こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
「中国製造2025」という言葉は、ニュースで10年近く見かけます。米中の対立で名前が出たかと思えば、いつの間にか聞かなくなり、最近はレアアースの輸出規制の話題の裏で「依存を高める国家戦略だ」という言い方も出てきました。ところが、この計画の原文を最後まで読んだ人は、実務の現場でもほとんどいません。私もこの記事を書くまでは、二次情報の印象で語っていた部分がありました。
先に結論を書きます。中国製造2025は、2015年5月に国務院が公布した製造業の10年計画で、10の重点分野を定め、2025年・2035年・建国100周年の三段階で製造強国をめざすものです。原文が数字で掲げているのは、研究開発費の比率や基幹部品の自主保障率などで、「他国の対中依存を高める」という目標は書かれていません。ただし、習近平氏は2020年の論文で、国際的な産業チェーンの対中依存関係を強めることに触れています。そして米国の研究機関などは、現在の中国の産業政策が各国の依存を深めていると評価しています。この3つは別々の話です。本稿は、原文で確かめた事実と、誰かの評価を分けて並べます。
この記事で分かることは次のとおりです。中国製造2025の原文に何が書かれているか。10大分野と数値目標のうち、確かめられた数字はどれか。名前が消えたあと、政策はどうなったか。「対中依存を高める戦略」という見方は誰がどの文書で述べているか。そして日本企業は何を備えればよいか。中国の輸出管理の中身そのものは別の記事で詳しく扱っているので、ここでは産業政策との関係に絞ります。
先に押さえる言葉
最初に、この記事で繰り返し出てくる言葉を表にまとめます。ここを押さえると、あとの説明がずっと読みやすくなります。
| 言葉 | 意味 | 日常の例え |
|---|---|---|
| 国務院 | 中国の中央政府。日本でいえば内閣にあたる機関 | 会社全体の経営会議 |
| 産業政策 | 政府が特定の産業を育てるために立てる計画や支援策 | 町が「この通りを商店街として育てよう」と決めること |
| 自主保障率 | 基幹部品や材料のうち、国内の供給で確保できる割合 | 厨房で使う出汁や調味料を自家製でまかなえる割合 |
| 五か年計画 | 国の経済・社会の方針を5年ごとにまとめる中国の基本計画。2026年から第15次 | 5年ごとに作る中期経営計画 |
| 新質生産力 | 習近平氏が2023年に打ち出した用語。技術革新を軸にした新しい生産力 | 古い設備の増強ではなく、新しい厨房の作り方そのもの |
| 産業チェーン、供給網 | 原料から部品、完成品、販売までのつながり | 料理が出るまでの仕入れから配膳までの流れ |
| 両用品目 | 民生にも軍事にも使える物品や技術。輸出管理の対象になる | 包丁のように、使い道が料理にも別の用途にもなる道具 |
| 武器化 | 供給や取引を、相手に圧力をかける手段として使うこと | 仕入れ先が、値段ではなく交渉のために納品を止めること |
「依存」という言葉は、この記事で2つの向きを持ちます。中国が他国に頼っている部分を減らすという向きと、他国が中国に頼る部分が増えるという向きです。前者は自国の自立、後者は他国への影響にあたります。同じ「依存」でも向きが違うので、どちらの話をしているのかを毎回確かめながら読み進めてください。
2015年の原文には何が書かれているか
中国製造2025の正式名は「国務院による『中国製造2025』印刷配布に関する通知」で、文書番号は国発〔2015〕28号です。成文は2015年5月8日、中国政府網での公布は5月19日でした。中国政府網の掲載ページには「本文有删減」、つまり本文の一部を省いているという注記があります1。全文ではない可能性があることは、最初に断っておきます。
文書の骨格は、基本方針と三段階の目標、10の重点分野、そして数値の指標で成り立っています。基本方針として挙げられているのは、イノベーション駆動、品質優先、グリーン発展、構造の最適化、人材重視の5つです。基本原則には「市場主導、政府引導」「自主発展、開放合作」といった言葉が並びます。自主と開放の両方が書かれている点は、あとで効いてくるので覚えておいてください。
三段階の目標は、原文では「三步走」と呼ばれます。第一段階は「十年の時間をかけて製造強国の仲間入りを目指す」で、2020年には基本的に工業化を実現するとされています。第二段階は「2035年に、我が国の製造業全体が世界の製造強国の中位水準に達する」です。第三段階は「新中国成立100周年のとき」に、総合力が世界の製造強国の前列に入るという内容です1。ここで気づいた方もいるでしょう。原文に「2049年」という数字は出てきません。建国100周年は1949年の建国から数えて2049年にあたるため、米国議会調査局(CRS)などの解説は「2049年」と書いていますが、原文の言葉は「建国100周年」です。
