発(その2)

1が大型(革新軽水炉SRZ-1200)、2が小型(SMR)、3がそれを支える部品・素材・製造技術です。

政策の側も動いています。2026年4月8日に公表された「次世代革新炉開発ロードマップ」では、革新軽水炉とSMRは基本的に技術面では社会実装の段階にあり、高速炉と高温ガス炉は実証炉開発を進める段階にあると整理されました2。2026年7月31日の原子力関係閣僚会議でも、次世代革新炉への資金供給機能の強化とSMR導入に向けた研究開発の加速が示されています3

つまり今回の採択は単発の話ではなく、「SMRは研究段階を抜けて、実際に建てる段取りに入る」という国の方針の一部として出てきたものです。

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そもそもSMRとは何か

SMRは Small Modular Reactor の略で、日本語では小型モジュール炉と呼ばれます。三菱重工が開発しているのはそのうち軽水炉型、つまり普通の水で冷やすタイプなので「小型軽水炉」と呼ばれます。

IAEAの定義では、出力がおおむね10MWeから300MWe、つまり1万kWから30万kW級の原子炉で、設計の段階からモジュール化・標準化・工場製作を織り込んだものを指します4。従来の大型炉が100万kW級ですから、3分の1以下です。

名前の3語がそのまま特徴になっています。

意味
Small 物理的に小さい。従来炉の何分の1かのサイズ
Modular 系統や機器を工場で組み立てて、ユニットとして運べる
Reactor 核分裂の熱でエネルギーをつくる原子炉

ここで大事なのは、真ん中の Modular です。単に小さいのではなく、工場でつくって現地へ運ぶことを前提に設計されている。これがSMRの本質です。

なぜ、これまで原発は「大きく」なってきたのか

ここが一番わかりにくいところだと思うので、順に説明します。

原子力発電所を1基つくるとき、次のような費用がかかります。

  • 立地の確保と地域との調整
  • 系統(送電網)への接続
  • 許認可の取得と安全審査への対応
  • 設計・安全解析
  • 運転員の確保と訓練
  • 警備、防災体制

これらの費用は、出力が100万kWでも30万kWでも、あまり変わりません。安全審査の書類は炉が小さくても必要ですし、運転員も警備も同じように要ります。つまり固定費に近い性格を持っています。

固定費が一定なら、分母である発電量を大きくするほど、1kWhあたりの費用は下がります。だから原子力は大型化してきました。これは電力業界の怠慢ではなく、経済的に合理的な選択でした。

ただ、この方向には副作用があります。

大型化のメリット 大型化の副作用
1kWhあたりのコストが下がる 初期投資が巨額になる(1基で兆円規模)
一度に大量の電力を供給できる 工期が長い。10年単位になり、その間ずっと資金が寝る
燃料効率が良い 1基止まったときの影響が大きい(数百万世帯分が一度に消える)
立地できる場所が極端に限られる(大量の冷却水、広い敷地、系統容量)

日本で新設が進まなかった理由の多くは、この副作用の側にあります。技術がないのではなく、資金と工期と立地の条件が厳しすぎたわけです。

小さくすると、何が解決するのか

SMRの発想は、「1基を大きくして安くする」から「同じものをたくさんつくって安くする」への転換です。規模の経済ではなく、量産の経済で勝負する。

具体的に解決するのは4点です。

1. 工場でつくって運ぶので、現地工期が短い

大型炉は現地で溶接し、現地で組み立てます。天候にも左右されますし、熟練工を現場に張り付ける必要があります。

SMRはモジュールを工場で製作し、現地では据え付けを中心に行います。工場は屋内で、品質が安定し、同じものを繰り返しつくれば習熟して速くなる。 造船や航空機の生産と同じ考え方です。

2. 初期投資が小さいので、資金調達が現実的になる

1基あたりの投資額が下がれば、意思決定の重さが変わります。1兆円の判断は取締役会でも国でも重すぎますが、その数分の1なら現実的な選択肢になります。 需要に応じて後から増設するという発想も取れます。

3. 事故時の冷却を、動力に頼らずに成立させやすい

ここが技術的に一番おもしろいところです。

三菱重工の公式説明によれば、小型炉は出力規模が小さいことから、万一の事故収束のためにポンプ等の動的機器を使用せず、重力注入等の自然力を利用したパッシブ安全システムによる対応も可能になります5

なぜ小さいとそれが可能なのか。出力が小さいほど、止めた後に出続ける熱(崩壊熱)も小さくなります。取り除くべき熱が少なければ、ポンプで無理やり水を回さなくても、重力や自然対流といった「勝手に起きる現象」で足りるという理屈です。

