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官民対話スキームの事前報告に永久磁石・ペロブスカイト太陽電池を含む8項目が追加(2026年8月16日施行)|リスト規制の許可とは別建ての「契約前報告」

公開2026-07-30濱本 隆太

2026年8月16日、経済産業省告示第71号が施行され、技術管理強化のための官民対話スキームの事前報告対象に、フィルム型・液状型のソルダーレジスト、窒化ガリウム半導体基板、永久磁石、ペロブスカイト太陽電池、X線用シンチレータの8項目が加わります。この報告義務はリスト規制の許可申請とは別建てで、契約締結前に提出しなければなりません。告示原文・制度概要資料・Q&A・e-Gov条文を一次情報で確認し、対象の判定軸、報告から官民対話・インフォームまでの流れ、社内フローに工程を差し込む手順を整理しました。

官民対話スキームの事前報告に永久磁石・ペロブスカイト太陽電池を含む8項目が追加(2026年8月16日施行)|リスト規制の許可とは別建ての「契約前報告」
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株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。2026年8月16日、輸出管理の担当者にとって見落としやすい改正がひとつ施行されます。経済産業省告示第71号(2026年6月16日公布)による、技術管理強化のための官民対話スキームの事前報告対象技術の追加です1

このスキームの厄介さは、規制の内容そのものよりも「どこにも引っかからないまま期日が来る」ところにあります。リスト規制の該非判定は多くの企業がCP(輸出管理内部規程)の工程として持っていますが、この事前報告は許可申請とは別建ての義務で、しかも経済産業省は本制度に合わせたCPの変更を要請していません2。結果として、契約締結の直前に誰かが気づくか、誰も気づかないまま契約が締結されるかの二択になりやすい構造になっています。

そこでこの記事では、8月16日に何が追加されるのかを告示原文の新旧対照表で確認したうえで、報告が必要になる条件を4つの軸に分解し、社内の契約プロセスにこの工程を差し込む手順まで整理します。

先に一点だけ確認しておきます。ある技術が「重要管理対象技術」に指定されることは、その技術を持つ企業や提供先の企業に問題があるという判断ではありません。これは制度上の区分です。対象になっているのは、日本のメーカーが長年積み上げてきた民生技術であり、経済産業省自身も「技術移転を止めることが目的ではなく、適切な技術管理を徹底することが目的」と明記しています3。この記事も、規制される側ではなく制度に向き合う当事者の立場で書きます。

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2026年8月16日に追加される8項目

まず結論です。新旧対照表で「(新設)」となっているのは6か所、個別の技術項目としては8項目が加わります1。いずれも「設計又は製造に係る技術」が対象で、貨物の輸出や使用に係る技術は対象外です2

分類 追加される技術(設計又は製造に係る技術)
イ(七)電子部品 フィルム型のソルダーレジスト(回路基板を被覆する絶縁材料として用いられるレジスト)
ハ(三)半導体集積回路の製造に用いられるもの 液状型のソルダーレジストであって、半導体の製造に用いられるもの
ハ(四)同上 窒化ガリウムの半導体基板、又はインゴット・ブール・その他のプリフォームであって、20度の温度における電気抵抗率が0.01オームセンチメートル以下のもの
リ 永久磁石(新設分類) 永久磁石
ヌ(一)太陽電池及びその製造に用いられるもの(新設分類) ペロブスカイト構造を有する化合物を用いる太陽電池セル、又はこれを直並列に接続した太陽電池モジュール(ペロブスカイト太陽電池セル以外のセルを積層したものを含む)
ヌ(二)同上 ペロブスカイト太陽電池セル又はモジュールの製造に用いられるレーザー加工機
ル(一)光学部品及びその製造に用いられるもの(新設分類) X線検出のために用いられるシンチレータ(焼結体又はシート状のものに限る)であって、出力される光のスペクトルの半値全幅が50ナノメートル未満のもの、若しくはその製造に用いられる蛍光体
ル(二)同上 上記シンチレータ(焼結体のものに限る)のアレイ