数値の指標は、2020年と2025年の2時点で並んでいます。確かめられたものを抜き出すと次のようになります。
| 指標 | 2020年 | 2025年 |
|---|---|---|
| 規模以上製造業の研究開発費の比率 | 1.26% | 1.68% |
| 売上高1億元あたりの有効発明特許の数 | 0.70件 | 1.10件 |
| ブロードバンドの普及率 | 70% | 82% |
| デジタル設計ツールの普及率 | 72% | 84% |
| 重要工程の数値制御化率 | 50% | 64% |
これらは研究開発やデジタル化の底上げを測る指標で、特定の外国企業や外国製品を名指しするものではありません。いちばん「国産化」に近い数字は、専欄3の産業基盤強化の項にあります。「2020年までに40%の核心基礎部品・重要基礎材料で自主保障を実現し、2025年までに70%で実現する」という記述です1。ここでの対象は、あらゆる製品ではなく、基盤になる部品と材料です。しかも原文は「受制於人」、つまり人に制約される局面を徐々に緩和する、と目的を述べています。
ここが、世間の印象と原文のずれやすい場所です。「2025年までに半導体の自給率70%」のような数字は、原文の本文では確認できませんでした。分野別に国内市場でどれだけのシェアをとるかという数値は、本文ではなく別の技術路線図に書かれているとされ、米国議会調査局は、農業機械や基礎材料で90%超、先進的な船舶や電気自動車、電池などで80%、産業ロボットや先進医療機器で70%という目標が2025年から2030年にかけて置かれた、と紹介しています2。私は路線図の原文をまだ直接読めていないので、この点は「CRSの紹介による」として扱います。
10の重点分野は、原文では次の順に並びます。一覧にして、それぞれが身近なところで何を指すのかを添えます。
| 番号 | 原文の分野名 | 身近なところでの例 |
|---|---|---|
| 1 | 次世代情報技術産業 | 半導体、通信機器、ソフトウェア |
| 2 | 高級数値制御工作機械とロボット | 金属を削る機械、工場の産業用ロボット |
| 3 | 航空宇宙装備 | 旅客機、人工衛星、ロケット |
| 4 | 海洋工程装備と高技術船舶 | 洋上の掘削設備、大型の特殊船 |
| 5 | 先進軌道交通装備 | 高速鉄道、地下鉄車両 |
| 6 | 省エネルギー・新エネルギー車 | 電気自動車、電池、燃料電池車 |
| 7 | 電力装備 | 発電機、送配電の機器 |
| 8 | 農業機械装備 | トラクター、収穫機 |
| 9 | 新材料 | 特殊な金属、軽くて強い素材、電子材料 |
| 10 | バイオ医薬と高性能医療機器 | 新薬、画像診断装置 |
この10分野は、日本企業が普段から取引している領域とかなり重なります。製造装置、素材、電池、自動車部品、医療機器と並べると、「他人事の国家計画」とは言い切れないことが分かります。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
名前が消えたあとも、方針は続いた
ここからは、原文のあとに起きたことを時系列で見ます。ただし、この節の記述の多くは、中国の公式文書そのものではなく、米国や欧州の機関による評価と報道です。評価する側にも立場があるので、誰が言っているかを必ず書き添えます。
| 時期 | 出来事 | 誰の記述か |
|---|---|---|
| 2015年5月 | 国務院が中国製造2025を公布 | 国務院の原文1 |
| 2016年〜2017年 | ドイツのメルカトル中国研究所(MERICS)、在中国EU商工会議所、米国商業会議所が相次いで評価報告書を公表。国家主導の産業政策が市場を歪めるおそれを指摘 | 後年の報告書による紹介3 |
| 2018年 | 米国が通商法301条にもとづき、中国からの輸入の大半に追加関税。CRSは、中国製造2025が米国の政策の焦点だったと記す | CRS2 |
| 2018年12月 | 地方政府向けの重点事項の一覧から中国製造2025が外れたと報道 | 財新4 |
| 2019年3月 | 政府活動報告(35ページ)に中国製造2025への言及がなかったと報道 | タイム誌4 |
| 2020年10月 | 習近平氏の論文で、産業チェーンの自主可控と、国際的な産業チェーンの対中依存関係に言及 | 習近平氏の原文5 |
| 2023年9月 | 習近平氏が黒竜江省の視察で「新質生産力」を提起 | 中国社会科学網6 |
| 2025年5月 | ロディウム・グループが「中国製造2025は成功したか」を公表。多くの目標は達成に近づき、先端半導体などに課題が残ると評価 | 同グループの後年の報告書による紹介3 |
| 2026年3月 | 全国人民代表大会が第15次五か年計画の綱要を採択 | 新華網7 |