同社はさらに、冷却材喪失の要因そのものを排除する一体型原子炉の採用、航空機衝突に備えた原子炉建屋の地下立地も挙げています5

4. 立地の自由度が上がる

三菱重工の小型軽水炉は、海水冷却が不要となるため、発電所敷地内の高台にもプラント設置が可能とされています5

これは日本にとって小さくない話です。原発が海沿いにあるのは、大量の冷却水を海から取るからです。海水冷却が不要なら、津波の到達範囲から離れた場所を選べるようになります。地震・津波という日本特有の条件に対して、設計で応える方向です。

福島の経験と、SMRの関係

ここは丁寧に書きます。

福島第一原子力発電所の事故で決定的だったのは、電源を失い、冷やし続けられなくなったことでした。原子炉は停止した後も熱を出し続けるので、冷却が止まれば燃料が損傷します。非常用電源が津波で機能を失い、ポンプを回せなくなった。

だからこそ、「動力がなくても冷える」という設計思想が重い意味を持ちます。パッシブ安全は「電源が生きていれば安全」ではなく、「電源が死んでも成立する」ことを狙う考え方です。

ただし、ここは慎重に言葉を選びます。「小さいから安全」ではありません。 正確には、**「小さいから成立する安全設計の選択肢が増える」**です。小型炉にもリスクはありますし、規制当局の審査も、立地地域の理解も、従来どおり必要です。使用済燃料をどうするかという問題も解決していません。

私は原子力の専門家ではないので、安全性そのものを断定的に評価する立場にありません。ただ、福島で失われた機能に対して、設計の側から答えを出そうとしているという点は、事実として押さえておく価値があると思います。

三菱重工はなぜ採択されたのか

3件同時に採択された理由を、公開情報から読み解きます。

大型炉での実績と、その延長線上にある技術。 同社は革新軽水炉SRZ-1200(約120万kW級)を開発しており、溶融炉心を重力注水で受け止めるコアキャッチャー、航空機衝突や巡航ミサイルを想定した二重の格納構造、高張力鋼のハイブリッド格納容器などを備えるとしています6。SMRで使う要素技術の多くは、ここで積み上げたものと地続きです。

炉型の幅。 同社は高速炉と高温ガス炉についても、経済産業省のGX推進事業で実証炉開発の中核企業として参画しています1。高速炉は2040年代の運転開始、高温ガス炉は2030年代の実証炉建設が予定されています。軽水炉だけの会社ではないという点が、次世代炉の政策全体の中で効いています。

そしてサプライチェーン。 3件目の採択が「機器・素材・製造技術開発」であることを、私は一番重要だと思っています。

原子炉は1社では作れません。圧力容器の鋼材、蒸気発生器の伝熱管、ポンプ、弁、計装。国内で新設が止まっていた間、これらをつくる中小の製造業が受注を失い、技術者が引退し、設備が更新されずにきました。 炉の設計だけ立派でも、それを形にする工場が国内に残っていなければ、結局は輸入するしかありません。

「国産技術による」という言葉は、設計が国産という意味だけでなく、つくれる供給網が国内にあるという意味でもあります。採択がサプライチェーンまで含んでいるのは、そこを立て直さないと社会実装に届かないという認識の表れだと読めます。

日本にとって何が嬉しいのか

エネルギーの話は、突き詰めると「選べる状態を保てるか」です。

  • 出力が安定している。 天候に左右されず、需要に合わせて出力を調整できる炉型もある
  • 燃料の備蓄が効く。 燃料の体積が小さいので、数年分を国内に置ける。ガスや石油のように毎月運び続ける必要がない
  • 脱炭素と両立する。 発電時にCO2を出さない
  • 熱が使える。 発電だけでなく、産業用の熱供給や水素製造への利用が想定されている5

この「選べる状態」が、経済安全保障の言葉でいう自律性そのものです。経済産業省の整理では、特定の国や取引先に依存せず供給を続けられる状態を自律性と呼びます(経産省の具体的事例集を読む)。エネルギーはその最たるものです。

ここからが本題です。輸出管理の話

最後に、私たちの領域から一言だけ添えます。

原子力関連の技術は、輸出管理で最も重い部類に入ります。

日本の輸出貿易管理令別表第1では、2の項が原子力関連の項番で、国際レジームとしては**原子力供給国グループ(NSG)**に対応します(別表第1の項番の読み方)。1の項の武器を除けば、リストの一番手前にある領域です。

実務的に注意が必要なのは、次の3点です。

1. 貨物だけでなく、技術が効く

原子炉そのものを輸出しなくても、設計データ、製造ノウハウ、仕様の擦り合わせは外為法上の役務取引として管理の対象になり得ます(役務取引・技術提供の実務)。海外のパートナーと共同開発する、現地生産を検討する、という段階で必ず関わります。

2. SMRは「運べる」からこそ、規制の目が厳しくなる

モジュールで工場製作して運ぶという長所は、輸出管理の観点では国境を越えやすいということでもあります。小型で運搬しやすい原子力設備は、国際的にも関心の高いテーマです。海外展開を構想する段階から、規制の枠組みを前提に設計する必要があります。