分類の記号(イロハ…)で見ると、改正前はイ(電子部品)、ロ(炭素繊維及び炭化けい素繊維)、ハ(半導体集積回路の製造に用いられるもの)、ニ(電子顕微鏡)、ホ(金属製品の製造に用いられるもの)、ヘ(蓄電池)、ト(ディスプレイの製造に用いられるもの)、チ(内視鏡)の8分類でした。今回リ・ヌ・ルが新設され、11分類に広がります1

注意したいのは、永久磁石が「リ 永久磁石の設計又は製造に係る技術」という、下位の細目を持たない書き方で入っている点です。他の分類は用途や数値で絞り込まれているのに対し、ここは磁石そのものの設計・製造技術が読める書き方になっています。自社が磁石を扱っている場合は、まずこの一行を条文で確認してから範囲の議論に入るべきだと思います。

なお、2026年8月16日以降の条文一体版(溶け込み版)は、本記事執筆時点(2026年7月30日)では公表を確認できていません。経済産業省のスキーム紹介ページに掲載されている告示は最終改正が2026年1月14日施行版のままです4。したがって上記の内容は、改正情報ページに掲載された新旧対照表15で確認できた範囲であることをお含みください。

8月16日より前の対象技術(19技術)

追加分だけを見ても自社の位置づけは判断できないので、既存分も並べておきます。経済産業省の制度概要資料(2025年11月)は、2025年11月14日現在の対象技術を①〜⑲として一覧化しています3

番号 対象技術 対象になった時期
積層セラミックコンデンサ 制度開始時(2024年12月30日適用)
弾性表面波フィルタ又はバルク弾性波フィルタ 制度開始時
電解銅箔(IPC-4562BのUと同等以上の回路基板用に限る) 制度開始時
誘電体フィルム(電動車のエネルギー制御装置に用いる平滑用フィルムコンデンサ用に限る) 制度開始時
チタン酸バリウム粉体の合成 制度開始時
炭素繊維のプリカーサーの製造及び焼成 制度開始時
炭化けい素繊維のプリカーサーの製造及び焼成 制度開始時
半導体用リソグラフィ用レジスト(248nm以下の波長の光で使用するよう最適化されたもの) 制度開始時
非鉄金属のターゲット材(EUV装置で形成する集積回路の配線工程用に限る)の製造に必要な技術 制度開始時
走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡 制度開始時
巨大磁気抵抗効果又はトンネル磁気抵抗効果を利用するセンサーの素子・磁気回路等 2025年6月9日
スポンジチタンの製造(マグネシウム還元法により塩化チタンからチタンを分離する工程の圧力・温度制御、破砕・梱包工程に限る) 2025年6月9日
リチウムイオン電池のバインダー物質(ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム又はポリアクリル酸を主成分とするもの) 2025年6月9日
硫化物固体電解質(ガラス状態は室温でリチウムイオン伝導度0.1mS/cm以上、結晶化ガラス・結晶化状態は1mS/cm以上) 2025年6月9日
リチウムイオン電池セパレータ製造用二軸押出機のスクリュー構成 2025年6月9日
量子ドット 2026年1月14日
有機ELディスプレイ用の熱活性化遅延蛍光(TADF)特性を有する材料 2026年1月14日
位相差フィルム 2026年1月14日
軟性内視鏡(先端硬性部の直径16mm以下)の挿入部で、次のいずれかに該当するもの=総画素数200万超/視野方向0度で視野角120度超/超音波内視鏡で視野方向が0度でなく視野角100度以上 2026年1月14日

8月16日以降は、この19技術に前節の8項目が加わる形になります。なお「合計27項目」という数え方は私が両者を足したもので、経済産業省が公表した数値ではありません。内訳で理解しておくのが安全です。

この一覧を見て気づくのは、ほぼすべてが日本の素材・部品メーカーの主力領域だということです。制度概要資料は技術の絞り込み基準を「他国が獲得に関心を持ち、我が国が不可欠性や優位性を持つ技術」としています3。つまり優位性のある技術ほど対象に入る設計であり、対象になったこと自体は、その企業や取引に問題があることを意味しません。

リスト規制の許可とは「別建て」であることの意味

ここが一番誤解されやすいところです。輸出管理の実務では、まずリスト規制(リスト規制とキャッチオール規制の違い)の該非を判定し、該当すれば許可を取ります。事前報告はその外側にある、もう一本の義務です。