読み取れるのは、名前が消えたことと、中身が消えたことは別だという点です。2019年の件については、政府活動報告の字数の制約という説明もあれば、米国との摩擦への配慮という見方もあり、理由は一つに決まっていません。報道は両方を伝えています4。私が確かめられたのは、名前が報告から外れたという事実までです。
後継の言葉として今よく出てくるのが、新質生産力です。習近平氏が2023年9月の黒竜江省での視察で提起し、2024年1月の中央政治局の集団学習で体系的に説明したと中国の公式メディアは伝えています6。第15次五か年計画の綱要では、第3篇の題が「ハイレベルな科学技術の自立自強を加速し、新質生産力を牽引する」で、第2篇の序文には「製造強国、品質強国、航天強国、交通強国、ネットワーク強国の建設を加速し、製造業の合理的な比重を保つ」とあります7。製造強国という目標は、名前を変えて残っていると読めます。
一点だけ、確認の限界を書いておきます。綱要の全文を言葉で検索した範囲では、「中国製造2025」という名称は見つかりませんでした。ただ、全文を一行ずつ読み通したわけではないので、「一度も出てこない」と断定はしません。
また、綱要の第2篇第4章第2節「産業チェーンの自主可控水準を高める」には、「産業チェーン・供給網の安全リスク評価と対応の仕組みを整える」「レアアース、希少金属、超硬材料などの競争優位を持続的に強める」という記述があります7。この一文は、次の節で扱う論点とつながります。
「対中依存を高める戦略」という見方を、事実と評価に分ける
今回のご依頼にもあった、「対中依存を増やしたいという国家戦略もある」という見方を取り上げます。この言い方は強いので、そのまま受け取らず、3つの層に分けて確かめます。
1つ目の層は、2015年の原文です。原文が目指しているのは、中国自身の基幹部品と材料を、国内で確保できる割合を上げることでした。つまり「中国が他国に頼る部分を減らす」という向きです。他国の対中依存を高めるという文言は、私が読んだ範囲では見つかりませんでした。米国議会調査局も、中国製造2025の中核を、世界の製造バリューチェーンでの位置を上げ、重要技術で外国企業への依存を減らすことと整理しています2。
2つ目の層は、習近平氏の2020年の論文です。「国家の中長期の経済社会発展戦略の若干の重大問題」と題する文章で、2020年4月10日の中央財経委員会での講話をもとに、『求是』誌に載りました。そこには次の趣旨の記述があります。産業チェーン、供給網は重要な局面で途切れてはならない。重要な製品と供給ルートには、少なくとも1つの代替の供給源を持ち、必要な産業のバックアップの仕組みをつくる。そして、長所を伸ばして「国際的な産業チェーンの我が国に対する依存関係を引き締め、外国側が人為的に供給を断った場合に、強力な反制と抑止の能力を形成する」というものです5。
同じ論文には、産業チェーンの政治化や武器化に断固反対するという記述も並んでいます5。ここが大事なところです。中国の最高指導者の公式文章に、「他国の依存関係を強めて、供給を断たれたときの抑止力にする」という趣旨が書かれているのは事実です。同時に、同じ文章が供給網の武器化への反対も述べています。片方だけを切り取って「中国は依存を武器にする計画だ」と言い切ることも、逆に「そんな考えは公式には存在しない」と言うことも、どちらも原文に合いません。私の読みでは、これは「自国が断たれることへの備え」と「相手に断たれることを思いとどまらせる力」を両立させようとする、防御の論理として書かれています。ただしそれを他国から見れば、依存を深められる側に立つことになります。
3つ目の層は、第三者の評価です。ロディウム・グループが2026年5月11日に公表した報告書(米国商業会議所が序文を寄せています)は、中国の産業政策が、上流の原材料や設備、先端技術にまで及ぶ「あらゆるもの」への政策に広がり、各国の中国の供給網への依存が深まっていると述べます。数字として、中国が世界の輸出の50%超を占める品目の数が、2021年から2024年に192から315へ増えたと示しています。さらに、北京が重要鉱物などの管理を強め、各国の分散の動きを抑える政策手段を使っていると評価しています3。
ここで、評価する側の立ち位置も確かめておきます。この報告書は米国の民間シンクタンクが作り、米国の経済団体が序文を寄せたものです。分析の数字は公開統計にもとづいていますが、「北京は意図して各国の分散を妨げている」という部分は、報告書の評価であり、中国政府が認めた事実ではありません。EUの在中国商工会議所の2017年の報告書も、国家主導の施策が市場を歪めるおそれがあると指摘しましたが、私は原本の入手ができなかったため、ロディウムの報告書にある引用を通じて確認した範囲にとどめます3。
整理すると、次の表のようになります。