3. 部品メーカーが、新たに当事者になる

これが一番申し上げたい点です。今回の採択にはサプライチェーンの高度化が含まれています。つまりこれから、原子力向けの機器・素材・製造技術に関わる企業が増えます。

そのなかには、これまで輸出管理と縁が薄かった中小の製造業も含まれるはずです。自社の部品が2の項に当たるかどうか、取引先が懸念のある相手でないかどうかを、受注の段階で確認できる体制が要ります。「うちは部品を納めるだけ」では通りません。

私たちの輸出管理AIエージェントTRAFEEDは、この該非判定と取引先の調査を継続的に回すためのものです。席数ではなく従量課金にしているのは、判断が起きるのが専任担当者の席ではなく、営業・技術・調達の現場だからです。原子力のサプライチェーンに新しく入る企業ほど、そこが手薄になります。

念のため申し添えると、規制の対象になることは、その技術や企業が問題だという意味ではありません。むしろ守るべき技術だから管理されているのであって、当事者になることは技術力の証明でもあります。手続きを整えることは、その技術で海外と仕事をするための入口です。

まとめ

  • 三菱重工の提案3件が経産省の次世代革新炉支援事業に採択。うち1件が**国産技術による小型軽水炉(SMR)**の炉型・要素技術開発
  • SMRはIAEA定義で10万〜30万kW級。大型炉の3分の1以下で、工場製作して運ぶことを前提に設計される
  • 原発が大型化してきたのは規模の経済。立地・許認可・運転員の費用が出力によらずほぼ一定だから
  • 小型化は**「規模の経済」から「量産の経済」への転換**。工期短縮、初期投資の縮小、立地自由度の向上を狙う
  • 出力が小さいと崩壊熱も小さいため、ポンプや電源に頼らないパッシブ安全が成立しやすい。福島で失われたのはその動力だった
  • ただし**「小さいから安全」ではなく「小さいから成立する安全設計がある」**。規制も地域の理解も従来どおり必要
  • 三菱重工は炉だけでなくサプライチェーンまで含めて3件採択。つくれる供給網を国内に残すという意味で重い
  • 原子力は輸出令別表第1の2の項・NSG対応。貨物だけでなく技術が効き、新たに関わる部品メーカーも当事者になる

エネルギーの技術は、育つのに時間がかかります。10年、20年の単位です。だからこそ、こうして国内で開発が進む話は素直に応援したいと思っています。そのうえで、育った技術を海外と正しくやり取りするための足回りを整えるのが、私たちの仕事だと考えています。

自社の部品や技術が輸出管理の対象になるかを確認したい方は、お問い合わせからご相談ください。

Footnotes

  1. 三菱重工業株式会社「経済産業省『次世代革新炉の開発・建設に向けた技術開発・サプライチェーン構築支援事業』に当社提案3件が採択、国内適用を見据えて国産技術による小型軽水炉開発も推進」(2026年8月5日)。採択された3件の提案名、事業の正式名称と予算区分、高速炉が2040年代の運転開始・高温ガス炉が2030年代の実証炉建設を予定していることは、同リリースによる。https://www.mhi.com/jp/news/260805.html 2 3

  2. 経済産業省 総合資源エネルギー調査会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ「次世代革新炉開発ロードマップ」。革新軽水炉およびSMRが技術面で社会実装の段階にあるとする整理は同資料による。https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/kakushinro_wg/pdf/012_02_00.pdf

  3. 内閣官房 原子力関係閣僚会議(第14回)資料1「今後の原子力政策の方向性」(経済産業大臣、2026年7月31日)。次世代革新炉への資金供給機能の強化とSMR導入に向けた研究開発の加速に関する記載は同資料による。https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genshiryoku_kakuryo_kaigi/dai14/shiryo1.pdf

  4. IAEA "What are Small Modular Reactors (SMRs)?"。出力10MWe〜300MWe、モジュール化・標準化・工場製作を設計に織り込むという定義、Small / Modular / Reactor の3要素は同ページによる。https://www.iaea.org/newscenter/news/what-are-small-modular-reactors-smrs

  5. 三菱重工業株式会社「小型軽水炉」製品ページ。パッシブ安全システム、一体型原子炉、原子炉建屋の地下立地、海水冷却が不要で発電所敷地内の高台にも設置可能であること、熱利用・水素製造への活用想定は、同ページによる。https://www.mhi.com/jp/business/products-services/energy-environment/nuclear-power-generation/small-light-water-reactors 2 3 4

  6. 三菱重工業株式会社「革新軽水炉 SRZ-1200」製品ページ。出力規模、コアキャッチャー、二重の格納構造、ハイブリッド格納容器に関する記載は同ページによる。https://www.mhi.com/jp/products/energy/innovative_next_generation_pwr.html

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