経済産業省のQ&A1-1は「リスト規制技術の提供については、別途許可申請の対象となっており、本措置における報告の対象外となっています」と明記しています2。告示第二号を読むと理由がはっきりします。「重要管理対象技術」は、外国為替令別表16の項の中欄に掲げる技術、つまり補完的輸出規制(キャッチオール)の対象技術のうち、提供後に提供先で情報が適切に管理されない場合に一定のおそれが生じるものとして告示に列挙されたものに限られています6

二本の義務の違いを整理します。

観点 リスト規制技術の提供 官民対話スキームの事前報告
根拠 外為法に基づく役務取引の許可 外為法第55条の8(その他の報告)7
対象技術 リスト規制に該当する技術 外為令別表16の項の技術のうち告示に列挙されたもの6
求められる行為 許可の取得 報告書の提出
タイミング 提供前に許可を取得 契約締結前に提出6
対象国 仕向地により異なる 輸出令別表第三の27か国以外の外国68
対象となる技術の性質 設計・製造・使用 設計又は製造に係る技術のみ(使用は対象外)2
貨物 対象 対象外2
罰則 外為法第69条の7 外為法第71条第9号7

法令の階層も押さえておくと、社内で説明するときに効きます。外為法第55条の8が主務大臣に報告を求める権限を与え7、外国為替令第18条の8第1項が「省令で定める方法により、当該報告を求める事項を指定する」と受け9、貿易関係貿易外取引等に関する省令(貿易外省令)第10条第3項が「告示又は通知する方法により報告を求める事項を明示して必要な報告書の提出を命ずる」と定め、同第4項で「遅滞なく、報告書を提出しなければならない」としています10。その告示が、今回改正された告示です。法律→政令→省令→告示の4段構造で、期日と対象技術は最下層の告示で動くという形です。だから告示の改正情報を追っていないと気づけません。

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報告が必要かどうかを4つの軸で判定する

対象該当性は、技術・行為類型・相手国・タイミングの4つを掛け合わせて判断します。ひとつでも外れれば報告義務は生じません。

1つめ、技術です。 告示に列挙された品目の「設計又は製造に係る技術」であることが必要です。使用に係る技術は含まれず2、貨物の輸出そのものも対象になりません2。製造設備の設計・製造技術を提供する場合でも、それに伴って告示に掲げる品目の設計・製造技術を提供することがないのであれば対象外とされています2

2つめ、行為類型です。 制度概要資料は「当面は、現地子会社・合弁会社への製造移転、他国企業への製造委託・ライセンス供与など、他国での製造、製品開発を可能とする技術移転に限定する」としており、直接的な技術指導を伴わないライセンス供与は対象外と明記しています3。公開されている特許のライセンス供与も対象になりませんが、それに伴って公知ではないノウハウの提供や技術指導を行う場合は対象になり得ます2。提供先が100%子会社か現地合弁会社かは問いません2

3つめ、相手国です。 告示第一号は「輸出貿易管理令別表第三に掲げる地域以外の外国」への提供を対象としています6。別表第三の掲載国は、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国の27か国です8。ここに入っていない国はすべて対象になるので、メキシコ、インド、ASEAN各国、台湾といった、多くの日本企業が日常的に製造委託や合弁を行っている地域が広く含まれます。これは特定の国を狙った区分ではなく、別表第三という既存のグループ分けをそのまま使った結果です。正規の民生取引が広く入ってくるのは、制度設計上の帰結だと理解しておくのが実務的です。

4つめ、タイミングです。 「当該取引に係る契約を締結する前に」提出しなければなりません6。ここが従来の輸出管理の感覚と最もズレる部分です。許可申請なら「出荷前」「提供前」に間に合えばよいのに対し、この報告は契約という、技術がまだ動いていない段階で発生します。