| 層 | 誰が | どの文書で | 言っていること | 性格 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 国務院 | 国発〔2015〕28号(2015年) | 基幹部品・材料の自主保障率を上げる | 公式な目標 |
| 2 | 習近平氏 | 『求是』論文(2020年) | 産業チェーンの対中依存関係を引き締め、反制と抑止の能力を持つ。同時に武器化に反対 | 最高指導者の公式文章 |
| 3 | ロディウム・グループ | 報告書(2026年5月) | 依存が深まり、分散の動きを抑える政策手段も使われている | 第三者の評価 |
| 3 | 米国議会調査局 | In Focus(2026年6月更新) | 外国企業への依存を減らし、供給網のあらゆる部分で主導的になる狙い | 米国議会の調査機関による整理 |
私の考えを書きます。「対中依存を高める国家戦略」という言葉は、実務では便利ですが、使うときは気をつけたいと思っています。公式の計画書に「依存を高める」という目標が書かれているわけではないからです。一方で、各国の調達が結果として中国に集中し、中国の輸出管理の変更が各国に直接響く構造は、統計で確認できる現実です。戦略の意図を断定するより、構造のほうを見て備える。それが実務家の態度として堅いと考えています。
なお、中国の輸出管理法の全体像は、別の記事で体系的に整理しています。法律の層構造や許可の仕組みを知りたい方は中国輸出管理法と両用品目輸出管理条例の体系図をご覧ください。
輸出管理とのつながり
産業政策と輸出管理は別の制度ですが、同じ産業チェーンの上で作用します。産業政策は、中国国内の供給能力を育てます。輸出管理は、育った品目を国外へ出すときのルールを決めます。育てる制度と出口を管理する制度は、制度としては独立していても、品目の面ではつながっていきます。
中国の輸出管理法は、2020年10月17日に全国人民代表大会常務委員会で採択され、同年12月1日に施行されました。第1条は、国家の安全と利益を守ること、不拡散などの国際義務を履行すること、輸出管理を強化し規範化することを、目的として掲げています8。公式の目的は安全保障と不拡散であり、産業政策ではありません。この点は正確に書いておきます。
そのうえで、実務への影響は産業政策の成果とも重なります。たとえばガリウムについては、米国地質調査所(USGS)の統計で、中国が一次低純度ガリウムの世界生産のおよそ99%を占めると整理できます。こうした品目で輸出管理の運用が変わると、他国の調達は直接の影響を受けます9。第15次五か年計画の綱要が「レアアース、希少金属、超硬材料などの競争優位を持続的に強める」と書いていることも、この文脈で読めます7。計画の文言と、実際の輸出管理の運用は、別の文書で動いています。私が確かめた範囲では、綱要の文言が個別の輸出管理の措置を指示しているとまでは読み取れません。
品目ごとの規制の中身は、すでに別の記事に詳しくまとめました。レアアースの元素別の規制と停止中の措置、期限の動きは中国レアアース輸出規制マップで、ガリウムとゲルマニウムがなぜ「脱中国」しにくいのかはガリウムの代替調達の現在地で扱っています。本稿は、それらの規制が「どんな政策の流れの上にあるか」を説明する位置づけです。
ここで、中立の観点から一言添えます。ある国が産業を育てることも、ある国が輸出を管理することも、各国が自国の事情で行っている政策の一部です。日本にも経済安全保障推進法があり、特定重要物資の安定供給を図る制度があります。本稿は、中国政府の政策を良い悪いで評価する記事ではありません。企業が自社の調達と輸出入に何が起こりうるかを、原文にもとづいて把握するための整理です。
日本企業への影響と備え
影響の大きさは、会社の事業によって大きく違います。以下の例は、実在する特定の企業の話ではなく、考え方を示すための仮の例です。
たとえば、ある部品メーカーが、電気自動車向けのモーターに使う磁石を中国の素材商社から買っているとします。この会社が気をつけるのは、磁石そのものの調達先だけではありません。磁石の材料になるレアアースの精錬が、さらに上流のどこで行われているか。その上流の工程が、中国の輸出管理の対象品目に入っているか。この二次、三次の供給元まで見えているかどうかで、規制が動いたときの対応の速さが変わります。
備えの進め方を、順番にまとめます。
最初にやるのは、部品表の棚卸しです。自社の製品を構成する材料と部品について、供給元が1社しかないもの、特定の国に集中しているもの、代替の調達先が見つかりにくいものに印をつけます。全部は難しいので、「止まったら事業が止まる」ものから始めます。
次に、直接の取引先の先を見ます。一次取引先までは把握していても、その先の原料や加工の所在が見えていない例は少なくありません。二次・三次以降の供給元が見えない状態は、規制や災害が起きたときに、影響の範囲を自社で説明できないというリスクになります。