そのうえで、告示第一号には除外が置かれています。イは貿易外省令第9条第2項各号(第7号・第8号を除く)に該当する取引です。同項は「許可を要しない役務取引等」を並べた条文で、第9号に公知の技術、第10号に基礎科学分野の研究活動、第11号に工業所有権の出願・登録に必要な最小限の技術が置かれています6210。ロは「専ら検査、試験又は品質保証を可能とする重要管理対象技術の提供を目的とする取引その他これに類する取引であって、省令第九条第二項第七号ロ若しくはニ又は第八号ロ若しくはニに規定するおそれが少ないことが明らかなもの」で、この「おそれが少ないことが明らかなとき」の具体例としてQ&A1-10が3つのケースを挙げています2

  • 品目の輸出に伴い、仕向地の国・地域の法令で義務付けられている技術情報の提供であって、その義務が他の国・地域においても一般的なものである場合
  • 工場見学の受け入れ等であって、その内容が特定の事業者に限定されるものではなく、求めに応じて不特定の取引先等に一般的に実施しているものである場合
  • 営業活動の一環として行う製品情報等の提供であって、その内容が特定の事業者に限定されるものではなく、求めに応じて不特定の取引先等に一般的に提供する内容である場合

除外に当てはまると判断した場合も、判断の根拠は書面で残しておいてください。除外の判断はどれも「公知かどうか」「技術指導を伴うかどうか」といった事実認定を含みます。そして報告義務があったかどうかは、契約日を起点に後から見られる可能性があります。判断した時点の資料が残っていないと、当時の判断を再現できません。

既存案件の「追加提供」が一番危ない

8月16日に向けた対応で最も見落とされやすいのは、新規契約ではなく既存案件です。

Q&A1-5は、施行前に完了した技術提供は遡及的に報告対象にならないとしつつ、「例えば追加的に新製品の図面や製法に関する情報を提供するなど、施行前には提供されていなかった新しい技術を提供する場合には、報告の対象となります」と明記しています2。既存の合弁先や委託先に対して、8月16日以降に新しい図面やレシピを渡すなら、それは報告の対象になり得るということです。

さらにQ&A1-14は、軽微な仕様変更について「性能向上のために追加的に技術提供が行われるような場合は、事業者側で軽微と認識していても、報告が必要になる可能性があります」としています。一方で「予め、今後のバージョンアップが想定される場合には、当該計画も含めて報告いただくことで、再度の報告が不要となる可能性もあります」とも書かれています2。改良を継続的に渡していく関係なら、案件単位で先にまとめて報告しておくほうが運用は軽くなります。

海外拠点への図面やレシピの流れは、そもそもみなし輸出図面の輸出管理と同じ流路を通ります。既に技術提供の棚卸しをしている企業なら、その台帳に列を1本足すのが最短ルートです。

報告した後は何が起きるのか

報告義務と聞くと身構えますが、制度の建て方を読むと、報告は入口であって終点ではありません。スキームは3段階で設計されています3

  1. 事前報告:外為法第55条の8に基づき、技術移転の契約前の報告を義務づける。「あくまでも官民対話の端緒としての報告であるため、必要最小限の報告事項とする(1枚の様式)」とされています。
  2. 官民対話:現状・課題を認識共有したうえで、支援策の検討、懸念情報の提供、具体的対策の助言等を通じ、官民で技術管理の方策を検討する。
  3. インフォーム:技術流出の懸念が払拭されない場合に、許可申請を求めるインフォームを発出する場合がある。ただし「原則として、対話を通じた信頼関係の下での解決を目指す」とされています。

制度概要資料は「技術移転を止めることが目的ではなく、適切な技術管理を徹底することが目的」と明記しており、官民対話の結果、技術管理に関する懸念が払拭されていればインフォームは行わないとしています3。政府側から提供される情報の中身も示されていて、取引先企業に関する懸念情報、他企業における技術流出や対策の事例、当該技術を巡る国際的な安全保障上の懸念動向などが想定されています2。自社だけでは集めにくい情報なので、対話の場をコストではなく情報源として使う発想が合理的だと思います。

スケジュール感も公表されています。インフォームの発出は、所管原課と事業者の官民対話における技術管理の検討状況を踏まえ、事前報告から原則30日以内に判断するとされています3。Q&A3-1も「契約締結日の何日前との定めはありませんが、経済産業省としては、許可申請を求めるインフォームの要否についての判断を原則30日以内に行うことを想定しています。ただし、内容によっては更なる時間を要する場合もある」として、可能な限り早期の相談を推奨しています2。契約の細部が固まっていない段階での事前相談も可能とされています2

報告の手続き自体は重くありません。経済産業省のページから様式(Word)をダウンロードし、記入して専用メールアドレス(bzl-gijutsukanri-jizenhokoku(at)meti.go.jp、(at)は@に置き換え)へ送付する方式で、様式の2枚目に記入例が付いています4。様式の中身については、私自身が今回ファイルを取得できなかったため、記入項目を具体的に列挙するのは控えます。確認できたのは「必要最小限の報告事項とする(1枚の様式)」という記述までです。

罰則は別建て・別水準。ただし段階的に運用される

社内で温度感を共有するときに必要なので、罰則も条文で確認しておきます。

報告義務違反は外為法第71条の対象です。同条は「六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金」を定め、第9号で「第五十五条の八の規定に基づく命令の規定に違反して、報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき」を挙げています。法人については第72条第1項第5号の両罰規定により各本条の罰金刑が科されます7

対して無許可の役務取引は第69条の7第1項第1号で「七年以下の拘禁刑若しくは二千万円以下の罰金…又はこれを併科」、法人は第72条第1項第2号で7億円以下(目的物価格の5倍が7億円を超えるときは当該価格の5倍以下)です7。桁が違います。詳細は外為法違反の罰則で整理しています。

重要なのは運用です。Q&A3-6は「報告漏れに対しては、外為法に基づく指導及び助言等を行う場合があります。これを経てもなお、改善の意思が見られないなど、悪質と判断される場合には、罰則の対象となる場合があります」としています2。制度概要資料も指導助言・改善命令が先に来ることを示しており3、産構審の中間報告も「仮に事前の報告を行わない場合、悪質なケースを除き、輸出者等遵守基準に基づき、丁寧な指導プロセスによる対応を図るべきである」としていました11。報告漏れが即座に刑事罰につながる制度ではありません。ただ、指導を受けてから直すのと、8月16日までに工程を作っておくのとでは、社内での説明のしやすさがまったく違います。

なぜ社内フローに工程が生まれないのか

ここが本題です。この制度は法令上は契約前の報告義務なのに、社内の手順書には載りにくい。理由が3つあると見ています。いずれも私の推測ではなく、確認できた事実です。

第一に、CPの変更が要請されていません。Q&A3-7は「本制度の導入に伴い、各事業者に対し、従来の輸出管理内部規程(CP)を変更することは要請していません」と明記しています。同時に「自主的に本制度の導入を踏まえたCPの内容変更を行うことは妨げません。変更を行った場合には、内容変更の届出を実施してください」とも書かれています2。CPは通常、外部から求められた項目を起点に改訂されます。要請がないため、CP改訂の議題に上がらず、結果として工程が生まれないという流れになります。

第二に、情報が2つのページに分かれています。2026年7月30日時点で、経済産業省の官民対話スキーム紹介ページ(anpo08.html)の関係法令欄が案内している告示は、最終改正が2026年1月14日施行版のままです。掲載されている制度概要資料も2025年11月版で、対象技術は①〜⑲の19技術です4。8月16日施行分は、改正情報ページ(law09-2.html)側に新旧対照表として載っています5。スキームのトップページをブックマークして定期確認している担当者ほど、追加に気づきにくい配置になっています。

第三に、Q&Aが追加技術に追随していません。Q&Aは「令和7年4月9日作成」「順次改訂予定」と明記された版で、2026年8月16日施行分に対応した改訂版は本記事執筆時点で公表を確認できていません。特にQ&A2-4は、本措置においてソルダーレジストは報告不要という趣旨の記述になっていますが、8月16日以降はフィルム型・液状型のソルダーレジストが対象に加わります12。8月16日以降の結論をこの旧記述で判断すると誤ります。

いずれも経済産業省の対応を批判する話ではなく、運用中の制度が段階的に拡大していく過程で生じている摩擦です。ただ、摩擦の存在を知らないまま契約を締結してしまうのは企業側の損失なので、事実として押さえておく価値があります。