三つ目に、代替調達と在庫の方針を、説明できる形にします。調達先を増やす、在庫を積む、設計を変えて別の材料を使う。どれもコストがかかります。だからこそ、なぜその水準なのかを社内と取引先に説明できる状態が必要です。
四つ目に、輸出管理の側の確認です。中国の規制が変わったとき、自社の取引先や品目に何が及ぶのかを、定期的に確かめる運用を持ちます。公告の番号と日付、対象の品目、域外適用の有無を、担当者の記憶ではなく記録として残します。中国が日本の事業者を対象にした措置の読み方は、中国の対日輸出規制リストの仕組みにまとめています。
最後に、国内の制度との接続です。経済安全保障推進法の4つの柱と、供給網に関わる特定重要物資の仕組みは、経済安全保障推進法の解説で初心者向けに整理しています。自社が支援を受けられる側なのか、報告を求められる側なのかを知っておくと、調達の見直しの優先順位をつけやすくなります。
一つ、強調しておきたいことがあります。「中国の部品を使わない」ことを目標にする必要はありません。多くの日本企業にとって、中国は大きな市場であり、重要な調達先です。目標は、依存の中身を把握し、止まったときの代替手段を持つことです。断つのではなく、見える状態にする。それが、備えの出発点だと私は考えています。
よくある誤解と、これから確かめること
最後に、実務の現場でよく聞く誤解を整理します。
誤解の一つ目は、「中国製造2025は2025年で終わる計画だ」というものです。計画の期間は2025年までですが、原文の三段階の目標は2035年、建国100周年まで続いています。名称への言及が減っても、製造強国という方針は第15次五か年計画の綱要に引き継がれていると読めます7。
二つ目は、「原文に、国産化率の細かい数値がたくさん書かれている」という思い込みです。本文で確かめた国産化に近い数字は、基幹部品・材料の自主保障率の40%(2020年)と70%(2025年)でした1。分野別の市場シェア目標は別の路線図にあるとされ、私は原文を読めていません2。
三つ目は、「目標が達成されたから中国は成功した」という単純な見方です。ロディウム・グループは、多くの目標に近づいた一方で、高性能の半導体、先進的な航空機、バイオ医薬などでは技術の差が残ると評価しています3。米国議会調査局も、先端ロジック半導体や航空宇宙の分野で外国に頼る部分が残るとしています2。成功と課題は、同時に存在します。
四つ目は、「産業政策と輸出管理は同じものだ」という誤解です。公式の目的は、輸出管理法では安全保障と不拡散です8。ただし、品目の面でつながり、各国の調達に影響する点は、前の節で書いたとおりです。
今回、私が確認できなかった点も書いておきます。中国製造2025の「技術路線図」の原文、MERICSと在中国EU商工会議所の報告書の原本、米国通商代表部の2018年の301条調査報告書は、直接は読めていません。また、日本政府が中国製造2025をどう位置づけているかについても、今回は経産省の資料を取得していません。これらは、確認でき次第、この記事を更新します。
最後に、読者の方へ。この記事を読んで、まず一つだけ手を動かすなら、自社の部品表から「中国への依存度が高く、代替が見つかりにくい」材料を3つ選んでみてください。3つ書き出すだけで、会社として次に何を確かめるべきかが具体的になります。調達の見直しは大きな話に見えますが、最初の一歩は小さな棚卸しです。
取引先の確認や輸出管理の体制づくりでお困りの場合は、輸出管理AIエージェントのTRAFEEDの資料もご覧いただけます。最終的な該非判定は貴社の輸出管理責任者が行うものですが、取引先のスクリーニングや判断の記録を残す作業の負担を軽くする目的で設計しています。自社の現在地を確かめたい方は輸出管理体制の無料診断、個別のご相談はお問い合わせからどうぞ。
Footnotes
-
中華人民共和国国務院「国务院关于印发《中国制造2025》的通知」国発〔2015〕28号(成文2015年5月8日、中国政府網掲載2015年5月19日)。掲載ページに「本文有删减」の注記がある。基本方針、三步走、10大重点領域、専欄3の自主保障率(2020年40%、2025年70%)、指標表を確認。確認日2026年11月6日。https://www.gov.cn/zhengce/content/2015-05/19/content_9784.htm ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