8月16日に間に合わせる7つの手順

残り2週間強で何をするか。優先順位を付けて並べます。

1. 27項目と自社技術を突合する。 19技術+8項目のリストを持って、自社が設計・製造している品目と照合します。判定の単位は製品ではなく「設計又は製造に係る技術」です。製品カタログではなく、図面・レシピ・製造条件・治工具設計といった技術情報の側から棚卸しするほうが漏れません。今回の追加分では、ソルダーレジスト(フィルム型・液状型)、GaN基板・インゴット、永久磁石、ペロブスカイト太陽電池セル・モジュールとその製造用レーザー加工機、X線用シンチレータ・蛍光体・シンチレータアレイが該当領域です。

2. 8月16日以降に契約予定の海外案件を洗い出す。 現地子会社・合弁会社への製造移転、海外企業への製造委託、技術指導を伴うライセンス供与を対象に、締結予定日を並べます。相手国が別表第三の27か国以外であれば、報告要否の検討対象です。

3. 既存案件の追加提供予定を確認する。 前述のとおり、ここが一番抜けます。既存の委託先・合弁先に対して、8月16日以降に新しい図面や製法情報を渡す予定がないかを技術部門に確認します。バージョンアップが継続的に見込まれる案件は、計画ごとまとめて報告する選択肢も検討します2

4. 契約締結の直前に確認ゲートを置く。 稟議、法務レビュー、押印のいずれかの直前に「重要管理対象技術の事前報告の要否を確認済みか」というチェック項目を差し込みます。CP改訂を待たずに、契約審査のチェックリストや稟議フォームに1行足すだけでも成立します。CPを直す場合は内容変更の届出が必要です2。CP自体の作り方は輸出管理内部規程(CP)の作り方に整理しています。

5. 契約締結日から30日以上を逆算する。 インフォームの要否は原則30日以内に判断される想定ですが、内容により延びる場合もあるとされています2。契約日から逆算して30日、余裕を見て45日前に報告を出す運用にしておくと、判断待ちで締結が止まるリスクを抑えられます。細部が固まっていない段階の事前相談も可能です。

6. 除外と判断した場合の根拠を残す。 公知の技術だから、検査・品質保証目的だから、技術指導を伴わないライセンスだから——除外の判断はいずれも事実認定を含みます。判断者、判断日、根拠となる条項(告示第一号イ/ロ、貿易外省令第9条第2項の該当号)、判断の理由をセットで残します。報告した記録と同じ台帳に、報告不要と判断した記録も並べて置くのが実務的です。

7. 情報の追い方を変える。 スキーム紹介ページだけでなく、改正情報ページ(law09-2.html)も定期確認の対象に入れます。判断に迷う場合は、報告先と同じ専用メールアドレスが問い合わせ窓口になっています4

大学・研究機関も無関係ではありません。Q&A1-11は「共同研究という行為そのものは報告対象となりませんが、その中で設計・製造技術の提供が行われる場合は、当該行為は対象となります」とし、対象は「企業であるか、大学・研究機関であるかなど、主体の類型に関わらず、どのような技術提供を行うかにより判断する」としています2。判断軸は主体ではなく技術提供の内容です。産学連携で対象技術に触れる部門を持つ大学は、共同研究契約の締結プロセスに同じゲートを置く必要があります。

この制度が置かれた文脈

最後に、なぜこの形の制度になったのかを一次資料から補足します。

出発点は2024年4月24日に公表された産業構造審議会 通商・貿易分科会 安全保障貿易管理小委員会の中間報告です12。この報告に「技術管理強化のための新たな官民対話スキームの構築」が盛り込まれ、同年10月30日に関係する省令・告示が公布されました。告示自身は「令和六年十二月三十日から適用する」と定めています64

中間報告は、時間的経過に伴う軍事転用懸念を考慮することは既存のキャッチオール規定(貿易外省令第9条第2項第7号)に含まれており運用変更でも対応可能だとしつつ、当該条文が貨物のキャッチオール規定と同じ形になっているため、「今般導入すべきと考える措置を技術の提供に限って行う趣旨を明確化するための規定を設けることが適切である」としました11。技術は一度移転すると時間の経過とともに管理の難易度が上がるという性質への対応で、今回の措置は貨物を対象外としています311。キャッチオール規制そのものの構造はキャッチオール規制とはで解説しています。

企業側への配慮も報告に書き込まれていました。契約前の報告義務化について「対象となる技術や行為類型は法令上明示されるべきである」「ビジネスへの影響を最小化するため、プロセスにどの程度の時間を要するか、政府からあらかじめ示すことが必要」「対象技術の選定段階から産業界と調整し、企業が対象技術を保有することを自認できるよう努めるべきである」としています。行為類型についても、クロスライセンスのように効率性の観点から広く行われている取引や共同研究の全面規制はイノベーションの阻害になり得るとして、当面は限定し実際のケースに応じて見直すべきだとしていました11

そしてこの節(「2.2.技術管理強化のための官民対話スキームの構築」)は、次の一文で締めくくられています。「官民対話の枠組みに基づき、技術管理を強化していくことが必要である一方、その結果として、企業が海外におけるビジネスを阻害されることは避ける必要がある。政府は、本措置の運用に当たり十分な配慮を行うとともに、企業が実際に不当な事態に直面するような場合には、適切に対応することが求められる」11。この一文は、制度に向き合う企業側が引用できる材料だと思います。運用に不合理があると感じたときに、審議会が示した前提として持ち出せます。

対象技術の追加は、これまで2025年6月9日施行(告示第63号)と2026年1月14日施行(告示第166号)の2回行われ、8月16日施行の告示第71号が3回目にあたります11314。今回の6か所の追加を選定した理由を直接示す公表資料は確認できませんでした。直近の第19回小委員会は2026年4月10日に「安全保障貿易管理を取り巻く現状と今後の方向性について」を議題として開催されていますが、公表されているのは委員名簿・議事の取扱い・議事要旨で、検討資料は公表されていません15。選定理由を推測で語ることはしません。ただ、この追加ペースが続く前提で仕組みを作るほうが現実的だという点は言えます。

まとめ

  • 2026年8月16日、経済産業省告示第71号により官民対話スキームの事前報告対象に8項目(新設規定6か所)が加わります。ソルダーレジスト(フィルム型・液状型)、GaN半導体基板等、永久磁石、ペロブスカイト太陽電池とその製造用レーザー加工機、X線用シンチレータ・蛍光体・アレイです
  • この報告はリスト規制の許可申請とは別建てで、対象は外為令別表16の項の技術のうち告示に列挙されたものです。設計又は製造に係る技術のみが対象で、使用に係る技術と貨物は対象外です
  • 提出期限は「契約を締結する前」。対象国は輸出令別表第三の27か国以外の全ての外国で、多くの企業が日常的に取引する地域が広く含まれます
  • 経済産業省はCPの変更を要請していないため、社内の契約プロセスに工程が自然に生まれません。稟議・法務レビューの直前に確認ゲートを1行足すのが最小の対応です
  • インフォームの要否判断は原則30日以内が想定されており、契約日から逆算して余裕を持って報告するのが安全です
  • 報告漏れは指導・助言が先に来る段階的運用ですが、8月16日までに工程を作っておくほうが社内説明も楽になります
  • 対象技術の指定は制度上の区分であって、その技術を持つ企業や提供先の是非判断ではありません

告示の改正情報を追い、27項目と自社の技術台帳を突合し、契約プロセスの手前に確認ゲートを置く。作業自体は素朴ですが、対象技術が段階的に増えていく制度なので、一度作った突合表を更新し続ける体制が要ります。私たちが提供しているTRAFEEDは、該非判定と取引先スクリーニングをAIで支援して判定の証跡を残す仕組みですが、この事前報告のように「許可の外側にある義務」も同じ台帳の上で管理できるようにしておくと、告示が改正されるたびに棚卸しをやり直す手間が減ります。