Karen M. Sutter, Made in China 2025 and China's Industrial Policies, Congressional Research Service In Focus IF10964, 2026年6月1日更新(米国議会調査局。議会の調査機関の整理で、中国政府の見解ではない)。分野別の国内需要シェア目標は同資料による路線図の紹介で、路線図の原文は未確認。確認日2026年11月6日。https://www.everycrsreport.com/files/2026-06-01_IF10964_5212a2c3e736cf26cddacd12bbe525ef8e251171.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
Camille Boullenois, Malcolm Black, Alessia Caruso(Rhodium Group), China's Next-Generation Industrial Policy, 2026年5月11日(米国商業会議所の序文つき)。MERICS(2016年)、在中国EU商工会議所(2017年)、米国商業会議所(2017年)の報告書の引用、2025年5月の評価、50%超の品目数192から315も同報告書による。第三者の評価であり、中国政府の見解ではない。確認日2026年11月6日。https://rhg.com/research/chinas-next-generation-industrial-policy/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
財新「Chart of the Day: 'Made in China 2025' Dropped From List of Local Government Priorities」(2018年12月12日)https://www.caixinglobal.com/2018-12-12/charts-of-the-day-made-in-china-2025-dropped-from-list-of-local-government-priorities-101358524.html 。TIME誌の記事(2019年3月6日。政府活動報告35ページに言及がなかったとの記述)https://time.com/5545587/china-npc-parliament-economy-li-keqiang 。いずれも報道。確認日2026年11月6日。 ↩ ↩2 ↩3
-
習近平「国家中长期经济社会发展战略若干重大问题」(『求是』2020年第21期。2020年10月31日に中国共産党員網が掲載。2020年4月10日の中央財経委員会第7回会議での講話)。確認日2026年11月6日。https://www.12371.cn/2020/10/31/ARTI1604128572880515.shtml ↩ ↩2 ↩3
-
中国社会科学網「加快形成新质生产力 增强发展新动能」(2023年12月)。2023年9月の黒竜江省視察での提起を記す。https://cssn.cn/glx/glx_tpxw/202312/t20231220_5719784.shtml 。2024年1月の中央政治局集団学習については、求是網系の解説(https://www.12371.cn/2024/03/18/ARTI1710746163954458.shtml)の記述による。確認日2026年11月6日。 ↩ ↩2
-
新華網「国民経済と社会発展第十五個五年規劃綱要」全文(2026年3月13日掲載、https://www.news.cn/politics/20260313/085af5de5a4b4268aa7d87d90817df2f/c.html )。第14期全国人民代表大会第4回会議の決議は2026年3月12日(https://www.news.cn/20260313/f2c5c2043ca34805835e1384958782da/c.html )。第2篇の序文、第4章第2節、第3篇の題、第3章の目標を確認。「中国製造2025」の名称は検索した範囲で確認できず。確認日2026年11月6日。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
「中华人民共和国出口管制法」(2020年10月17日、第13期全国人民代表大会常務委員会第22回会議で採択、2020年12月1日施行)。第1条の目的規定は人民日報掲載の全文による。確認日2026年11月6日。https://paper.people.com.cn/rmrbwap/html/2020-10/29/nw.D110000renmrb_20201029_1-14.htm ↩ ↩2
-
U.S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries 2026: Gallium. 確認日2026年11月6日。https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2026/mcs2026-gallium.pdf ↩