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参考文献

  • 経済産業省 告示第71号 新旧対照表(2026年6月16日公布・2026年8月16日施行)
  • 経済産業省 安全保障貿易管理「関係法令・改正情報」
  • 経済産業省 貿易経済安全保障局「技術管理強化のための官民対話スキーム」(2025年11月)
  • 経済産業省 告示(重要管理対象技術を提供することを目的とする取引を行おうとする者に報告を求める事項)溶け込み版
  • 経済産業省「『技術管理強化のための官民対話スキーム』に関するQ&A」(2025年4月9日作成)
  • 経済産業省「技術管理強化のための官民対話スキーム」紹介ページ
  • 産業構造審議会 通商・貿易分科会 安全保障貿易管理小委員会 中間報告(2024年4月24日)
  • e-Gov法令検索 外国為替及び外国貿易法、外国為替令、貿易関係貿易外取引等に関する省令、輸出貿易管理令

Footnotes

  1. 経済産業省「経済産業省告示第七十一号 新旧対照表」(2026年6月16日公布、2026年8月16日施行) https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/kokuji/20260616_kokuji_2.pdf 2 3 4 5 6

  2. 経済産業省「『技術管理強化のための官民対話スキーム』に関するQ&A」(2025年4月9日作成、順次改訂予定) https://www.meti.go.jp/policy/anpo/250409_kanmintaiwa-qa.pdf 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24

  3. 経済産業省 貿易経済安全保障局「技術管理強化のための官民対話スキーム」(2025年11月、制度概要資料) https://www.meti.go.jp/policy/anpo/251114_kanmintaiwa-gaiyo.pdf 2 3 4 5 6 7 8 9

  4. 経済産業省「技術管理強化のための官民対話スキーム」(報告の手続き・関係法令。2026年7月30日取得時点で関係法令欄の告示は2026年1月14日施行版) https://www.meti.go.jp/policy/anpo/anpo08.html 2 3 4 5

  5. 経済産業省 安全保障貿易管理「改正情報」(令和8年6月16日の項に「官民対話による技術管理スキームに係る技術の追加」と記載) https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law09-2.html 2

  6. 経済産業省「貿易関係貿易外取引等に関する省令第十条第三項の規定に基づく重要管理対象技術を提供することを目的とする取引を行おうとする者に報告を求める事項」(告示第178号、最終改正 告示第166号・2026年1月14日施行の溶け込み版) https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/kokuji/20251114_kokuji.pdf 2 3 4 5 6 7 8

  7. e-Gov法令検索「外国為替及び外国貿易法」(昭和24年法律第228号)第55条の8、第69条の7、第71条、第72条 https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000228 2 3 4 5

  8. e-Gov法令検索「輸出貿易管理令」(昭和24年政令第378号)別表第三 https://laws.e-gov.go.jp/law/324CO0000000378 2

  9. e-Gov法令検索「外国為替令」(昭和55年政令第260号)第18条の8 https://laws.e-gov.go.jp/law/355CO0000000260

  10. e-Gov法令検索「貿易関係貿易外取引等に関する省令」(平成10年通商産業省令第8号)第9条第2項、第10条第3項・第4項 https://laws.e-gov.go.jp/law/410M50000400008 2

  11. 産業構造審議会 通商・貿易分科会 安全保障貿易管理小委員会「中間報告」(2024年4月24日)p.9〜p.11 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/anzen_hosho/pdf/20240424_1.pdf 2 3 4 5

  12. 経済産業省「産業構造審議会 通商・貿易分科会 安全保障貿易管理小委員会 中間報告」ページ https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/anzen_hosho/20240424_report.html

  13. 経済産業省「経済産業省告示第六十三号 新旧対照表」(2025年4月9日公布。附則により、技術追加に係る改正規定=イ(六)・ホ・ヘを加える部分は「公布の日から起算して二月を経過した日」=2025年6月9日施行)。同PDFは同日公布の告示をまとめたもので、第六十三号はp.48以降、附則はp.54 https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/kokuji/20250409_kokuji.pdf

  14. 経済産業省「経済産業省告示第百六十六号 新旧対照表」(2025年11月14日公布、2026年1月14日施行) https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/kokuji/20251114_houkokukokuji.pdf

  15. 経済産業省「第19回 産業構造審議会 通商・貿易分科会 安全保障貿易管理小委員会 議事要旨」(2026年4月10日開催) https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/anzen_hosho/pdf/019_gijiyoshi.pdf

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